Le moineau 番外編
イタリア〜スロヴェニア〜クロアチア漂遊
- ヴェネツィア共和国の足跡を辿る -

日曜日のピランは朝から雨降り

6日めの朝。昨晩は22時に早寝したせいか、3時過ぎに目が覚めてしまった。さすがに窓の外は真っ暗だけど、まだ雨は降ってないみたい。でもネットで天気予報を調べると、アドリア海北部沿岸は終日雨、強い降り、ところどころで雷雨という大荒れのありさま。うつらうつらしているうちに、ポツポツと雨音が聞こえてきた。あー…あ、やっぱり予報どおりなのね。海岸沿いを早朝散歩するつもりだったけど、そんな気持ちは萎えちゃった。
ふて腐れて二度寝を決めこみ、目覚めたら雨はさらに本格的な降りになっていた。ますます気持ちが萎えてくる。昨日気になっていた15分ごとの聖ユーリ教会の鐘は、朝6時半から鳴り始め、7時45分には長く連打された。夜はたぶん21時か22時が最後だったと思う。よく覚えてない。

いつの間にか8時を20分も過ぎていた。階下からはカトラリー類がカチャカチャする音や話し声が聞こえている。とりあえずはしっかり朝ごはんを食べなくちゃ。

ビュッフェ形式にするスペースがないせいか、最初からテーブルごとに盛って出してくれる。この規模の宿で生野菜がついてるの珍しいし、果物が豊富なのが嬉しい! 左側の餃子みたいなのはあまり甘くないお菓子。ジュースはその場で絞った生ジュースだった

朝食室の窓からは聖ユーリ教会の鐘楼がこんなに近い位置に見える

今日は5室すべて満室のようで朝食室のテーブルは全部埋まっていた。ひとり客の私にあてがわれたのは柱の際の一番狭い席だけど、まあ仕方ないわな。
ゆっくり朝食をとりながら今日はどうしようか考えた。本来の予定ではピランを基点に周辺の小さな町を巡る予定だったんだけどなあ。雨の街にもそれなりに雰囲気あるだろうけど、一番見たかった空と海の色がなあ……。日曜はバス便減るので、8時になると同時に朝食とって迅速に行動するつもりだったのに、意気消沈してすでに出遅れてるし。遠出(といってもバスで最大40分くらいの範囲)はやめて、一日ピランで過ごす? いやいやいや、鐘楼も城壁も登っちゃったし、さすがに持て余すでしょ。 食べ終わって部屋に戻ってからも、いろいろ考えながらぐずぐずと支度をしていたら、もう9時40分! とりあえず出かけよう。旧市街内部と教会内部はまだ見ていないのだし、後はなりゆきで考えよう。

雨のピラン旧市街をふらふら徘徊

つるつるに摩耗した石畳の坂道を滑りそうになりながらタルティーニエフ広場におりてきた。雨は「しとしと」よりは強いけれど「ザーザー」の少し手前といった程度。そんな降りの中、広場中心を囲った網の内側では、あのよくわからない競技をやっていた。どうやら土日かけてのイベントなのね。雨天決行なのね、ご苦労様なこと。

シーズンにはまだ早いせいなのか、日曜日のせいなのか、こんな天気のせいなのか、雨のピラン旧市街に人影は少ない。たまに行き会うのも用事があって歩いている地元の人で、こんな日に散策している観光客は私くらいなものかしら。

半島の西側のピラン湾に面した海岸通りには気の利いたレストランやカフェが連なっている。今は畳まれているパラソルの下にいくつもテラス席が並べば、どれだけ賑やかで心弾む風景であることか! ……のはずが、この閑散具合は寂しい限り。海の向こうには隣国クロアチアの海岸線も望めるはずなのにね

「岩場に何かいる!」と思って近寄ったら、ヘッタクソな人魚像だった

海の色はどんより灰色だけど、海水はこんなに澄んで透明度が高い

鉤爪のようなピラン半島の先端部に聖クレメント教会がある

教会入口にはロープが渡されて中には入れなかったけれど、扉が開いていたので中が覗けた。なんか、磔像がバットマンみたいなんだけど……?

半島の先端部の少し手前に聖クレメント教会 Cerkev sv.Klement の可愛らしい姿が見えてきた。外壁がカビっぽく黒ずんでいるのは海辺にあるんだから仕方ないよね。礼拝堂レベルの小さな教会だけど、円筒型の鐘楼を持っていて、背面部には灯台もあった。この灯台を境に左側がピラン湾、右側がトリエステ湾となる。海岸線の片側はクロアチアへ、もう片側はイタリアに続くのだ。今日はどっちを向いても白っぽく霞んでて、空と海の境界すら曖昧だ。晴れていればどれだけ素敵かと思われる海沿いの散策路は、雨混じりの海風が吹きつけてくるので、傘をさしていても髪や服がじっとりしてくる。

海に張り出したテラスでは、たくさんの椅子とテーブルが積み上げられてズブ濡れていた

ダイビングショップの前ではこれからの潜水準備に余念のない人たちが。そうか、スキューバは雨でも楽しめるものなのね

海岸の遊歩道は海と崖によって行き止まった。上から見ていた以上に急峻な崖の上に聖ユーリ教会のファサードが顔を覗かせている。この位置からでは鐘楼は先っぽがちょっとしか見えない

西側のピラン湾沿いから北東側まで、海岸通りに面した建物の1階はほとんどが飲食店だった。西側はちょっと洒落たレストランやカフェやバー、北東側はセルフサービスやファストフードに毛の生えたようなリーズナブルな店やアイスクリーム店。一応みんな店を開いてはいるけれど賑わってるとはとてもいえないわね。

舗装して整えられた海岸通りは聖ユーリ教会の建つ丘の手前でいきなり終わる。石のゴロゴロした海岸に降りられるみたいなので行ってみたけれど、ただ「降りられるだけ」だった。普段ならここで海水浴や日光浴する人たちがいるんだろうなあ。
聖ユーリ教会はすぐ近くに見えているけれど、崖に阻まれてこれ以上は進めない。崖の壁面にジグザクの階段が取りつけてあったけれど、門扉が閉じられていて通れない。多分この上の建物の人たち専用の階段なんだろう。いったんUターンしないと。

水色、オレンジ、黄色、ワインレッド……鎧戸がさまざまな綺麗な色で塗られているのが印象的

雨降りの小径巡りならではのしっとりした風情は、それなりに味わいがあるとはいえる

昨日から降り続けているのに、外に洗濯物を干している意味がわからない。いや、干してるんじゃなくて洗ってるのか??

屋根瓦は全部同じオレンジ色なのに、壁はかなり色とりどりに塗り分けられている


北側から聖ユーリ教会にアプローチする道は、気持ちのいい展望台になっていてベンチがいくつか並んでいる

お次は旧市街内部の路地を適当にほっつき歩いてみる。路地がゴチャゴチャと入り組んでいるのは確かにヴェネツィアっぽさを彷彿させるけど、なんせ狭いのですぐに海岸に突き抜けてしまう。なので "迷宮を彷徨う" といった風情はこれっぽっちもない。「ここはさっき通ったよね」「あれ、ここに出ちゃうのか!」などとブツブツ言いながらうろうろ。路地内部は風が遮断されるので海岸沿いより歩きやすい。
旧市街の建物じたいはどれも古そうだけど、壁や鎧戸はさまざまな色で綺麗に塗られて整えられている。ただ、そうした綺麗な建物のほとんどに「Apartment」のプレートがついていた。旧市街内部で実際に暮らしている人っていうのは、とても少ないのかもしれないね。

ドラゴン退治伝説の聖ユーリ

旧市街内部をくねくねジグザグぐるっと巡ってきても、30分もかからなかった。さて、昨日はミサで入れなかった聖ユーリ教会 Zupnijska cerkev sv. Jurija の中を見てみよう。町の守護聖人である聖ユーリは、古代ローマ末期の殉教者。初めて聞く名前だなーと思っていたら、ドラゴン退治伝説で有名な聖ゲオルギウス(あるいはセント・ジョージとかゲオルグとか言語によってさまざま)のことだった。スラヴ系言語だと「ユーリ」になるらしい。馬に跨がり、槍でドラゴンと闘っている騎士の姿で表現されている。あー、そういう彫像や絵画なら見たことあるある! あれが聖ゲオルギウス=聖ユーリなわけだ。

団体グループが見学していたのか、ぞろぞろ出て来た人たちと入れ替わりに堂内に入った。入口前には大きな水たまりができていて、扉の内側には足拭き用に数枚のバスタオルが敷いてあるものの、すでにビチャビチャ。ちゃんと靴底が拭けているのか、かえって水を絞り出しているような気もするけれど、とりあえず念入りに踏みしめて。

聖ユーリ教会はさほど大きい教会ではないけれど、内装は17世紀のバロック様式で、明るく清潔感があり、それでいて華やか。木製の格子天井の間の天井画には聖ユーリの騎馬像がいくつも描かれている。壁面にも聖ユーリの彫像があちこちにある

入口扉の上には小さいながらもオルガンが。白地に金の装飾がとても上品でエレガント

燭台の装飾も白地に金。聖ユーリの頭文字である S.J のエンブレムも美しい

ドラゴン退治する勇ましい聖人を祀る教会なのに、内装はとてもエレガントだった。金色が効かせ色になった真っ白な空間で、天井画だけが色を使っている。トスカーナ出身の画家の作だという絵、ハッキリ言って技巧的にはそうたいしたことはない。側廊に飾られた絵も全然うまくない、ていうか下手。でも、この堂内全体の雰囲気はとても好きだわ。
ひととおり見終わったところで、これからミサなのだと告げられる。私が外に出ると同時に入口にロープが張られ、外にいる人たちは入場を断られていた。地元の人のみのミサでは観光客は遮断されるのね、昨日もそうだったのね。私はいいタイミングで見学できたってことかな?

教会に付属した洗礼堂には入場はできないけれど、扉を開け放っていて内部を覗けるようにしてくれている。白地に金の装飾が少しだけあるけれど、全体にシンプルで質素な感じ

聖ユーリ聖堂以外にも他の教会も見てみようかな? 城壁に至る坂道の途中に聖フランチェスコ教会 Cerkev Sv. Franciska への矢印があったし、城壁の上から小さな塔も見えていたっけ。そのつもりで何となくその方向に歩いてみるものの、急に雨が強くなってきて迷ってしまった。迷った結果わかったことは、城壁近くの高台は住宅街であるということだった。旧市街の建物は飲食店や宿泊施設にして、みんなこちら側に住んでいるのね。当てずっぽうに歩くうち、聖フランチェスコ教会には辿り着けないままマリーナ近くまで来てしまった。もういいや、これでピランの見どころは一応見終わってしまったということにしよう。

変わり種博物館で時間つぶし

雨はザーザー降っている。マリーナ近くまで来ているのならバスターミナルはすぐそば。それなら当初の予定どおり別の町に行ってみよう。まずは、トリエステからの往路で最初に通過してきたコペルに。そう思って時計を見ると11時38分。ピラン〜コペル間のバスは平日なら15分おきに出ているのだけど、あいにく日曜の今日は1時間に1本に減便するので、毎時40分バスターミナル発なのだ。いくらバスターミナル近くにいるといっても、さすがにここから2分では着けない。そうなると次は12時40分かあ……。じゃあ、ちょっと時間つぶししなくちゃ。

時間があったら入ってみる候補にしていたのが、海洋博物館 Sergej Masera Piran海中活動博物館 Muzej podvodnih dejavnosti。とにかく雨が激しくなってきたので、すぐ近くにあった海中活動博物館の方に入ってみた。
青いネオンサインで Museo とか Musium とでかでかと書かれているけれど、所見では土産物店にしか見えない。土産物屋のレジで切符を買うと奥がミュージアムになっていた。でっぷりと太った受付の女性はフレンドリーでとても感じがよかった。

海中活動博物館とはその名のとおり、展示の中心は潜水服やダイバーの仕事道具、潜水の歴史についてのものだった。ダイビングといっても、スキューバやスキンダイビングのようなレジャーや漁などの潜りではなく、港の改修工事や保全や船の修理などの港湾作業のための潜水。古い港町ピランならではユニークな博物館だ。

海中活動博物館は、人類の潜水の歴史について展示した私設博物館だった。潜水服を着た人形が立っているのが目印。この写真は前日のもの。雨が強い今日は人形は中に引っ込んでいたけれど、濡れても問題のない服なんじゃ?

潜水服を着た人形がずらっと並んでいる。コイツらがいきなり動き始めたらちょっとホラーだわ……と、戦慄してしまう

17世紀の潜水服ですってさ。こんなん、笑うしかないでしょ。ホースのようなもので繋がっているだけなので、命を落とすような事故もあったに違いなく、実際は笑えるようなものではないのかも……

内部は照明が少なく、薄暗かった。ほとんど宇宙服のようなゴツイ潜水服を着た人形が並んでいて、一瞬ギョッとする。この暗さは海の底にいるような気分にさせる演出なのかしら。ずらっと並んだ人形の着ている潜水服はラベルを見ると1950〜1970年代くらいのもののよう。ほんの50〜60年前のものでしかないのね。そう思うと潜水服の進化は目覚ましい。あ、でも、いわゆるスキューバ用のウェットスーツと潜水作業着とは異なるものなのかも? 私はダイビングはしないのでよくわからないけど。
とはいえ、煌煌と明るくしなくてもいいけれど、もうちょっとどうにかならないのかしら。説明文も紺色のパネルに水色と白の文字でちまちまと書かれていて読みにくいったら。私はほとんど老眼が出ていないのだけど、それでもこの文字の小ささと色と暗さはないわぁ〜!

衝立の裏側の奥の展示室はさらに暗く、古い写真や文献資料がメイン展示なので余計に見づらかった。展示スペースは1フロアしかなく、精一杯時間をつぶそうと思っても30分が限界。まあ、個性的な博物館だとは思うけれど、この展示内容で€4.50っていうのはちょっと高すぎるんじゃない? 途中でお客が来たと思ったら近所のおじさんで、受付の女性とずーっとお喋りしている。私が過ごしていた間には彼以外には一人も来なかった。

バスに乗ってコペルまで

博物館の外に出ると、さっきほど激しくではないものの雨はまだ降っている。少し早いけどバスターミナルに行くことにした。バスターミナルといっても建物があるわけではなく、カフェの外壁に中〜長距離バスの時刻表が貼ってあるだけ。乗るのは昨日と同じArriva社のバスだけど、近郊路線の時刻表はなかったので、あらかじめウェブで調べておいてよかった。

早めに着いたはいいけれど、待合室などないので、こんな雨の日は狭い軒先にみんなでひしめいて立ってなくちゃならない。カフェで時間つぶしするには半端だし、コペル方面へのバスがどこに停まるのかもわからないので、出来たらこの場を離れたくないのよね。昨日トリエステから乗ったのは一応インターナショナル便で、白い車体の横腹に大きく斜めに水色の社名ロゴが書かれていた。扉脇に小さくArrivaのロゴの書かれた、いかにもローカルサイズの白いバスが発着しているので、たぶんこれだろうな。20分ほど待つ間、この白いバスが5本くらい発着していったけれど、そのどれもが行き先表示が「koper」ではない。

12時40分近くなってもそれらしきバスが来ないので、折り返しの待ち時間に一服しに降りてきた運転手にコペルに行くか尋ねてみた。「この次に来る大きな青いバス」とのこと。ああ、ローカルバスじゃなくてリージョナルバス扱いになるわけか……。一瞬考え込んだ私に、言葉が通じてないと思ったのか、近くにいたおばさんが寄ってきて、「青よ、青。この色よ」と運転手の水色のシャツを指差す。ありがとう、でもね、ブルー=青なことくらいわかりますわ(^^;)
白い小さな路線バスが発車してほどなく、淡い水色のシャツとは似ても似つかない鮮やかなスカイブルーの車体のバスがやって来た。Arrivaのロゴも白抜きででかでかと書かれていて、そして本当に大きなバスだった。さらにピカピカに新しくて立派。

イタリアと違って乗車時に運転手に料金を払える(ていうか、払えないのイタリアだけですから!)。コペルまでは€3.10だった。すでに発車時刻を数分過ぎているので、私が乗り込むと同時にバスは発車した。何とピランからの乗客は私ひとり! 15分おきの便が日曜で1時間おきになっているのに、私ひとり? 採算とれるの? ……と、大きなお世話の心配するのもわずかの時間。次の停留所からもその次からも、さらにその次からも、どんどん乗ってくる人はいて、すぐに6割くらい座席は埋まった。

旧市街のビューポイントに位置するバスターミナルだけど、駐車場に毛の生えたレベルでしかない。折り返しの時間調節中、若い運転手が熱心に覗き込むのはもちろんスマホ

ピラン〜コペル間の路線バスは、観光バスや長距離バス級の巨大な車体だった。こんな大きなバスに乗客が私ひとりだけ……

コペルまでは30〜35分ほど。コペルのバスターミナルは鉄道のコペル駅と隣接しているけれど、私は手前の旧市街近くの Zeleni park という停留所で降りた。ちなみに、パークといっても公園ではなく大きなショッピングセンターの名前だった。空はどんよりしているけれど、今のところ雨はあがってるみたい。

コペルはスロヴェニアで唯一の貿易港を持つ町で、港周辺の旧市街と大きなショッピングモールや高層住宅のある新市街とが隣り合っている。東西900m、南北600mの小さな旧市街外側の大きな道路にバス停はあり、200年近く前までは海だった場所を埋め立てた場所とのこと。つまりコペルは、中世にはアドリア海に浮かぶ小島だったというわけ。

このバス停にはちゃんと屋根と囲いとベンチがあるので、雨が降ってても大丈夫。時刻表もあったので、帰りの時刻をメモっておいた。ピラン方面は14:43、15:40、16:30。やっぱり1時間に1本なのね。
さあ、それでは小さなコペルの町を歩いてみましょうか!

感激のタコサラダ&いかグリル

でも、街歩きの前に腹ごしらえしなくちゃ。旧市街外側のバス停近くにフードコートや手頃な飲食店の集まるモールがある。悪天のせいか日曜だというのに、全体的に閑散としていたけれど、一軒だけ賑わっている店がある。TripAdviser のカジュアル部門でもぶっちぎりの高評価店で、ちゃんとした店名があるのかないのか、TripAdviser でも Google でも《Fritolin》としか書かれていない。Fritolin というのは、古い時代のヴェネツィアで貧しい人たちが魚介のフライを買い求めた場所のこと。「魚介のフライ屋さん」という意味の、単なる飲食店形態を表す言葉でしかない。スロヴェニアのアドリア海沿岸ではヴェネツィア共和国時代の名残りがあるのだ。貧しい人向け……つまりカジュアルでリーズナブルってこと!

店名なんかなくても、ここだけ人が集まっているからすぐわかった。狭い店内の半分以上が冷蔵庫と調理スペース、壁際に2〜3人程度の立ち席カウンター、道路に数卓のテーブル席と相席用のカウンターテーブルとワイン樽の立ちテーブルだけ。メニューは、いか、タコ、海老、イワシなどの魚介類。調理法はフライかグリルのみ。使い捨てのプラスチックの食器で、みんな相席でササッと食べていくかあるいは持ち帰りにするか。
タコのサラダとやりいかのグリルと両方頼んだ。ペットボトルの水と合わせてしめて€11。タコのサラダだけ作り置きで、他はオーダーが入ってから焼いたり揚げたりしてくれる。安くたって出来立て熱々のものが食べられるのだ。

道路に面した屋台に毛の生えた程度の店。青い柱に大きな派手な看板を掲げた方の店ではなく、その隣の立て看板の店の方

いかの焼き上がりを待つ間、隣にお客さんが来るまでパンの欠片を分け与えて相席してたコ。お行儀よくて勝手にパン籠から盗み取ることはしなかった

ぶつ切りのタコは柔らかでいてプリプリの歯ごたえたっぷり。みじん切りのニンニクや玉ねぎやバジルや何かのスパイス……超美味しい! 激美味しい!! 爆美味しい!!!

小ぶりのやりいかが15匹くらいある。これもにんにくバジル風味で、とにかく焼き加減が絶妙。いかの旨味と甘みが引き出されていて柔らか〜い

盛りがたっぷりな上に大切りのパンが一皿につき2切れもついてくる。おひとりさまなら一皿でも十分だし、数人で何皿かシェアして突つき合うのがいいんだろうけど、あまりに美味しくてひとりで二皿ペロリと平らげてしまった。こんな露店のようなシチュエーションでもこれだけ美味しいなんて!
去年ドゥブロヴニクで食べたやりいかのグリルが美味しかったので、再びトライしたわけだけど、量は倍近くて値段は半分。いかのサイズは小ぶりだけど、そのぶん柔らかくて、味はこっちが断然好み。私が感涙にむせびながら食べている間にも次から次へと客は訪れ、入れ替わり立ち替わり相席し、あるいは立ったままパクついたり。大人気の店だった。

コペルでも雨の旧市街をうろうろ徘徊

旧市街の外側を取り巻いている道路に沿って東側に歩き、ムーダ門 Vrata Muda から城壁内に入る。この門を境に旧市街と新市街があからさまに分かれている。門は今にも崩れそうにボロボロで、常に海風にさらされるせいか、カビっぽく黒ずんでいる。内側から見ると紋章の彫刻だけが新しいものに取り替えられていた。門の内側はそのままプレシェーレノフ広場 Presernov trg に続いている。普段は広場いっぱいを埋め尽くしているはずのカフェのテーブルや椅子は、ひとまとめに積み重ねられてロープで束ねられている。天気のせいというより、日曜は定休日みたいね。観光地ではないキリスト教の国は日曜日は休息日なのだ。

門近くまで歩いてくる間、時折ポツポツ当たるなーと思っていたら、門周辺で写真を撮っている時に突然ザーザーと降り始めた。慌てて傘を広げるもののまるでバケツをひっくり返したような激しさで、とても歩けない。積み重ねられた椅子やテーブルの上にはパラソルがいくつも広げたままだったのは幸いだった。とにかく避難、避難。激しい降りはわずかな時間のことで、雨宿りしていたのは5分ちょっとだったかも。

このムーダ門の部分にしかかつての城壁の名残りはない。外側から旧市街内をのぞいてみる

旧市街内からムーダ門ごしに新市街を見る。門をはさんで内と外でまるで街並が違っていて面白い

プレシェーレノフ広場の奥にかつての水汲み場だった噴水がある。地下水の豊富なスロヴェニアでも、イストラ半島では水不足に悩むこともあったそうで、コペルがまだ島だった14世紀頃には潟の上に橋を渡して水道水路が引かれていたとか。だから橋の泉 Da Ponte Fountain という名前なのね

小やみになったので歩き始めたものの、時折サーーーッと雨が強くなる。少しするとまたポツポツ程度になる。その繰り返し。旧市街内のショップは全部閉まってて、時たま店を開けている飲食店があるだけで、閑散としていてまるでゴーストタウンのよう。歩く人にもほとんど会わない。大抵の場合、街並の賑わいや人の流れなどで中心部の方向が見当つくものだけど、これでは全然雰囲気がつかめない。見当違いの方向にウロウロしてしまって、さっきのショッピングモール近くの方まで出てしまった。

チェブリャスカ通りとでも読むのかしら、Cevljarska ulica という狭い路地が中心部まで一直線に結んでいると気づくまで時間がかかってしまった。足を踏み入れてみると、両隣にずらりとショップやお洒落なブティックの並ぶとても雰囲気のある路地だった。ああ、この感じ、ヴェネツィアに似ている! では何故この小径に入らなかったか……それは立ち並ぶショップがすべて休業日で、狭い路地を歩く人はなく暗かったから。行っちゃいけない雰囲気が漂っていたのよ……

《Piranske Soline》の看板が出ているショップ(お休みだけど)の脇を入っていく。ここが目抜き通りにつながる入口とはとても思えない

200mは続く小径の両脇にはお洒落な店が並んでいる。とても楽しいショッピングストリートのはずなのに、その中の一軒として開いていなかった。進むうちに正面に聖堂の鐘楼が見えてきた

いっさいの照明が落とされて薄暗く、それはもう清々しいほどに金輪際開いてない。空模様は清々しさとは対極で、傘が邪魔臭くなって閉じるとやっぱり降ってるような、でも開くとやっぱり邪魔なような……足元はすでにびしょびしょで、靴の中まで水が染みているし、服も髪も乾く暇もなく全体にじっとり湿って気持ち悪〜〜い(~.~)

コペルの中心広場はヴェネツィア風

一直線に続く小径の先に頭を覗かせている鐘楼を目指し、ずんずん歩いていくと、いきなりすこーーんと空間が開けた、細い暗い路地を抜けると教会のある広場に出るところは、とてもヴェネツィアっぽい。パッと見したところ、広場を囲んでいる建物もちょっとヴェネツィアっぽい。抜けて来た路地に近い一番手前には、執政官の館 Pretorska palaca。ここには一階に観光案内所があり、ガイドツアーによる内部見学を受け付けてもいるようだけど、日曜なので閉まってる。もちろん、館の壁には有翼のライオンのレリーフあり、コペルがヴェネツィア共和国の一部だったという紛れもない証拠だ。

左側には聖母被昇天大聖堂 Stolnica Marijinega vnebovzetja と、その傍らに鐘楼。ピランの聖ユーリ教会の鐘楼よりは低そうだけど、やっぱり聖マルコ寺院のそれにちょっと似ている。正面には一階がそのままカフェになっているヴェネツィア式のロッジア Loggia。そんなヴェネツィア風の建物でぐるりと囲まれている広場の名前は、なんとチトー広場 Titov trg という。へぇ〜、チトーの名が残ってるなんて、イタリアっぽく見えてもやっぱりここは旧ユーゴの国なんだなあ……。
……などと思いながら広場の真ん中にぼーっと立っていたら、ひげもじゃの青年がにこにこと大股で近寄ってくる。彼は私の真正面に立つと「僕はお腹が空いているのにお金がないんだ。僕にサンドイッチを買ってくれないか?」明瞭な綺麗な英語で言った。
ああ、出たよ、出た。去年も遭遇した、若くて小綺麗な身なりでフレンドリーで能動的で堂々とした新手の物乞い! もちろん、私は首を横に振る。断られれば食い下がらずに捨て台詞も言わずに爽やかに去っていくのも彼らの特徴。そのあと青年がターゲットににしたのは、広場の片隅のATMでお金をおろしていた杖をついたおばあちゃんのところだった。質のよさそうなレインコートを着た上品そうなおばあちゃんだったので、もしや強奪行為などに及ばないかと注視してしまったけれど、おっとりと邪険にしてて、彼も素直に引き下がっていた。さすが! よかった、他人事ながら安心したわ。だからって私がサンドイッチを買ってあげる義理は1ミリもないからね!

全体的に地味な雰囲気の聖堂と鐘楼だけど、一応ヴェネツィアン・ゴシックの装飾がされている。ロッジアのアーチ装飾は紛れもなくヴェネツィア風だ。それでも広場の名前は「チトー」なのよね……

ファサードの地味地味さに反して、聖堂内部は意外にも奥行きがあり、白基調のせいかこんな天気でも明るく感じる

もちろん主祭壇の祭壇画は聖母被昇天図。画家の名前はわからないし、あんまり巧いとも思えないけれど、全体的に清楚な雰囲気が漂っている

側廊の祭壇は色大理石のモザイクがとても綺麗だった

聖堂内には誰もいなかった。私が内部を見ている間にも誰も来なかった。鐘楼に登る扉も閉ざされていた。旧市街内のここまでの道すがらに会う人も数えるほどしかいなかった。こんな天気のせいだろうけど、なんともうら寂しい。コペルは日曜日に来るべき町ではなかったのかなぁ。

ヴェネツィア式のロッジアを転用したお洒落なカフェ《Loggia Caffe Kavarna》。今日みたいな天気でも、半屋内のロッジアのテラス席なら雨風も平気で広場の眺めを楽しめる

広場の鳩たちも雨宿り

真正面に執政官の館が眺められるロッジアのカフェ。この館のヴェネツィアン・ゴシック装飾が一番美しいかも? 雨は降ったりやんだり、少し肌寒いけれどのんびり落ち着ける空間だ

休憩の定番カフェ・マッキャートを、たっぷり飲みたかったので2倍サイズにした。銀の盆にグラスの水とクッキーが一粒添えられてきて、やっぱり街の一等地のカフェだわ、お洒落だわ、きっとお値段もお高めなのかしら……と思ったら、ダブルなのに€1.30だった。何それ間違いじゃないの?っていうくらい。
どうやら支払いは自分でレジに伝票を持っていく方式のようなので、トイレを借りがてら店内に入ってびっくり! 古い館の広間をそのままカフェに転用しているので、天井が高くてとても広い。ゆったりと寛げそうなソファや大きなクッションを置いた席がいくつもあって、その7割くらいがお客さんで埋まっていた。えー、コペル旧市街はゴーストタウンみたいだと思ってたら、こんなにたくさん、こんなところにいたのね。

いずれにしても、このロッジアのカフェは二重丸! ロケーションよし、雰囲気よし、テラスでも店内でも寛げて、おまけに安い!! 店内のショウケースには美味しそうなケーキも並んでた。

最後にコペルの港をちょっと見する

カフェを出て、ロッジアの裏側をさらに海の方向に直進してみた。細かな雨混じりのしょっぱい香りの向かい風が強い。100mほどで港を見下ろす道に出た。スロベニア唯一の貿易港なので、クレーンがいくつも並び、コンテナを運ぶ船やトラック、倉庫群らしきもの、かつての引き込み線の線路跡なども見える。いかにもコンテナ埠頭らしい光景ではあるけれど、規模としてはとてもこじんまりしている。でも、ここなら大型クルーズ船でも入港できそう。

私が立っている場所は港からは3mくらいの高さがあって、ベルヴェデル要塞 Bastion Belveder という古い城塞の上らしい。下に降りて港に沿って歩いてみたり城塞を見上げてみたりする予定だったけど、雨混じりの海風が強くて冷たくて、そんな気持ちにはなれないわ。城塞の城壁は緑地の崖道になっているのでその上を歩くにとどめる。空も海も重苦しい灰色だし、髪も顔も服も靴もじっとり湿ってるし、うすら寒いし、あんまり気持ちのいい散策とはいえないけど。

ロッジアの裏側から港へ続く通りにはパステルカラーの建物が並び、そして閑散っぷりがすさまじい

"キリンさん" の形のクレーンが林立している港風景。当然だけど、こういうのは世界共通ね

西側のマリーナのあたりは、ちょうど旧市街と新市街の境目。まっすぐに伸びたパームツリーの街路樹が南国っぽいけど、こんな空色にはなんてミスマッチなのかしら

旧市街を囲む名残りの城壁の一部がロッジアになっている。すみっこに屋台のようなものが片づけられているので、日時によっては市が立ったりするんだろう

途中に何かミュージアムみたいなものがあるなあ……旧市街の東半分はまだ歩いてないなあ……ぼーっと思いながら道なりに歩いていたら、クルーザーのマストの林立するマリーナが見えてきた。その先はお昼を食べた市場のショッピングセンターだ。ということは、バス停もすぐ近くということ。時計を見たら次のバスまで10分ほどでちょうどいい。ああ、もうコペル観光はこれで終わりでいいやあ。天候の悪さ──というよりは身体が濡れて冷えるのって、とにかく気持ちを萎えさせてくれるよね。

ピラン行きのバスは7〜8分遅れて来た。乗り込むギリギリまで途中のイゾラに立ち寄るか悩んでいたけれど、やめた。イゾラはピランよりもこじんまりした可愛い町で、イゾラ(イタリア語で島の意味)の名の通り、元々は半島の先に浮かぶ小島だった。平日なら15分おきにバスが通るので途中下車してもいいけど、今日は1時間に1本でおまけにスタートから出遅れている。とりあえず手前のポルトローシュまで乗ることにして、€2.70の料金を払った。

イゾラは今は島ではないけれど、高台にある高速道路からだと、海に突き出した小さな旧市街はまるで島のように見える。最初にトリエステから向かう時も、今日コペルに向かう時も、車窓からとてもいい感じに見えるポイントがあった。カーブを曲がる時の3度ほどしかチャンスはないけど、ぜひその写真を撮ろう! バスは半分ほどの乗車率なので、私は張り切って海岸側を見下ろせるよい席に陣取っている。
ところが、コペルで乗り込む頃からまた雨が降り始め、イゾラの旧市街入口に停まった時にはかなり激しい降りになっていた。ビューポイントはイゾラを出た後に高台へくねくねと登っていくあたりにある。満を持してシャッターを切るつもりだったのに、ガラスの内側は湿気で曇り、拭いたところで外側には流れる水滴の縞模様、そこに一瞬だけぼんやり浮かぶオレンジ色の町の塊、上り坂でずんずん加速しながら急カーブに突っ込んでいくバス。ぶれぶれの真っ白写真しか撮れなかった。

>> そもそも急カーブを曲がりながら、振り返った姿勢でガラス越しにシャッターを切るのはかなり難しいので、晴れていてもいい写真が撮れたかは疑わしかった。海に浮かぶイゾラの俯瞰写真を車窓から撮るなら、ピランからコペルに向かうルートで、イゾラ直前の下り坂の部分がいいと思う

まあ、私にはイゾラの町にはとことん縁がなかったってことね。
雨が激しいから速度を落としているのか、微妙にルートも違うのか、こまめに停まって乗り降りがあったせいか、ポルトローシュまで35分くらいかかった。どこで降りたらいいのかわからなかったので、大型ホテルやショッピング街の並ぶ大通りで適当にブザーを押す。

スロヴェニア屈指のリゾート地ポルトローシュは、結構庶民的?

ポルトローシュはピランの南すぐ近くにある町で、もともとはベネディクト修道院の修道士たちの病気治療や保養の地だったとのこと。ああ、塩と海泥を使った "元祖タラソテラピー" ね。リゾート地としては19世紀後半に小さなタラソテラピー施設ができたのが始まりで、今では高級ブティックやカジノなとも伴うビーチ&スパ・リゾートとして観光客が集まるようになったらしい。「ポルトローシュ=薔薇の港」という名前も華やかだ。
通りには大型ホテルがいくつも並んでいる。ピランには家族経営レベルの小さなホテルやアパルトマンしかないので、こちらを拠点にピランに行ったり団体客の受け皿でもあるんだろう。
ブティックや飲食店の並ぶ大通りにはリゾート特有の明るい開放感はあるけれど、セレブな雰囲気は全然ない。スロヴェニア屈指のっていうけどさ、これって高級リゾートなんかじゃないよね、普通にちょっと賑やかな観光客向けの町って感じ。バブル崩壊後の温泉旅館街のような、僻地の寂れ始めた巨大ショッピングモールのような、ハコだけ大きくて人が少ない場末感も漂っている。

とりあえずポルトローシュの町に降り立ってはみたので、おやつ休憩して帰ろう。超人気パティスリー《Cacao》に入ってみると、広い店内は超満員だった。あら〜、閑散としてると思ってたけど、こんなに観光客は存在していたのね。小さな子供を連れたファミリーの割合がめちゃくちゃ高いのは、日曜日だからかな。賑やかで楽しそうな空気で満たされた空間に、10人ほどのホールスタッフたちがスイーツやドリンクを満載したトレーを掲げ持って走り回っている。お互いにぶつかりそうになってもクイックターンで避け合う機敏さが素晴らしい! もしかしたら厳密なオーディションでもしてると思えるくらいにみんな若くてイケメン。うむ、身体の保養だけでなく、目の保養にもなるわね。なんてね(^^)

ビーチに面したテラス席はガラガラで、砂浜の上のデッキチェア席には誰もいない。ようやく店内の一番奥まった位置に2人掛けのテーブルがひとつ空いているのを見つけて座った。

メニューの中から「ZARA」というものを選んだ。チョコレートのアイスクリームにトッピングしたもののつもりだったのに、チョコレートアイスのシェイクだった。とっても美味しかったからOK! お値段は€4.40ナリ

まだ17時を少し回った程度の時間だけど、もうすることがないから帰ろうかな。ピランまでは無料のシャトルバスも出ているらしいけど、乗場はどこかな? それとも普通にバス停で待ってれば路線バスに乗れるかな? でも、今日は本数少ないんだよね……。ピランまでは3km弱、クルマで10分の距離だ。海岸線に沿ってなら3.5km、徒歩45分程度のはず。歩けないこともないんじゃない? 今なら雨もあがってるし、歩いちゃお!

ピランまで海岸沿いをウォーキング

パティスリー《Cacao》のの並びには、海岸に面して数軒のホテルが連なっている。芝生のデッキチェアや小さなプールなどホテル所有の設備はあるけれど、ビーチ沿いは遊歩道として整備されていて一般通行できる。いくつかのホテル敷地内を抜け、海岸からちょっと逸れて内側を抜けたり、基本的に海に沿ってとにかく歩いた。
30分近く歩いた頃、かなり広い敷地の大型リゾートホテルにぶつかった。施設内の案内板を見ると、10階建てくらいの客室棟が数棟、レストランやショップ、銀行ATM、屋内にも屋外にもプールがある。ウェルネスセンターやダイビングセンター、マリーナにはレジャーボートがいくつも舫っている。ポルトローシュからずいぶん離れているけれど、敷地内でレジャーは完結するんでしょうね。とはいえ、いかんせん建物が古びていて、とにかく閑散としてうら寂しいので、セレブ感やラグジュアリー感は全然感じない。気後れしなくてすみそう。

私が敷地内を通り抜けていると、10人くらいの青年グループが雄叫びや歓声や嬌声とともにホテル棟から走り出てきた。大学生くらいかしら、男女比は3:2ほどで、うち2人の男性がこの薄ら寒い日に上半身裸。ああ、こういうグループがバカタレなのは世界共通なんだわ。案の定、裸のひとりが「じゃ、飛び込みまーす!」と宣言して桟橋から海にどぼーーーん! そして「ひゃぁぁぁ〜〜」と叫ぶ。着衣の男性たちは煽るように囃し立て、女子たちはキャアキャアはしゃぐというお約束。心臓麻痺で死ぬことはないだろうけど、冷たいでしょう、今日の海は。そしてふたりめの飛び込む音、悲鳴、みんなの歓声。バカだねぇ。

とにかくひたすら海岸線に沿って歩いていく。ビーチのデッキチェアもみごとに無人。晴れた日の夕方ならアルコール片手に寛ぐ人たちで埋まっているだろうに……

ポルトローシュ〜ピラン間の海岸沿いには《Piranske Soline》の巨大な倉庫もあった。海岸線のはるか先にピランの町がうっすら見えてきたけど、まだまだ遠い

タルティーニエフ像の足元にようやく近づけた! 聖ユーリ教会の鐘楼とツーショット

悪天の土日かけて行われていた謎の競技も終わったようで、ネットやテントも片づけられて広々としたタルティーニエフ広場はひっそりと雨に濡れていた

バカタレ若者グループのいた大型リゾート施設ほどの規模ではないにしろ、途中にはいくつかリゾートホテルが点在していて、その周辺は海沿いに遊歩道に整えられ、カフェやアイスクリーム店があったりもする。ま、今日は閉店してるけどね。景色はどんより灰色だし、賑わいも華やぎも何も感じられないので、だんだん飽きて疲れてきた。45分くらいで歩ききれると思ったけれど、全然無理みたい。もう50分もひたすら歩き続けていて、ピランの町と教会の鐘楼が見えてはきているものの、なかなか近づいてこない。

後少しなんだけどなぁ。せめてバスターミナルまで頑張って、隣のカフェで温かいものでも飲みたい。ところが、空模様がまたおかしくなってきた。ポツポツきたなと思う間もなくいきなり夕立のように降り始めてきたのと、路肩に屋根つきの小さなバス停を見つけて雨宿りに駆け込んだのはほぼ同時だった。とりあえず雨脚が弱まるのを待とうとしたら、なんとタルティーニエフ広場行きのミニバスが来た。どうやらこれが無料シャトルらしい。うわぁ〜なんてラッキーなんでしょ!
立ち客たちで満員になったミニバスは、土砂降りの中を弾むようにカッ飛んで走り、ものの3分でタルティーニエフ広場に到着した。

レジ袋足湯でスッキリ。必要は発明の母であることよ

一目散に宿に帰り、じっとり湿った服を脱ぎ捨てた。本当はお風呂に入って身体を温めたいところだけど、悲しいかなシャワーしかない。そして、イタリアにはかなりの安宿でもほぼ必ずあったビデまでもがないのだ。バスタブに浸からなくても温泉の素を入れたビデで足湯をすれば、血の巡りがよくなって汗もたっぷりかいて身体が温まり、足の疲労も筋肉痛も劇的に回復するのに! 特に今日は靴の中まで濡れた状態で一日歩き回ったので、足の重だるさはハンパないのよ……(T_T)

どうしても足湯のしたい私は、下着姿のまま室内をうろうろ歩き回って、何か代用品はないか方法はないか考える。そこで閃いたのが大きめのレジ袋だった。取っ手を持つために両手がふさがる上、前屈みの中腰姿勢にならないといけないけれど、ふくらはぎの真ん中あたりまでしっかり浸けられる。ああ、これは結構いい感じだわ! これでもうどこででも、シャワールームさえあれば足湯が出来るってことね! 足が冷えても疲れても痛くても、翌日にはバッチリ元気になれるんだわ!
……という感激も5分が限界だった。この方法ではいかんせん腰がつらい。ビデ足湯なら椅子や便器のフタに腰掛けてネットや読書しながら30分はできるのに。
一度お湯を捨てて、腰をのばしてからもう一度。3度目は水圧と温度とに袋が負けて破けたので、これにて終了。海外のレジ袋はやわやわなので仕方ないね。でも、わずかな時間でもずいぶんスッキリした。ビデでの足湯を思いついた時も「ピコーン!閃いた!」だったけれど、防水された袋であれば可能なことはさらに新たな発見だった。次の旅ではもう少ししっかりしたビニール袋を荷物の中に入れてこよう。ブティックの袋とかいいかもしれないね、帰りは梱包にも使えるし。

スッキリしたところで、晩ごはんにしよう。20時頃に外へ出た。雨はあがっているような、霧雨でもあるような、傘をどうしたらいいのか迷うような状態。まだ日没前なので暗くはないけれど、やっぱり空は重い灰色をしている。

ハム&チーズとワインでリーズナブルに晩ごはん

お昼にタコとイカを山盛り食べたのであまりお腹は空いてないんだけど、でも何も食べないというのはちょっと、といった空腹具合だ。サンドイッチくらいがちょうどいいけど、そういうお手軽な店は見当たらない。日本みたいにコンビニがあるわけでもない。旧市街の小さなスーパーマーケットは日曜の午後は休んでしまう。

とりあえず西側の海岸通りを歩いて適当な店を物色してみる。ほとんどが「Restaurant」で、ちゃんとした料理(つまり量の多い)をオーダーしないといけない店だったが、一軒だけ看板が「Bar」となっている店があった。ここならお酒とおつまみですませられそう。ローカルハムとローカルチーズの盛り合わせプレートというのがある。あっ、これがいい!

ハムとチーズの盛り合わせ1人前でこの量。山盛りのオリーブとオイル漬けの大きなドライトマト4つ、パンも何切れもついてくるので、おつまみとしては十分すぎる。どれもみな癖がなく、あまりしょっぱくもなく、食べやすい

店は西向きの海岸に面しているけれど、さすがに外の席は寒いので、店内の席にした。一応、海が正面に望めるけど、晴れた日の日没時にはこんないい席には座れないはずよね。今日の日没は20時40分頃のはずだったけど、夕陽や夕焼けなどはなく、いつの間にかじんわりと暗くなっていた。
日没ショーはひとかけらの盛り上がりもなかったけれど、ハムもチーズもワインも美味しかった。支払いは合計で€9.80だった。スロヴェニアは周辺国に比べてレストランの料金が安めのように思う。

B&Bの玄関前に立ち、控えめにライトアップされた聖ユーリ教会鐘楼を眺める

気の利いたレストランの並ぶ海岸通りの日没後30分くらいの時間帯。夏のシーズンには華やかに賑わうんだろうに、こんな天気では人通りも少なくひっそり静か

心地よいほろ酔いと満腹感で少しだけ夜のピランを散歩した。一日中雨が降ったり、さらに降ったり、さらにさらに降ったりする日曜日だったなあ。今はやんでいるけれど、空にはまだ雲が重く垂れこめている。予報では明日も雨なんだよなあ。明日はもうクロアチアに移動なのに。スロヴェニアではついぞ青空を見ることなく出国することになりそう。

本日の歩数は17585歩だった。意外にも昨日より3500歩も多く、でも歩数の割に疲労が強い気がする。とにかくずっと靴がびしょびしょで、痛いんだか怠いんだかもわからなくて、でもアップダウンはほとんどしていない。とにかく熱いシャワー浴びて身体をよく温めて、ゆっくり眠ろう。

眠りに落ちる頃、夢うつつに激しい雨音を聞いたような気がした。




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