Le moineau 番外編

今日は甘い豆乳で朝ごはん

実を言うと、今日は私の誕生日なのである。いくつになったかは……あまり言いたくないけども。
そして帰国日でもある。飛行機は午後だ。空港に向かうお昼頃まで、時間を有効に使おうではないか!

本日の最優先ミッションは「開店直後の鼎泰豐 [WEB] で小籠包を食べる」ことである。だけど、昨日のことがあるから、10時過ぎまでヒナコを空腹にさせておくわけにはいかない。何かお腹に少し詰め込んで、血圧の薬を飲ませておかなくては。空港バスに乗ろうとして倒れちゃいました…ではシャレになりませんから。
そういうわけで、今朝の朝ごはんは、ホテルの前に並んでいる店のどれかからお持ち帰りすることに。
ホテル斜め向かいの水煎包の店には、7〜8人が並んでいた。商品は2種類の水煎包とカップ入りの温かい豆漿のみ。お姉さんは額に汗を光らせながら、じゅうじゅうと水煎包を焼いている。高麗菜包と韮包を1個ずつと豆漿を2つ購入、隣のおじさんの店のサンドイッチがなんだか美味しそうだったので、これも1個購入。おじさんのところには卵をトッピングした大根餅などもあって、激しく心を揺さぶられたが、小籠包ミッションのためには今ここで満腹になってしまっれはいけないのである。ぐっと我慢。

ホカホカの朝ごはんを抱えて嬉しくなり、スキップらんらんらんでホテルに戻ろうとしたが、スキップするまでもなくほんの10歩ほどで着いてしまうのであった。

ズラッとお手軽な店が並ぶ懐寧街。みんな出勤途中に買って行く。手前の店で豆漿と水煎包を、隣の店でサンドイッチを購入

豆乳10元、水煎包12元、サンドイッチ30元、合計74元(約240円)! 日本ならひとり120円じゃあ、缶コーヒーしか買えないんですけど……

中身ぎっしり、焦げ目カリカリ、うま〜〜♪

肝心のお味であるが、水煎包は士林夜市で食べたものよりずっと美味しかった。あっちの高麗菜包はキャベツと春雨だけであっさり物足りなかったが、こっちはジューシーお肉とキャベツのコラボレーション。韮包はもっと美味しい。みっしりニラが入っている。ほわ〜〜んと温かい豆乳も、ほんのり甘く幸せに胃袋に滲みていく。まあ、水煎包も豆乳も想像した範囲で美味しかったのであるが、意外だったのが三明治(サンドイッチのこと)であった。

一見したところコンビニの三角サンドと同じ形態だが、パン4枚の間にハムと卵とコーンマヨネーズ3種類の具がはさまり、一枚重ねで食べるようである。取り出して手に持ってみると、食パンがマシュマロのように柔らかい。ハムは軽く焼いてある。卵は薄焼きにしてある。コーンは白っぽくて、日本のものの半分くらいの小粒だ。台湾のマヨネーズは甘いっていうからな……どうだろう? ぱくりと噛み付いてみると…あれッ? 何? なんかコレ美味しい?
マヨネーズにはほとんど酸味がなくて、確かに甘い。ところが、この黄色くなくて小っちゃいコーンもとっても甘いのである。この甘いマヨネーズを野菜にかけたりするのはちょっとどうかなあという感じなのだが、この三者とは妙にマッチングしていた。ちゃんとハムの味がして卵焼きの味がしてコーンの味がするのだが、なんか、お菓子を食べてるみたいなのだ。不思議美味しいサンドイッチ……。

待ってろよ、小籠包!

台湾に来ると必ず食べる鼎泰豐[WEB]の小籠包。そんな騒ぐほどの味ではないとか、値段が高すぎる(台湾の他の食事が安すぎるとも言うが)とか、どこそこの店の方が美味しいとか……「鼎泰豐の小籠包はホントに台湾で一番ウマイのか論争」は繰り返されていて、決着はついていない。でもさ、他店の小籠包を評価するのに「鼎泰豐よりも」とか「鼎泰豐に比べて」とか、いちいち引き合いに出してるわけでしょ? それってやっぱり「まず鼎泰豐の小籠包ありき」ということが核になっているわけじゃない?……などと、私は思うわけ。

とにかく私は、初回の出会いで惚れ込んでしまったのだから。よって、誰が何を言おうと、どこの店にも浮気はしません。台湾で小籠包を食すなら、鼎泰豐! ちなみに、日本全国の高島屋に支店を出しまくっているが、こちらは全然評価していませんから。あくまで、at Taipei 限定なのである。

いつもは交通の便が悪くとも必ず永康街の本店に行っていたが、今回は台北市内に3軒目となる忠孝復興店にする。最近できた店鋪で、MRT駅に直結したSOGOの地下にあるのだが、ここだけ開店が10時から(他2店は11時〜)なのである。帰国日なので少しでも早い方がいいし、駅直結であれば移動時間が正確に読める。

よしよしよ〜し、待ってろよ、小籠包。今から食べに行くからね! その前に昨日一昨日とドカドカ買い込んでしまった食品やお茶を荷造り荷造り。チェックアウトを済ませ、余分な荷物をフロントに預けて、GO!GO!ショーロンポー

忠孝復興駅の直結改札を出ると、そこはいわゆるデパ地下であった。SOGOデパート自体は11時オープンなのだが、鼎泰豐だけが10時に店を開ける。入店したのは10時10分、すでに10組くらい客がいるではないの……! でも、まだ空きテーブルはたっぷりあるから大丈夫。

メニューを見ると、デパ地下店だからか、小籠包や餃子などの蒸籠モノが6個入りである(本店は10個入り。1/2にも出来るけど)。一人客も多い。買い物のついでに、チャーハンかおソバに1蒸籠みたいな頼み方が出来るわけだ。なるほど。

やっぱり、オーソドックスに「旨〜〜〜い」

小籠包の他に何か蒸し物をと鮮魚蒸餃という鯛の餃子を頼んでみた。それから青菜炒めと蝦炒飯。

まず、青菜炒めが登場。A菜というのを頼んだ。空心菜も捨てがたかったけれど、我が家の近所の八百屋さんではよく空心菜を安売りしてくれるのね。で、最近結構炒め方が上手くなったのね、私。従って、聞いたことのないA菜にしたわけだ。当て字みたいだけど、A菜は本名。青々として油がピカピカしてて美味しそ〜う。水分が豊富で歯切れがシャキシャキして、ほのかな苦味と独特の風味がある。いろんな菜っ葉があるなあ。

青菜をもぐもぐしていると、小籠包の蒸籠が登場。この店では、小菜やご飯ものや麺類はウェイトレスが運んでくるが、蒸籠に入った蒸しモノは厨房の人が直接持ってくる。これは、蒸し上がった瞬間の一番美味しい状態のものを一秒もロスすることなく口にして欲しいという、店側のお願いなのだと私は思っている。青菜を頬張っていようと、お茶を啜っていようと、全てを中断して小籠包を食さなくてはならない。黒酢につけた針生姜をたっぷり乗せて「あつっ、はふはふはふ、ううっ。うまぁぁぁ……(じーん)……ごっくん」この間1分。余韻に浸っていたいところだが、間髪入れずに2個目をぱくん。
そうやって頑張って1個1分で食べても、1個目より2個目、2個目より3個目と味は少しずつ落ちていくのである。なんて繊細なんでしょう。

A菜炒め。青菜を美味しく食べるのは中華が一番だと思う

待ってました! 小龍包登場! キミを食べに台湾まで来たんだよ〜〜

箸でつまみ上げても皮は破れない。中でスープがたぷたぷ揺れるのがわかる

レンゲに乗せて、美しいヒダヒダを愛でる

ひとり割り当て分の3個を胃袋に収め、しばらく掌を両頬に当てて余韻に浸る
水風船のようにたっぷりのスープを包んだ皮は、薄いのに丈夫で、少しくらい振り回して中のスープを揺らしても絶対に破れない。かといって分厚くモタつくこともなく、つるっとモチモチ。中の豚肉は少なめで、肉の脂も香辛料も控えめ、あくまで上品。肉の量が控えめな分、半分以上を占めるのがスープなわけで(レンゲ3分の2はある!)こんな大量のスープをどうやって皮で包むのか長年の疑問だったのだが。ゼリー状になった煮凝りを包むんですってね! それが蒸されて溶けるんですってね! 煮凝りということは……コラーゲンたっぷりってことじゃん。

さて、小籠包は大変に美味なのだが、一緒に頼んだ鯛の餃子は今ひとつ。ちょっと考えてみればわかるのに、鯛みたいな淡白で繊細な魚を蒸し餃子にしたって、パンチ不足で物足りないのである。薄味指向のヒナコが「物足りな〜〜い」と1個しか箸をつけなかったくらいだから、一般的には相当物足りない味であろうと思われる。辣油系のソースをつけてみたが、そうすると鯛の繊細な風味がかき消されてしまうし……。なんともジレンマに陥る。こんなんならニラ餃子か海老餃子にすればよかった。
若干しょぼぼーんな気持ちになっていたところに、エビチャーハンが登場。米粒がピカピカしていて、卵がふんわかしてて、大量の海老がピンクのお姿をのぞかせている。うわっ、コレは旨そうだッ! 萎んだ気持ちが一気に昂揚する。

可哀想なことに、小龍包のあまりの旨さに霞んでしまった鯛の餃子

ゴハンがぴかぴかしていた海老チャーハン。あんまりぴかぴかしていたので、ケーキ代わりにロウソク立てて祝いたいくらいだった

はたして、塩加減といい、油の加減といい、ゴハンのパラパラ度といい、卵のふわふわ度といい、海老のプリプリ度といい、すんばらしいチャーハンだった。こういうモノが美味しいってさぁ……すごいよねぇ。
舌鼓を打っているうちにも店内のテーブルはどんどん埋まる。まだお昼には早いのだが、デパート全店が開店した11時にはどどどっと客数が増えた。帰り際にくるっと店内を見渡してみると、流石デパ地下の店鋪、半数近くが「おひとりさま」である。
女性一人旅で鼎泰豐の小籠包が食べたい人、ぜひこの復興店へどうぞ。地下鉄の改札直結で迷わないし、デパ地下だから綺麗だし、麺と小籠包6個のランチセットみたいなおひとりさまメニューもある。
大満足で店を出る。ショーロンポー・バースデーランチは美味しゅうございました。お金払ったのは自分だけど(笑)。

入店時にはまだ開いてなかった他のデパ地下店鋪もオープンしていた。ケーキ屋などのガラスケースが並ぶ様子は日本のデパ地下とほとんど同じ雰囲気。ショーケースのケーキをよーーく見ると、デコレーションの仕方が多少チャイニーズしているというか……、今ひとつ日本人の感性には相容れないものがある。ダサいわけではないのだけど、なんとなく「違う」んだよなあ。

ザザ降りの碧潭は茶色く濁っていた

空港行きのバスに乗るまであと2時間ちょっとあるんだけど、どうしようかな?
MRT新店線の終点駅に碧潭というエメラルドグリーンの渓谷があるらしい。烏来温泉への入口に当たる町で、休日にはカフェや屋台がたくさん出て、散歩やボート遊びの人々で賑わうらしいけど。今日は平日で雨降ってるから静かな雰囲気を味わえるかな? MRTで20分程度、駅からも5分程度みたいなのでちょこっと行ってみることにした。

朝にホテルを出た時にはポツポツ程度に雨が降り始めていた。そのまま地下鉄に乗ってしまい、通路直結の地下街の店で食事して、再びそのまま地下鉄に乗って……。だから雨のことなんて忘れていたのだが、改札口を出るとざあざあ降りとなっていた。しまった、場所の選択を誤ったかも……? てゆーか、地下鉄に乗る前に雨の具合を確認しろよ、私。

まあ、せっかく来たのだから、渓谷と名所の赤い吊橋とやらをチラリとでも眺めて帰ろう。駅のひとつしかない出口を出てくるっと裏側に廻ると、河川敷に続く遊歩道があった。驟雨とまではいかないがかなりの降りで、視界は白っぽく煙って足元はばちゃばちゃ飛沫が跳ね返り、河川敷も遊歩道も歩く人はほとんどいない。川に吊橋が架かっているのは見えている。煙っててよくわからないけど、赤いようだが……

こんなばちゃばちゃの雨の平日午前中、川べりを散策する物好きは流石にいないようだ。カフェも屋台も一軒も出ていない。店のスペースも人々がそぞろ歩くスペースも充分にあるのだけど。地元の人すら少ない。用事があって通り抜けねばならない人しかいない。全くもう……。何しにわざわざこんな場所まで来たんだか。とほほ。

まあ、でもせっかくだからと吊橋まではやって来た。鮮やかな赤色に塗られている以外は、何の変哲もない吊橋である。歩行専用だけれど、それなりに大きくてしっかりしているから、揺れて怖いのを楽しめるわけでもないし。とりあえず真ん中くらいまで渡ってみた。台北の中心部から地下鉄で20分程度なんだから、普通のベッドタウンなのである。高速道路があって高層マンションが並んでて。なんだか隅田川みたいだ。橋の左側正面、一度たりとも外へ視界を広げないよう見た一角だけに赤壁の渓谷がある。碧潭というからには、川にはエメラルドグリーンの水がたゆたっているはずであろうが、ばしゃばしゃ乱暴に降り注ぐ雨のせいでどろどろ茶色く濁っている。全然ゆったり自然に触れられる場所なんかじゃありゃあしない。

吊橋の左側は山深い渓流の趣きなのだが……

右側はというと、高速道路ばびゅーん、高層マンションでーん、足漕ぎボートずら〜り、なのであった

岸壁に「碧潭」の文字が刻まれていて、上に「碧亭」という飲食店みたいなものがある。晴れていたら気分のいい場所だろうに……

こんな大降りでもムキになってボートに乗る奴はいるのだなぁ。御苦労様です

ホントは空港に向かうまでの時間を川を眺めながらお茶でもして過ごすつもりだったのに、そんな場所もないし、あったとしても眺めててどうという風景でもないし、橋の向こうに渡り切ったからどうなんだという感じがして早々に戻ることにした。だって、もう一種類くらい何か美味しいモノを食べたいじゃないの!

とどめの台湾スイーツ

再びMRTで台北駅へと戻る。もう一種類美味しいモノといっても朝ごはんに少量とはいえ水煎包とサンドイッチを食べている。そしてほんの一時間前には小籠包やチャーハンをがっつり食べている。この状態ではスイーツしか入れられない(笑)
ついでに龍山寺にもお詣りしていきましょう、ということで、台北車站で板南線に乗り換えて龍山寺まで。

台北の龍山寺に来るのは恐らく干支が一巡するくらいぶりなのだが、駅を出て、その変貌具合にびっくりした。ここは台北で最古の仏教寺院なのだから、寺周辺は門前町として一番最初に繁華街となったエリアであろう。10数年前の龍山寺界隈は、そんな浅草のようなゴチャゴチャした下町っぽい雰囲気がムンムンしていた。だいたい、ここにMRTはまだ開通していなかった。

改札を出ると、そこは地下街。普通のブティックや雑貨のショップに混じって玉や翡翠のテナントが何軒かあるのが、お寺の近くっぽい。寺の門前には占い横町みたいなのがあって、たくさんの占い師が椅子を並べていた記憶があるが、それはごっそり地下占い広場に移動していた。ちゃんとブースで区切られていて、個人情報保護もきちんと出来そうな。この地下街の地上部分は、整地されて公園となっている。ごちゃごちゃごちゃごちゃ店が並んでいたところが全〜部真っ平ら。公園の東側にはまだ昔ながらの市場や漢方薬の店などが残っているようだったが。

龍山寺にお詣りすると見せかけて、近くの老舗龍都冰果専業家で先にかき氷を食べることにする。華西街夜市と龍山寺との真ん中に市するので、夜の方が断然賑わう店らしい。とはいえ流石に人気店、そこそこ混んでいた。店先には色鮮やかな果物がたくさん積んであって、だからフルーツのかき氷や生ジュースも美味しいのだろうけれど、豆類などの伝統的なトッピングの八宝冰にした。名前通り、8種類の具のかき氷。

マンゴーやパイナップルなどのトッピングだと華やかでゴージャスな感じがするが、甘く煮た芋や豆にはどことなく鈍臭いイメージがつきまとうものだ。まあ、日本ではフルーツは高価なものだから、フレッシュマンゴーがたっぷり乗っているだけで喜んでしまうのは仕方ないだろう。
そういうわけで登場した八宝冰は色合いも地味〜でビジュアル的にはもっさりしているのだが、これがまたどうしてどうして想像を遥かに超える美味しさなのだ。

名前も可愛いパーパオピン。小粒小豆、緑豆、花豆、ピーナッツ、白玉みたいなの、ぎゅうひみたいなの、タロ芋、芋圓の8種類が乗っている。1杯55元の値段も嬉しい

豆や芋は日本のあんこよりはずっと薄味で砂糖控えめ、感じるのはほとんど素材の甘みなのだが、とても丁寧に炊いてある。タロ芋の煮たのがこんなに味も口当たりもいいなんて驚き。かき氷のシロップも黒糖かサトウキビか……自然素材系のほんのり素朴な甘さ。じわ〜んじわわ〜〜んとこみ上げてくる美味しさなのだが、モノが氷なだけにせっせと口に運ばなくてならない。土台の氷がどんどん溶けていくと、てんこ盛りの豆や芋がぐずぐずに雪崩れ落ちるのである。小籠包といい八宝冰といい、今日はじわじわ味わいたいのに短期決戦で食べなくちゃならないものばっかり。

いや、しかし、台湾の伝統的スイーツはどれもこれも見直したゾ。豆花然り、仙草然り、甘く煮た豆類芋類然り。少なくともかき氷に関しては、日本の色付きシロップ軟弱フラッペなどは足元にも及ばない。唯一対抗出来るのは宇治金時白玉氷くらいなものか……。

台北最古のマルチなお寺・龍山寺

かき氷を食べている間に雨も小やみになるかと目論んでいたが、店を出るとより一層ばしゃばしゃになっていた。このあと飛行機乗って日本に帰るんだから、あんまり靴とかパンツの裾とか濡らしたくないんだけどなぁ……。ぶつぶつ言いつつ、龍山寺[WEB]の門をくぐって境内へ。ずいぶん昔にも訪れているはずなんだが、詳細な記憶は曖昧。とにかく門前がごちゃごちゃしていたことしか覚えていないので、なんだか初訪問のような新鮮な気分である。

台湾各地にある龍山寺、ここ台北のものが台湾最古かは不明だけど、とりあえず台北では一番古い。格式も台湾一とのこと。とはいえ、日本の古刹の渋く厳かなイメージとは裏腹、原色チャイニーズ・ワールド大全開である。大門をくぐるとドカンと大きな前殿がある。中央の大きな入口は閉まっていて、右側の小さい門から入るのだが、その脇には人工の滝がごごごごーッと流れている。出口である左側の門の脇には龍が口からごぼごぼ吹いている噴水池があった。ここの柱も龍が絡み付いている。

正殿の前にはでっかい香炉が置かれ、どこからかボヤでも出たのではないかと思われるほど、線香が盛大に煙っていた。あちこちの寺院や廟でもくもくしていた線香であるが、やっぱり首都の総本山ではその量が違う。

柱、かっこいいよね

線香で煙っている龍山寺の境内

ココの御本尊さまは、観世音菩薩さまである。お寺が全焼した火災でも無傷だったという霊験あらたかな観音さま、スモークされてしまいそうな勢いで線香がバンバン焚かれ、参拝客がひっきりなし。
一応ココは仏教寺院なので、正殿に祀られているのは薬師如来や文殊菩薩など仏教の神様(仏様?)。でも、台湾のお寺は同じ敷地内に道教の神様も祀られているのがデフォルト、神様仏様民間信仰なんでもございの百貨店状態なのである。道教の神様たちは一番奥まったエリアの後殿に雑居状態でひしめいておられるのだが、それぞれ得意分野が違うので、市役所の窓口のように担当が分かれている。

受けてくれるお願いの種類をざざっと分類すると、合格祈願とか豊作とか大漁とか航海安全とか安産とか武術や学術とか商売繁盛とかお天気とか縁結びとか、大抵の人間の欲望はひととおり取り揃えているようである。私としては芸事や技術の向上という分野も欲しい気がしたが、武術や学術に含まれるのかもしれないな。
一番人気は縁結びの神様、月下老人! まだほっぺの赤い中学生のお嬢さんたちが真剣にお参りしている。この月下老人さま、皆に縁結びをお願いされてとっても忙しいものだから、たまに面倒がってテキトーな縁組をしてしまうらしい。なので、お願いする際にには住所・氏名・生年月日や職業などなどしっかり自己紹介して「かくいう私に前世から『縁のある』方をお引き合わせ下さい」と念押ししないといけないんだって。コンピューターで選ぶお見合いシステムより不確実なようである。

あっ、なんか可愛いッ

縁結びの神様より商売繁盛の神様に強くお参り。嗚呼、悲しき自営業の私

門前の広場で、売り物らしきお供えの花が雨に濡れていた

さて、月下老人の前にはお嬢さんたちお姉さんたちがてんこ盛りになっているが、他の神様たちのところもちゃあんと賑わっている。合格祈願の神様の前には、入試にのぞむ本人よりも母親らしき人たちの方が多い。まるで開店祝いの花籠のようなでっかい供物を持って商売繁盛を願う人もいる。雨天にもかかわらず、「The 御利益」を求める人たちの欲望はぐるぐると渦巻き、目がシバシバしてしまうほどの線香の煙とともに、さして広くない境内に充満しているのであった。

空港バスに乗るまでは綱渡り

現世での欲望渦巻く龍山寺を後に大急ぎでMRTの駅へ向かう。ホテルに戻って荷物ピックアップして空港バスに乗らなくてはいけない。まだ余裕があるつもりでいたら、結構いい時間になってしまったのだ。雨がひどくなってきたので、公園広場を横切るのを横着して手近な入口から入ってしまったのだが、これが失敗だった。広場の下はショッピングモールになっていて、MRTと直結しているのだが、店内はちょっと入り組んでいて、くねくねと余計な距離を歩くことになってしまった。競歩さながら通る横目で見たところ、門前町らしく仏具などのお詣りグッズや玉関係の縁起モノの店が多い。占い師のブースが並ぶ占い横町もある。

そんなわけで、軽く時間をロスしつつ、MRTで台北車站へ。まあ、乗ってしまえば2駅なので5分程度のこと。

空港行きのバスに乗る國光客運のターミナルは、ホテル近くの忠孝西路という大通りをはさんだ向い側にあり、直線距離にして100mくらいしか離れていない。今回の台北でのホテル選びに於いて最大のポイントとした部分である。が、日本で地図を見ながら計画するのは所詮「机上の空論」でしかないなぁ。この大通りには横断歩道がない!のである。忠孝西路真下を走る「站前地下街」を経由して渡れば、なんてことはないのだけどね……そう、私にはなんてことはない。だが、片足ずつよちよち昇り降りするヒナコにとって、この地下街に降りる階段は結構長いのだ。

駅出口から「站前地下街」を直進する。左の階段を登ればホテル、右はバス乗場。ホテルで荷物ピックアップ、戻ってターミナルへの都合3回の昇降はヒナコ連れではタイムロスが大きすぎる。ここで、ヒナコにお願いしてみることにした。
「ちょっと時間ギリギリっぽいから……右側出たところにバスターミナルがあるはずだから、先にそこに行っててくれないかな……?」
外に出てウロウロ探し歩けと言っているのではない。階段昇ったところにきっと待合室とかあるから、荷物取ってくるまでそこにいてよ、と言ってるだけなのだ。……これってそんなに難しいことですか?

ヒナコには難しいらしかった。ていうか「ええっ、わかんないところでひとりぼっちにしちゃいやあん」ということらしい。3歳児かよ。ダダこねかけるヒナコを説得する方がタイムロスになりそうなので、仕方なく彼女と一緒に右の階段を昇った。ここで急がせると彼女は間違いなくキレる。階段を昇りきったところにちゃんとバスターミナルはあった。通りの向こうから見えていたんだから当たり前だが。待合室までヒナコを引きずっていき「ここに座って待っててね」と言い聞かせ、タッチ&ゴーで猛ダッシュ。本音を言うと私が荷物を取りに往復する間、切符の購入くらいしておいていただきたいのだけどね、ムリムリムリ。ホテルのフロントで預けた荷物を受け取るのもタッチ&ゴーで踵を返す。走る走る走る!

都合5回の階段アップダウンは恐ろしく膝にきた。東京に着くのは夜だからと既に長袖を着ているせいもあり、汗だくだく。最後に荷物つきで駆け上がるのは、何かの拷問のようだった。そして一息つく間もなく窓口に走って切符購入。無事、14時20分発のバスに乗れた。飛行機の出発時刻は16時30分。昨日電話でチャイナエアラインにはリコンファームしており、1時間前のチェックインでいい。台北車站のターミナルからは50分〜1時間。ちょっとギリギリだが、朝晩のラッシュタイムではないので、なんとかなる範囲ではある。いや、なんとかなると願いたい。

ヒナコを連れていては急げないので、時間にはたんまり余裕を持たせなくちゃなのはわかっているのに、何故こんな綱渡りのようなことになってしまったのか? それは、私が16時半と6時半とを勘違いしていたから! 龍山寺で商売繁盛についてお願いしている最中、ふと頭をよぎったのである。16時ってさあ……午後4時だよね? と。頭の中が一瞬真っ白になった。続いて全身の血がざざーっと引く音が聞こえた(ような気がした)。そして、算数苦手な私の脳みそでは限界ギリギリの迅速さで現在時刻と空港までの所用時間を計算し、商売繁盛のお願いついでに飛行機に間に合わせてくれるようしっかり祈った。

ヒナコには秘密にした状態で、私は慌てた。何故、秘密にしたのか? 「まったくアンタは昔からずっとそう! 最後にバタバタバタバタして、小学生の頃は起こしても起こしてもちっとも起きてこないで朝ごはん流し込むみたいにして毎日遅刻寸前、中学生高校生になっては試験っていえば必ず一夜漬けで数学は間に合わないから捨てただのなんだの言って、アンタのそういうところがワタシは子供の頃から気になって気になって、だいたいワタシはそういうのが一番キライで、なのにどうしてそんなワタシにアンタは似ないで、どうしたのこうしたの……」みたいなことをずーっと聞かされることになり、おそろしく煩いからである。

ふん! 確かに私は〆切体質である。それは認めよう。でもさ、でもさ、最後にはちゃんと帳尻合わせてるんだからね。遅刻だって寸前だしさ、試験だって進級できてたでしょ。今の仕事だって〆切ばかりだけど、一回だって間に合わなかったことないんだから! 今日だって綱渡りで間に合うギリギリのところで思い出せたんだから、私ってばエラいじゃんよ?

最後まで綱渡り

まだ汗も引いていなけりゃ呼吸も弾んだままなのだが、バスの座席に落ち着きようやく一安心。ところがせっかく安堵しかけたのに、20分発のはずのバスが発車したのは30分だった。じわりとイラつきながら、車窓からの台北の町並を眺める。台湾は近いし食べ物は美味しいし食材やお茶は定期的に仕入れなきゃだしなので、再訪するのは間違いないのだが、やっぱり帰国の日はそれなりの感慨もあるというもの。午前中降り続いた雨もあがって雲から陽が射しはじめている。

帰る頃になって晴れるなんて。さよなら、台湾。また来るよ

町中はそれなりに道路も混んでいて、バスの進みもちんたらしていたが、ほどなく淡水河の大橋を渡り、一カ所だけ停留所を経由して高速道路に乗ってからは快調に走り始めた。腕時計をチラリと見るとすでに15時5分前。微妙なところだけど、もう高速入ったし、車流れてるし、1時間前といっても10分くらいは遅れても大丈夫だろう。流れる風景をぼーっと眺めながら、最後にあの激ウマ胡椒餅を買ってバスの中で食べるつもりだったんだよな、残念だったな、もう2時間あるつもりだったからな、などと考えていた。

……が、ふと気づくと、窓の外の風景は流れていない。バスの前後左右に自動車がいっぱい。これって、まさかの高速道路での渋滞???

それからの1時間近くは、このうえなく精神衛生によくないものであった。渋滞していながらもバスは何とかじわりじわりと進み、「→桃園國際機場」と書かれた出口を降りた時にはとてもホッとした。高速を降りた空港への道路はガラガラだったのでスピードも大幅アップしたのだが、この道がまただいぶ距離があったのである。いつまでこの田舎道を走っているのかとジリジリしかけたが、航空会社の整備場などの建物がポツポツ見え始めて空港に近づいたのを感じ、再びホッとした。

チャイナエアラインの日本便は第2ターミナルに発着する。バスの正面にぐんぐんと近づいてくる建物には「第二航廈」の文字が見える。よっしゃ! すぐ降りられるよう鞄を抱えて準備準備。ところが、バスは第2ターミナルビルの脇をすり抜けていくではないか! ええっ、先に第1なわけ?? 手前にある方に先に停まろうよぉ……今は5分だって惜しいのに。まあ、実際はたいした違いはないのだけどね。

結局、カウンターに到着したのは15時55分。35分前のチェックインって……。国内線じゃないんだから。幸いなことにチェックインカウンターはガラ空きだった。私が乗るのは日本への最終便なので、これからチェックインする乗客なんてもう誰もいないだけのことなのだが。
どたどた駆け込んでチェックイン。チケットとパスポートを受け取ったグランドホステスは、端末を叩きながらあれっという感じで大きな瞳を動かした。うんうん、気づいてくれた? パスポートには生年月日書いてあるよね。

「オタンジョウビ、オメデトウゴザイマス」たどたどしい日本語でニッコリしてくれる。横で聞いていたヒナコもあれっという顔をした。今日が私の誕生日であることを突然に思い出したようだった。やっぱりね、朝からなんにも言ってくれないから忘れているんじゃないかと思っていたが。40ン年前に自分で産んだくせに。いいもん、綺麗なお姉さんがおめでとうって言ってくれたから。

お姉さんはニッコリして、預け荷物にプライオリティ・タグをつけてくれた。えーと、これはビジネスクラス客とかの優先荷物につけるタグのはずだが、そういうことじゃなくて、ギリギリだから荷物積み込むヒト急ぎなさいよって意味なんだろうね。…チャイナエアラインからのバースディ・プレゼント?

そういうわけで、急ごうではないか。別に免税店で何か購入するつもりもないし、ラスト胡椒餅が果たせなかったのが唯一心残りなだけで、食べたいものはがっつり満足させてきたので、市価よりはるかに高い空港で飲食するつもりもない。ほとんどの乗客は通り過ぎてガラ空きとなったX線検査や出国審査をすいすい通り抜けていると、ヒナコは母として多少申し訳ないなー…とでも思ったか「東京に帰ったら今晩はちょっといいものを食べてお祝いしましょうよ! ご馳走するから」などと言う。
あ・の・ね〜、お気持ちは嬉しいですけど、今夕方の4時で、これから飛行機に乗るんだよね、成田到着は夜の9時近いよ、家に着くのは11時だよ、ディナーは機内食なんだってば、それもエコノミーのね。とほほ。

気持ちはとほほであるが、結果的には飛行機にもちゃんと間に合って、ちゃんと帰国した。でも、あの2時間ほどがどれほどストレスフルなものであったかは、最後までヒナコには内緒だ。「だからアンタは昔から……」とか言われちゃうの、煩わしいからね。

あんなにイヤな汗をかいて身の細るような思いをしたというのに、帰国後恐る恐る乗った体重計の数字はむごいものだった。何かの間違いかと思っちゃったよ。おりしも衣替えの季節、取り出した冬服の何枚かがちょっとヤバいことになっていた。また頑張ってスポーツジム通いだ。でもね、台湾はまた行くつもり。今度は南に行きたいな。だから、そのうち「台湾食倒記・みたび」とか「台湾食倒記・フォース」とか書くことになると思う。

--完--

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