Le moineau 番外編
- 紺碧のイタリアとクロアチア歩き -

相変わらずまだ時差に対応できていない

歳をとったなあ……としみじみ思うこと。到着して一晩ぐっすり眠ればOKだった時差に対応できなくなったこと。旅の最初の数日はどうしても睡眠がめちゃめちゃになる。不規則になるのではなくてズレが修正できない。昨晩は21時に部屋に戻るなりかろうじて寝間着に着替えてバッタリだった。でも、前の晩は下半身だけ脱いで尻丸出しで毛布もかけずに突っ伏してたんだから、まだマシってもんでしょ。

で、今日も2時半に目覚めてしまった。このまま起きてしまうわけにもいかないので、温泉の素を入れたビデで足湯しながらしばらくネットをしたり本を読んだりする。一人旅だとなかなかバスタブのある部屋に泊まれないけれど、これやるとかなり疲労回復&リラックス出来るのよねー。2年前に冬のシチリアでひらめいた時には神の啓示かと思ったわ。お湯を足し足しゆっくり1時間近く寛ぐうちにほどよい睡魔がやってきたので、ベッドに戻ってまた眠った。

次に目覚めたのは5時40分。うん、これなら異常な早起きではなく、普通の起床時間といえるでしょ! しっかりシャワーを浴びてしゃっきり目覚めさせ、移動のための荷造りをし、さらに中庭を見下ろすバルコニーで小鳥のさえずりを聞きながらゆっくりとハーブティを飲んだ。8時と同時に朝食室に行ってもりもり食べ、8時50分にはチェックアウト。今日も雲は多いけれど、その隙間から見える空の色は鮮やかに青い。晴れそうだなぁ、暑くもなりそうだなぁ。

ラヴェンナを発って一路アンコーナへ

今日はやや長距離移動。中部マルケ州の港町アンコーナまで行き、夜のフェリーでクロアチアに渡るのだ。せっかくだからアンコーナを半日観光するつもりなんだけど、下調べの段階で欲しい情報が入手出来なかった。出たとこ勝負するしかなかろう!と思うものの、ちょっと不安もある。個人のフリー旅行者なら身をもって知っていることだろうけど、イタリアって移動途中で観光に立ち寄るのが本当に不便な国なんだもの。

アンコーナまでの切符は昨日のうちに購入済み。特急を使うのでちょいと高めの€20.75だったけれど、日本の新幹線の値段を考えれば驚異的に安い。
まずは9:21発のリミニ行き普通列車に乗る。ちゃんと定刻に発車した車内は空いていた。途中でミラノ・マリッティマという小さな駅に停まり、その停車時間がやや長い。「なんでこんな場所で "ミラノ" ってつくの?」などと考えながら辺りを見渡してみると、いつのまにか車内が無人になっている。去年のウンブリアの旅で回送列車に閉じ込められたまま待避線に連れていかれたことを思い出し、あわててスーツケースを引きずりながら移動する。隣の車両も無人なのでものすごく焦り、さらに隣に移ると数人の乗客がいた。ああぁぁぁ、よかったあ!

勝手に焦っていたのは私ひとりで、列車は何ごともなくちゃんと定刻の10:15にリミニに着いた。ここで特急フレッチャビアンカ Frecciabianca(白い矢)に乗り換え。特急発着ホームはひとつの島にまとめられていて、私の乗る10:36のレッチェ行きは3番線から、向かいの2番線から反対方向のミラノ行きが出る。この10:17のミラノ行きがどうやら遅れているらしいので、ホームには両方向の乗客がわんさかたまっているのだった。
アナウンスが何度も流れる。ミラノ行きでなくレッチェ行きも遅れているらしい。一応英語アナウンスも流れるけれど、そもそも駅のスピーカーって日本語だって聞き取りづらいのに、イタリア語訛りでさらにわからない。フィフティーンなの? フィフティなの? 15分遅れるの? 50分なの? 10時36分から15分遅れで10時50分になるってことなの?

ミラノ行きが来たのは10時55分になっていた。レッチェ行きが来たのは11時5分。やれやれ30分遅れか……と乗り込んだものの、切符購入時に座席指定をしておいた席には若い女性が座っている。自分が間違ってないか車両と座席番号と切符をしっかり確認してから「ここは私の席よ」と申し出た。彼女は書類のチェックのようなことをしていた手を止め、私の顔と切符とを交互に見て、無愛想に「あっちの席が空いてるわよ」と言った。確かに空いてるけど、4人掛けボックスのうち3人が埋まってる席じゃないの。窮屈だし荷物は網棚に上げなきゃならんでしょ。私はわざわざ一番端っこの1人席を選んだんですからね! ここなら扉の陰に邪魔にならずにスーツケースも置けるんだから!
譲るつもりはみじんもないので「私の席よ」ともう一度言い、あえてにっこりと微笑む。日本人特有の曖昧な笑みではなく、相手の毒気を抜いてやるつもりでの満面のにっこり顔。彼女は無言で私の顔を見つめ、無表情のまま目を逸らすと膝の上のファイルをパタンと閉じ、申し訳程度に「ソーリー」と呟くとボックス席に移動していった。まあ、当てつけがましく舌打ちしたり嘆息したりしなかったので許してあげよう(^^)

アンコーナ近くになって、線路は海岸線ギリギリを走る。窓ガラスのUVスモークのせいで色が沈んでいるものの、それでも鮮やかに青いアドリア海に、いきなりテンションUP!

30分遅れだった列車はちょっとペースを上げて走ったようで、アンコーナには20分遅れの11時45分に着いた。さあ、いよいよ今回の旅の目的アドリア海べりに来たわよ!
ただアンコーナ観光前に重要なミッションがいくつかある。重要でありながら日本語の情報があまりにも少なく、出たとこ勝負に挑まざるをえない。私にとって第一にして最大の関門を迎えるのであーる!

アンコーナ観光前の重要なミッションその1・荷物預け

本日の最重要イベントは、今晩20時発の国際フェリーでクロアチアに渡ること。で、どうせだからアンコーナを半日観光したい。フェリーチケットはネットで購入済みだけど、飛行機のEチケットと同じく予約だけでは乗船出来ず、オフィスでチェックインする必要がある。こんな単純なことがイタリアではちょっとばかり難儀するのよねぇ……イタリアあるあるなんだけど。そのための日本語情報と体験談情報が圧倒的に少なかったのだ。

まずスーツケースを預けて身軽になりたいのだけど、これが一筋縄でいかない。ヨーロッパの周辺国ではコインロッカー設置した駅もそこそこあるものの、イタリアにはほとんどない。テロ対策のせいか面倒なせいか、昨今の鉄道駅では有人の荷物預かりすら廃止されているところが多い。民間の荷物預かりも少ない。あるのかもしれないけど、わかりにくいんだから同じこと。宿泊するのなら、チェックイン前でもチェックアウト後でも宿で預かってもらえるんだけどね。これが移動途中で観光に立ち寄るのがイタリアでは不便だという理由。でも小ちゃな町ならともかくアンコーナは10万人規模の都市で、クロアチアやギリシャへの国際フェリーも出る港町なんだから、私のように乗船前に観光したい人の需要だってあるでしょ。……そう、一縷の望みをかけて駅構内をひととおり探してみたけれど荷物預かり所はなかった。駅はダメかぁ。

ただ、駅はアンコーナ旧市街から2kmほど離れている。旧市街のはずれにあるフェリーターミナルはさらに遠いけど、観光スポットの集まるエリアからは徒歩圏だ。ターミナルに荷物預けておければピックアップしに駅に戻る時間のロスと精神的な焦りがなくなる。英語のサイトには Luggage Storage の単語があったけど、現地で確認するまでわからないのもイタリアあるあるなんだよね。まあ、何はともあれ行ってみよう!

構内の売店で「フェリーターミナルに行くバスある?」と尋ね、€1.25の切符を買った。路線番号の「ウノ」と「クアトロ」の間の単語がどうしても聞き取れないでいると、おっちゃんが切符の裏に1/4と書いてくれた。スラッシュ(slash)のことを「barra」というらしい。そういう番号の路線があるのか! しつこく確認してよかった。「1番か4番に乗ればいいのかな?」などと勝手に理解しちゃってたよ、きっと。

>> フェリーオフィス経由フェリーターミナルの無料シャトルバスがあるという情報もネットにはあったけど、廃止されたか、あるいは出航時刻に連動しての運行かもしれない。違う番号の路線に乗ったという情報もあるので、とにかくその場で確認すること

駅前にいくつもあるバス停から1/4表示はすぐ見つかった。ほどなく1/4番が来たので念のためにフェリーターミナルに行くか尋ねると答えはノーだったけど、次に来た1/4番は大丈夫だった。反対方向のものが同じバス停に着くから乗る前に確認すること! 昨日は根拠なく信じ込んで反対方向に進んでずぶ濡れになったけど、大荷物を持っている時はちゃんと慎重になるのよ、私だって(^^)

アンコーナ港近くにかつての鉄道引き込み線跡とアンコーナ・マリッティマ駅のプラットフォームが残っていた。正面の丘のてっぺんには聖チリアコ大聖堂が見える

1/4番のバスはフェリーターミナル行きというわけではないので、旧市街の入口でバスを降りる。運転手が私の方をチラチラ気にしてくれてちゃんと教えてくれた。それまで海岸線や港に沿って走っていたバスが突然右折して市街地に入っていくので、そのタイミングで降りればいい。そこはもうすでに港で大小たくさんの船が停泊している。ターミナルビルまでは荷物つきでダラダラ歩いて20分弱といったところ。

昼の12時台のフェリーターミナルは閑散としていた。ドキドキしながらビル内に入ると、鞄のピクトグラムと「Deposito bagagli」の表示がある! やったー! パスポート提示などの必要はあるけれど、たった€2でスーツケースを預かってもらえた。

第二の重要ミッション・懸案のチェックイン

大荷物がなくなって身軽にはなったものの、実はまだ関門がある。観光を終えてここに戻ってきてもすぐにフェリーには乗れないのだ。出航2時間前までにチェックインしてボーディングパスを発券してもらわなければならない。そのためのオフィスがこのターミナルビルにはないのである。オフィスの場所は駅と旧市街との間にあり、距離的には駅から徒歩で行けなくもなさそうなんだけど、事前に調べてもものすごくわかりづらかった。住所から検索し、ストリートビューで道順を辿り、ネット上に数件しか見つけられない体験記を読み……やっぱりハッキリしなかった。だって明らかに港湾倉庫みたいなエリアなんだもん、ココ。自力で行くのは諦めたよ。

何時間も前だけどもうチェックインは出来るのか、荷物預かり所で聞いてみると大丈夫とのこと。わざと「ここで?」と尋ねると「オフィスに行け。2km離れてる。シャトルバスで5分」との答え。切符売場と入口とが隣接していないというイタリアあるある……まさか国際フェリーまでとはねぇ。道渡った向かい側くらいならともかく、バスで5分の2kmの距離って、どうなのよ。一応バス料金を尋ねたら無料だった。当たり前だけどね。

とりあえず手続き関係は先にすませておくことにして、教えられた通りに20番のバスに乗った。出航時刻はまだまだ先でほとんど人もいないのに、バスは10分か15分おきくらいにピストン運行しているのだった。当然バスに乗ったのは私ひとり。なんかさあ……バスの維持費とか人件費とかさあ……チケットオフィスをターミナルに隣接させない意味がわからないわ。
最初は海岸沿いの道路を駅方向に戻り、途中で高速道路のランプウェイのようなところに入り、港湾敷地内を大回りのカーブで走って行く。自動車ごとフェリーに乗る人のためにこんな場所にあるのかな? 徒歩の人用の道ってちゃんと別にあるんだろうか? いずれにしてもスーツケース引きずって駅から歩いたら途中で途方に暮れてたこと間違いなし。

到着したフェリーオフィスは平屋の建物で、雰囲気としては中規模の町のバスターミナルのような感じで、中に入ると会社ごとに窓口が分かれている。一番奥のSNAVの窓口は閉まっていたけど、オフィス内には人がいたので合図するとチェックインを受け付けてくれた。予約番号を伝えてパスポートを見せてボーディングパスをもらうのは飛行機のチェックインとまったく同じ。ここでしつこくしつこく念を押す。
「これでチェックインは終わり?」「このチケットでフェリーに乗れるのね?」「私は直接ターミナルに行っていいのね?」「もう一度ここに戻る必要はないのね?」くどいって? だって大事なことですから!
窓口のお姉さんは、たどたどしくもしつこい私の念押しに「これで完了」「これはボーディングパス。これがキャビンナンバー」「直接行って。2時間前にOK」「ここに戻る必要はない」と、いちいち言葉で答えてくれた。嫌そうな顔もせず、むしろニコニコと。だいたいこういう窓口の人って無愛想だったりぞんざいだったりするのにねー。

でもね、いくらお姉さんの感じがよかったといっても、この面倒臭さがチャラになるほどポイント上がったわけではないよ。思うんだけどさあ、クルマじゃない人のための窓口をターミナルの方にも作れないものなのかしらね? ホント、イタリアのこういうところ──あえてあえて面倒臭くしていくところ、イタリアの人たちは不便だとは思わないのかしらね?

>> アンコーナからクロアチアへの出航時刻は夜の20時、クロアチアからアンコーナに到着するのは朝の8時か9時。フェリー利用者で、アンコーナに宿泊せず半日観光したい人はフェリーターミナルに荷物を預けることを推奨する。ターミナルビルは旧市街と近接しているので、面倒なようでこれが正解だと思う

とりあえず重要難題ミッションは完了した。スーツケースだけでなく肩の荷も下ろせて心も軽くなった気分だわ。バスで再びターミナルビルまで戻る。さあ、これで心置きなくアンコーナ観光のスタート!

海辺で味わう海の幸のランチ

アンコーナ駅に到着してからなんだかんだで1時間を費やし、もう13時。観光スタートと意気込んでみたけど、ほとんどの教会は15時頃まで昼休みだろうから、こちらもゆっくりランチにしようかな。とりあえずは旧市街の繁華エリアに向かってみよう。

アンコーナの旧市街は港湾に面した斜面に広がっているので、どの道も緩い傾斜がある。適当に入った通りはブティックなどが多く、筋違いの通りには軽食のスタンドのような店ばかり、さらに適当にゆるゆる歩くうちに衣類や小物の露店が並ぶ広場に出た。ごちゃごちゃと猥雑な感じだけど、こういうマーケットはたいてい午前中だけのものなので、片付けを始めている店もいくつかある。広場を抜けてから海側に折れると、13個の顔がズラッと並んだ13の噴射の泉 Fontana del Calamo o delle 13 Cannelle があった。

蛇口のような泉が13個並んでいるから「13の噴射の泉」。かつての共同井戸場ということかな? 斬首刑に処せられた人の顔をモデルにしているそうで顔立ちも表情もひとりひとり違う

苦しそうな顔の人の口にくわえたホースからじゃばじゃばと出た水を使いたいとは思えない。それも罪人の口から出た水なんて……。感性が違うの? 時代が違うの?

泉のあるジュゼッペ・マッツィーニ通りは、レストランやトラットリアが集まるエリアらしい。幅広の道いっぱいにテラス席がいくつも並んで、パラソルの色もとりどりだ。お得なランチメニューが貼紙されたり黒板書きされたりしているので、丹念に良さげな店を物色する。ただ、店によってテラス席の賑わいかたが全然違うのよねー。私の直感と嗅覚で良さそうだなと思った店は満席、でもその隣の店には3組くらいしか客がいない。このあまりにもあからさまな状況には、やっぱり理由があるのよね。妥協してこっちに入るときっと後悔する……と食いしん坊の本能が警告信号を鳴らしている。
よし、別の店を探そう!と20分以上も徘徊するもののピンとくる店がなくて、結局この界隈まで戻ってきた。通り沿いの店はどこもかしこもさっきより賑わっていて、"隣の店" ですら4割くらいまで客が増えている、"良さげな店" は相変わらず満席……いや、今空いた! まだテーブルは片づけられてないけど、すかさず駆け寄って「ここいい?」と了承を取りつける。やったー!

「本日のパスタ」は3種類。今日の野菜、今日の魚介、今日の肉。迷うこたぁない、海辺に来たんだから海のものでしょう!

13の噴射の泉前のテラス席でのんびりランチ。周辺の数店の中でこの店だけが異常に混雑していた

日替わり魚介パスタを頼んだらこれが出てきた。ムール貝とアサリがたっぷり、シンプルな塩味とオイルの風味、貝の旨味を吸ったパスタは歯ごたえしっかりで、激ウマ! ペンネより太いリガトーニは知ってたけど、これはさらに太い。ミネラルウォーターと合わせて€10.50はお安いと思う

この店の会計方式は、店内のレジへ伝票を持っていくという、日本では当たり前だけどヨーロッパでは珍しいものだった。会計の段階で初めて気づいたのだけど、この店はレストランではなく食料品店だった。店内にテーブル席はなく、ガラスケースの中にハムやサラミ類やチーズやお惣菜、棚にはいろんなパスタや瓶詰めなどがびっしり。店名から察するに、マルケ州の特産品のアンテナショップのようだった。それで安くて美味しいのかー!!! さっき食べたパスタも売っていた。Tuffoli というらしい。トゥッフォッリの発音でいいのかな?

ロマネスクの教会から丘上の大聖堂へ

のんびりとランチを終えて、ようやくアンコーナ歩き。中世にはビザンチン帝国、その後は自由都市として港町アンコーナは発展していき、16世紀に教皇庁に支配されたために今でも町の規模の割に教会が多いという。フェリーに乗るまでの数時間だけど、さまざまな時代の歴史が刻まれた片鱗に触れられたらいいな。まずは町と港を見下ろしている丘の上の大聖堂を目指そう。海岸沿いの Lungomare Vanvitelli を道なりにてくてくと歩く。昨日までより晴れて青空が広がっているせいもあるけれど、眼前に海があることがとても気持ちいい。暑いけどね。

ほどなく右側にサンタ・マリア・デッラ・ピアッツァ教会 Chiesa Santa Maria della Piazza が現われ、初老の男性がこの小さな教会の扉を開け放しているところだった。時計を見るとちょうど14時半。昼休みは15時までだと思ってたけど、入ってもいいのかな?
ここは5世紀頃と6世紀頃の二つの教会の上に13世紀にロマネスク様式で建てられた教会とのこと。ファサードには下半分だけに白大理石の表装とレリーフの装飾がされているけれど、上部は粗石のまま、内部はほとんどがらんどうに近かった。装飾らしいものはなく、天井も木組みがむき出し。地下に降りていくと基になった教会の遺構が見学できた。

生クリームのデコレーションケーキのような清楚で可愛らしいファサードを持つサンタ・マリア・デッラ・ピアッツァ教会。ファサード下側のブラインドアーチはビザンチンレリーフだとか

ささやかな祭壇があり一応教会としての体裁は整えてはあるものの、飾りっけのない堂内はガランとしている

これがオリジナルのレリーフなのかな? ファサード以外にあったものなのかな? ここから地下に降りる階段へ

基礎となった教会の遺構と、モザイクやフレスコ画が地下に広がっていた。モザイクはまだ原型をとどめているものの、フレスコ画は破損が酷く、何が描かれてるのかもわかりにくい

再び海岸沿いの道を緩やかに登っていると、途中になんと公共エレベーターが! あらっ、こんなものがあるの? GoogleMapにはつづれ折りで大曲がりしていく自動車道しか出ていなくて、きっと徒歩用の道はあるだろうけど、たぶん階段か急坂だと思ってたわ。エレベーターのある建物にはトイレもある。ヨーロッパの街歩きにおいては「トイレを見つけたら行っておく」のは鉄則なので、もちろんありがたく使わせていただく。エレベーターで登れるのはちょうど4階分。このショートカットはとても助かる。

エレベーターの出口近くにはマルケ州立博物館 National Museum of Marche の入口があった。今回は立ち寄る時間はなさそうだけど、どんな所蔵品があるのかな? ポスターの感じでは考古学分野や彫刻が充実している様子。だいぶショートカットはしたものの、ここはまだ丘の中腹のようで、博物館の前の路地を進むと階段ルートの遊歩道に続いている。しばらく登るうちに二股に分かれていたので、左側を選ぶ。階段の周囲には花木が綺麗に整えられているけれど、一段一段のステップが高いので太ももがきついったらない。

海沿いの港町って、つまりは傾斜のある町ってこと。路地の隙間からこんなふうに見える海は素敵

高台にある大聖堂を目指して、遊歩道の階段を登っていく。途中で二股に分かれるけど行き着くところは同じ

登って登って登って、ようやく聖堂のファサードが見えてきた。あと少し! 手前の塔は聖堂の鐘楼ではないですよ

大聖堂前の広場から港を見下ろす。羽を広げた天使の降臨のようにも見える神々しい雲。私が乗るフェリーもちゃんと停泊している

ふうふう言いながらも足を止めて振り返ると、眼前にはアンコーナの町と港と青い空の絶景があり、少しずつ見える範囲が広がっていくのがわかる。ものすごく太った中年夫婦と一緒になり、お互い励まし合いつつえっちらおっちらと登っていった。最後の階段を登りきるとアンコーナのドゥオモであるサン・チリアコ大聖堂 Cattedrale San Ciriaco の真正面に出る。展望テラスのように張り出した広場からの絶景と、海風の涼やかさといったら、もう……! 汗だくで息を弾ませてきたご褒美には十分過ぎるわ。

聖堂はどっしりとアンコーナの町と港を見守っていた

疲れを癒すような気持ちで、しばらく聖堂前からパノラマを眺め、風に吹かれていた。町一番の教会は高台にあることが多いけれど、それは街並の連なりの中でのことであって、ここまで高い丘の上に単独でっていうのは少ないと思う。まして町だけでなく海をも見下ろして。この丘にはもともとローマ時代の神殿があったらしい。神殿って高い丘の上にあるよね!

遠目には白亜の聖堂に見えたけれど、近くで見るとクリーム色や淡いピンク、明るい灰色の石が入り混じっていた。入口には獅子の像が狛犬よろしく鎮座している

白い聖堂は青い海と青い空にとても映えて美しい。すっかり初夏の陽射しだけど、ここに立つと吹く風も美しく清らかに感じるような……

アンコーナの守護聖人である聖チリアコを祀る聖堂は、シンプルなロマネスク様式でギリシャ十字構造、中央の12角形のドーム、ちょっと東方の影響のあるゴシック様式のファサード装飾……それぞれが絶妙に融合している。白っぽい石組みのせいもあって、どっしりした質実さと清潔な雰囲気がある。
内部もシンプルかつ重厚で、ベースの古い教会の部分がよく残っている感じ。全体に簡素でどっしりした中で、柱や障壁のレリーフだけがまるでレース編みのように繊細で印象的だった。

内部は素っ気ない灰色の石積みで装飾は少ない。格子天井は一応寄木細工で、でもそんなに緻密な装飾でもない。なんか下から船底を見上げているような不思議な感じの天井

白に近いほどにごく淡いピンクの石に浅いレリーフの装飾。ちょっとこういうのはイタリアではあまり見ないような気がする。中央祭壇はよく見る大理石装飾が施されていた

地下には6世紀の教会跡があり、紀元前3世紀の古代ローマ風神殿跡も保存されている。クリプタの下半分は新しそうな色大理石装飾だけど、天井のフレスコ画はほとんど剥落していた

大聖堂に隣接している司教区博物館 Museo Diocesano には初期のキリスト教芸術などの作品があるらしい。聖堂の背後から丘の遊歩道をのんびり辿ると、ロマーノ円形闘技場 Anfiteatro Romano などの遺跡や見晴らしのいい市民の憩いの公園に通じるらしい。ま、今回は時間少ないし、どっちもパス。
帰り道は聖堂の裏側からの階段を降りた。二股に分かれた部分で合流し、州立博物館前の路地に戻ってきた。今度はエレベーターは使わずプラプラと道なりに下っていき、道すがらの教会を覗いていくことにしようっと。

アンコーナの教会巡り、街巡り

州立博物館前の小道 Via Gabriele Ferretti を下り始めてほどなく、左側に教会らしきものが見えてきて、私はてっきり聖フランチェスコ教会だと思い込んでしまった。だいたいの地図の記憶ではもう少し先だった気もするけど(スマホの充電と一日の通信量制限の問題もあってGoogleMapに頼るのはここぞという時なの)。なぜそう思ったかというと、ファサードの印象が飾り気がなさ過ぎて地味だったからねー、つまり「聖フランチェスコ=清貧、質素」という私の単純な決めつけでしかない。実はゴージャスなフランチェスコ教会ってイタリア中にあるのにね。
ほんの20分後にはここはジェズ教会 Chiesa del Santissimo Nome di Gesu だったとわかるのだけど、その時は聖フランチェスコ教会のつもりで内部に入る私。ここの目玉はロレンツォ・ロットの「聖母被昇天」の祭壇画だったはず。

外部も素っ気ない教会は内部も素っ気なかった。たぶんもう教会としては機能していないのか、祭壇はない。側廊には何枚か絵画が残されているけれど、広い部分はイベントのレンタルスペースでもあるのか、何枚かパーテーションが並べられて写真展をしていた。中には数人の人がいて、かつての祭壇の位置に大きな祭壇画の設置作業中だった。20脚ほどの折り畳み椅子を祭壇前に円陣に並べる作業をしている人もいる。修復が終わった絵を戻しにきて、その除幕式でもあるのかな?

凹型に並ぶ白い列柱のファサードはちょっと変わってるけど、他にはたいした装飾もなく、建物の隙間にはさまった地味〜なジェズ教会

どう見てもモチーフは「聖母被昇天」ではないし、キャプションにもロレンツォ・ロットの名前はないし。でも、色大理石の装飾はここだけちょっと豪華で、この絵も割と好きだった。その他の絵は技量的にどうよ……というレベルで

この時点で私はまだここが聖フランチェスコ教会だと思っている。下調べと全然違うなー、何だかなー、拍子抜けだよなー、などと思いながら外に出た。

さらに道なりに進んでいくと、また左側に教会が見えてきた。小さな広場があって、広場を包み込むような大きな階段があって、階段の上からはさほど大きくはないけれど美しく装飾されたファサードがこちらを見下ろしている。こんなところに教会あったっけな? そろそろ疲れてきたところだったので、階段がとても面倒に思えてパスしかけたものの、綺麗なのでやっぱり見てみようと思い直した。よたよたと階段を登りながら振り返ると、建物の頭越しに港の風景が望める。あらッ、素敵素敵! 現金なもので急に足取りも軽くなり、一気に登りきってしまった。高台の大聖堂前からのものにはとても敵わないけれど、ここから見下ろす港の風景も気持ちよかった。
で、ここが本来目指していた聖フランチェスコ教会 Chiesa San Francesco alle Scale だったと気づいたというわけ。教会名に "スカラ" とつくのは、階段を伴っているからか! あー、パスしないでよかったわぁ!

階段上の聖フランチェスコ教会は、ゴシックとルネサンスと後期バロックの3つが混ざり合っている。彫像とレリーフを組み合わせたヴェネツィアン・ゴシックのファサードが繊細で美しい

内装は大戦後に改修したそうで、真っ白に塗られて味気ない。でも、正面の主祭壇に祭壇画が残ってる。あれがロレンツォ・ロット作の「聖母被昇天」かな?

紛うことなくモチーフは「聖母被昇天」。祭壇画としては前の教会のものの方が大きかったけれど、やっぱり絵のクオリティはこっちの方が高いように思う

予定通りに聖フランチェスコ教会でロレンツォ・ロットの祭壇画を見て、なおかつ勘違いも正せてよかったわ。教会前の階段を降りて戻らずに脇からのびていた路地を進んで旧市街内部に入り込んでみることにする。港に面した斜面の町なんだから、迷ったら適当なところで折れて下っていけばいいんだもの。建物の隙間の暗い影を落としている路地を歩きたかったのは、強い陽射しの暑さにやや参りつつあったせいもある。
路地の隙間を適当に歩いているとその先にまた教会らしきものが見えてきた。路地の突き当たった先は教会ファサードの側面で、教会前には長〜い広場が。プレビシート広場 Piazza del Plebiscito に面したサン・ドメニコ教会 Chiesa Saint Domenico だった。おお! これでぐるっと一周してきたことになるゾ。

広いというより "長い" プレビシート広場の奥にサン・ドメニコ教会があった。教会前の大きな階段部分にはローマ教皇クレメンテ12世(愛称パパ)の彫像が鎮座している

教会の正面扉前からパパの像の頭越しに広場を見下ろす。広場全体が港に向かって傾斜しているので、まるで舞台に立ったかのような気持ちになるね

教会内部はシンプルな単廊式で、あまりくどくないバロック装飾が施されている。近年修復されたようで真っ白に塗られていた

アンコーナの教会どこもみんなそうだったけど、ここも中に入ると誰もいなかった。壁も天井も真っ白なせいか妙にがら〜んとしている。でもそれだけじゃないような……? ここにはティツィアーノの「十字架磔刑図」やグエルチーノの「受胎告知」などがあるはずなのに見当たらない。ていうか、絵画がない。ウロウロするうちに壁に何か紙切れがあるのに気づいた。ティツィアーノらしき絵のモノクロコピーの上にメモが貼られ、イタリア語のみだったけど、「CROCIFISSIONE del TIZIANO」と「PINACOTECA COMUNALE」の単語だけが赤字になっている。「ティツィアーノは市民絵画館にあるよ」ってそういう解釈でいいのかな? 一時的か永劫なのかはわからないけど。なるほど〜、じゃ、仕方ないなー。

スーパーマーケットで晩酌セットを入手

プレビシート広場に堂々と鎮座しているクレメンス12世は、いったん衰退したアンコーナを自由港として復活させたという方で、だからアンコーナの人たちには「パパ」と呼ばれて慕われ親しまれているとのこと。だからこの広場の通称もパパの広場 Piazza del Papa っていうんだって。広場には古いパラッツォや県庁舎などもあって街の中心……のはずなんだけど、それにしては人が少ない。細長い広場に面して10軒近くの飲食店があるのに、地元民御用達っぽいバールが一軒だけ開いているだけで、他はほとんどが夜からの営業みたい。私の計画ではこの広場でちょっとカフェ休憩するつもりだったんだけどなぁ。

時計を見たら16時50分。フェリーの出航は20時だけど18時にはもう乗船手続きが出来る。教会はめぼしいところはひととおり見たし、アンコーナの街歩きはもういいや。チェックインはすませているとはいえ、無理にギリギリまで時間潰している必要もないよね。私はキャビンを取っているんだから早めに部屋で寛いで出航を待つ方がよさそう。うん、そうしよう! ……となると、あと1時間の間に遂行すべき任務がある。今日の晩ごはんの入手! 船内のレストランは高くてたいして美味しくないような気がするからね。Google先生の助けを借りて徒歩圏内のスーパーマーケットを探り出す。徒歩10分くらいの距離があるけど十分往復できるでしょ。

大聖堂の丘から降りる坂道で出逢ったニャンコ。裏返ってお腹まで触らせてくれたのに、写真を撮ろうとするとこうして冷たい横顔を向けてしまう。あー、一眼レフのレンズが怖いのかも?

聖フランチェスコ教会近くの路地で出逢ったニャンコ。このコはビビりで、一目散にクルマの下に逃げ込んでしまった。驚かせちゃってごめんねぇ

たどり着いたスーパーは完全に地元御用達で、比較的コンパクトだったけれど必要なものは十分に揃っていた。さすがイタリアだなと思うのは、この規模のスーパーでもハムやチーズの量り売りのコーナーがとても充実していること。100g単位でなくても50gとかスライス2枚なんて買い方も出来るらしいと事前情報は得ていた。試しに売場のお姉さんに「プロシュートとサラミを30gずつ。あなたのお奨めを選んで」と頼んでみたら快くOKだった。30gでも生ハムで5〜6枚、サラミは8〜9枚ある。1人前にちょうどいい量でしょ。チーズも30種類くらいあって、私の好きなペコリーノだけでも地方ごとに5種類あった。指で1cmくらいの厚さを示して「このくらい、いやその半分、あーもうちょっと」などと言いながらペコリーノ・トスカーナを切ってもらった。渡された包みに貼られたラベルには18gとあった。これも1人前にちょうどいい量だわ。

お次はワイン。地元御用達スーパーなので激安のテーブルワインしかないけれど、それでいいの。スクリューキャップでなおかつハーフがあればいいんだけど。そんなものはなく、かわりに紙パックのワインを見つけた。1リットルのものもあるけど250mlずつの3個パックがあった。これいいね! お値段なんと€1.58 !! 30本入りで€0.75のグリッシーニも一袋。ちなみに生ハムはパルマ産なのにたったの€1.44、アルブッツォのサラミが驚きの€0.49、チーズは€1.22。安過ぎて顎がはずれそう。戦利品をわざわざ持参してきたトート型の保冷バッグに詰め込む。保冷剤がわりによく冷えた水も3本買い、間にハムやチーズの包みを挟み込むようにしてぴっちりと。うん、これで3時間くらいはもつと思うの。

初めての国際フェリーにいよいよ乗り込む!

心はすっかり今晩の航海に向いてウキウキしているものの、フェリーターミナルまで一気に歩くのはちょっと遠い。17時を回ってなおじりじり照りつける陽射しと、3kg近い保冷バッグもだんだんずっしり重くなってくる。そういえばランチ以降まともに休憩してなかったよなぁと思い出し、途中のバールに立ち寄ってカフェ・マッキャートをきゅーっと一杯。座っちゃうと動きたくなくなりそうなので、カウンターの立ち飲みで。

港にほど近いロッジア通り Via della Loggia という狭い路地に面してロッジア・ディ・メルカンティ Loggia dei Mercanti が見える。ヴェネツィアン・ゴシックで装飾されたファサードが美しいのだけど、通りが狭過ぎて全景を撮るのは難しそう。残念なことに今の私は、疲れて汗だくで保冷バッグも重くて、ゆっくり眺める心の余裕がないのよ。

17時50分頃にフェリーターミナルに着くと、乗船ゲートの前にはすでに6〜7人の乗客が待っていた。預け荷物を無事に受け取り、私も列に並ぶ。18時ちょうどにゲートが開き、ボーディングパスのチェックを受けて中に入るといきなり荷物のX線チェック、ボディチェック、その先にはパスポートコントロールがある。手続きは飛行機とまるっきり同じね。だったらなおさらチェックインオフィスが2kmも離れている意味がわかんないんだけど……まあ、イタリアだからねぇ。

出国審査を終えてターミナルビル内を突っ切り、扉を出るといきなり船の横腹が目の前に現れた。船尾の入口までトコトコと歩く

右側の黄色いラインが徒歩の人用の入口。車両の積み込み作業をしている脇から遠慮がちに乗り込む

乗船口ではオレンジ色の作業服の人たちがトラックやバスの積み込みの誘導をしている。ホテルのドアマンのような男性が旅客担当のよう。促されるままにエスカレーターを2つ上がるとラウンジや売店のあるフロアに出た。デッキ客はここまでだけど、私はキャビンを取っているので奥のレセプションまで行って部屋のキーを受け取る。ここはホテルの手続きとまったく同じね。
部屋のキーをもらったはいいけれど、パスに書かれた「ponte9」の意味が分からずしばらくウロウロしてしまった。船内のカーペットと私のスーツケースのキャスターの相性が悪くて「きゅいきゅいきゅい」という甲高い音がして恥ずかしい。ponteって橋の意味……そうか、船では階をフロアではなくブリッジっていうんだった! つまりponte9は9階。幼児のピコピコサンダル並みによく響きかつ間抜けな音をたてながら廊下を行ったり来たりしている私を、案内のおじさんは口真似しながら盛大に笑ってくれた。好きでこの音たててるわけじゃないやい!

ビジネスホテルみたいな廊下。私のキャビンは中央エレベーター降りて角を5回曲がったどんづまりだった。隣は非常口なので、緊急時にはかえって有利なのかも?

2人用キャビンをシングルユース。1人使用だと下のベッドに荷物を広げたまま上のベッドで寝られるので楽ちん

窓からはちょうどアンコーナのカテドラルが見えた。出航するまで限定の光景だけど、ちょっと嬉しい

私の予約したキャビンは、上から3番めランクで、窓つきシャワーつきで運賃込みの12800円。AFerryというサイトで日本語で日本円で予約購入した。移動費+宿泊費と考えるとお得ね。2人なら17000円くらいなので一人当たりはもっとお得。ちなみに同じシャワーつき2人キャビンでもインサイドで窓なしだと1200円ほど安く、共同シャワーになるとさらに2800円くらい安い。

夕暮れのアンコーナ出航と、海上で見る日没

ひととおりキャビンをチェックして30分ほど休んでから、船内の探索に出た。子供みたいよね。でも、船旅経験のない私は初めての国際フェリーにワクワクだったのだ。
まずはワンフロア上の10階まで行ってみる。ここは私のキャビンのある9階とほとんど変わりない感じだった。さらに最上階の11階に行くと、半分はラグジュアリーキャビン、半分が展望デッキになっていた。

最上部のデッキの甲板はアドリア海の色のような鮮やかなブルーに塗られていた。アンコーナの街も丘の上の大聖堂もよく見える

続々とクルマが積み込まれていく様子を見下ろす。鉄道の引き込み線の跡もある。船は11階相当の高さがあるので落ちている影もビルみたいに細長い

だいぶ太陽は傾いてきたけれど、19時台ではまだこんな感じ。出航と日没がぴったり重なると素敵なんだけど……

積み込み作業やアンコーナの町や傾きかけた海上の太陽などを眺めながらデッキを行ったり来たりしていたけれど、出航まではまだ時間があるのでいったん戻ることにして、今度はラウンジや売店ウォッチ。一応国際フェリーなので免税店やブティックなどもあるけど、品揃えは「あ〜〜ぁ」という残念さ。SNAVのオリジナルグッズなども今ひとつ残念な感じ。
ラウンジに行ってみると、照明がピカピカでガラステーブルに反射しまくって、あまり品のいい雰囲気ではないけれど、思った以上にたくさんの人で賑わっていた。窓側の席がことごとく埋まっているけれど、どの窓のカーテンもぴっちり閉ざされていて、それってわざわざそこに座る意味ないんじゃないの?

場末のキャバレーっぽい照明のラウンジでビールを飲む。キャビンを取らないバックパッカーは、営業終了後のラウンジのソファにゴロ寝したり床に寝袋で過ごすらしい。それなら4000円くらいの運賃だけですむからね

ビールで景気づけをした私は出航時刻の20時近くに再びデッキに上がった。思ったより集まってる人は多くない。まだ5月なので乗客もそんなに多くないのかも。ただ、ほんの1時間しか経っていないのに、デッキから眺める風景の色合いは一変していた。アンコーナの町も海もオレンジ色に、あたりの空気そのものが赤みを帯びた金色になっている。日中には多かった雲もいつの間にかほぼ一掃されて、日没ショーには最高のシチュエーションかも?

アンコーナの町が夕陽に染まり始めて陰影がくっきりしてきた

西側を振り返ると、夕陽はほぼ水平線近くまできている

15分遅れで出航。真っ赤に染まったアンコーナの町から船はどんどん離れていく

港を離れてアンコーナの町が遠くなったら、日没ショーのフィナーレはすぐ。急いで甲板を逆サイドに移動する。夕陽は今まさに沈まんばかり。こんなに絵に描いたような美しい日没に出逢えるなんて!

水平線に半分入った! 揺らめきながらオレンジ色がどんどん濃くなっていく

最後に一瞬の煌めき……沈んだぁぁぁ!

陽が没した瞬間、いきなりすっと冷気が流れ、一気に薄暗くなる。みんな肩をすぼめて一斉にわらわらと引き上げていった

20時予定だった出航は15分遅れた。この日の日没時刻が20時30分だったので、おかげで夕陽に染まるアンコーナの町と海上での日没をセットで楽しめた。昨日雷雨にあってずぶ濡れた埋め合わせしてもらえたようだわ。

楽しく美味しい船内晩酌はとっても幸せ

夕暮れの出航と日没ショーをこれでもかと堪能して高揚した気分のまま、スキップらんらんらん状態でキャビンに戻ってきた。実を言うとこのウキウキ高揚感はフェリーターミナルでゲートの開くのを待っていた時から始まっている。飛行機の場合なら慣れている荷物チェックや出国手続きも船の場合は初めてで、ホテルならなんてことないレセプション手続きも船のキャビンは初めてで、ラウンジでビール飲むのすらなんだか楽しかった。で、その流れでこのロマンティックな出航体験ですよ。そしてこれから美味しいハムやチーズで晩酌するんだもん、ウキウキしちゃって当然でしょ!

さっとシャワーを浴び、楽ちんな寝間着に着替えて、さあ "宅飲み" 開始 !!!

スーパーで買った戦利品を広げ、ラヴェンナのB&Bでいただいてきたクッキーも添えて、幸せな船内の晩酌タイム。ハム類とチーズは食べきったけれど、グリッシーニとワインは半分残った。つまりこの幸せは合計€5足らずで味わえたということ

4時間近く経った保冷バッグの中身は、さすがに冷たくはなかったけれど温くもなっていなかった。うん、水のボトルだけでもこれくらいの時間なら余裕で持ち運び可能なんだわ。スライスされた生ハムには一枚一枚の間に薄いシートをはさんで剥がしやすいようにしてくれてある。へええー、たかがスーパーの量り売りかと思ってたけど、ありがたい気遣いね(^^)
寝台の上で半分ゴロ寝しながらハムやワインを味わう。このあえて "お行儀悪く" することが楽しくてたまらない。移動しながらの飲食っていうのはもともと楽しいもんね。それにしてもこのプロシュート美味しいな、こんなものが日本円にして200円くらいで本当にいいのかしら! 誰もいないキャビンだからこそ「美味し〜い、楽し〜〜い」と、わざと声に出してみた。足をバタバタバタ……とさせてみたりして。そうなの、はしゃいでいるんですよ、私は。いい歳したオバちゃんのくせにね。

日本で寝台特急を使ったことが数回、海外では16年前にスペインのバルセロナからセビーリャまで夜行のホテルトレインに乗ったことがある。お泊まりしての長距離移動はワクワクするなあ……と思ったけれど、それはちゃんと寝台のある場合限定だと考え直した。飛行機のエコノミーや夜行バスは、まあ、ちょっとは楽しい……と言えなくもないけど、むしろ仕方なく乗る要素の方が高いもんね。
とにかく夜行フェリーでの移動は楽しい!ということはわかった。若いバックパッカーで男性ならデッキで雑魚寝もアリだろうけど、中高年オバちゃん一人旅でそれはナシ。防犯云々よりも体力的にね。
欲を言えば、船内Wi-Fi設備があったらもっとよかったのに。もしかするとラウンジ周辺にインターネットコーナーなんかがあるのかもしれないけれど、キャビン内に接続サービスはなかった。出航後2時間くらいは携帯電話からテザリング出来たけれど、それ以降は完全に圏外になってしまった。もうイタリアでもクロアチアでもないエリアなのね……。

波のうねりを時折感じるものの海は静かで、船はほとんど揺れなかった。ゆりかごのような緩やかなうねりと細かく伝わるモーターの振動とがむしろ心地よく、いつの間にか眠りに落ちていた。

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