初めて〜の朝が来た♪

素晴らしく熟睡した。ベッドに入ったのが2時半近かったというのに、なんと5時45分に目覚めてしまった。3時間ちょっとしか眠ってないのだから目はいまひとつシバシバしているが、現地について最初の朝の目覚め──もうのんびり寝ていられる気分ではなくなる。中華圏での地元の人々の店の朝ごはんというのは安くて美味しい、世界中どこでも金太郎飴のようにおんなじ朝食バイキングで貴重な一食を使いたくないので、はじめから朝食なし宿泊プランにしてある。さっさと支度して散歩に行って、美味しい朝ごはんを食べよう!

……ではあるが、ホテルの朝食のようにエレベーターを降りて行くだけというわけにはいかないので、ヒナコに対してはいろいろ要注意。彼女は毎朝食後に降圧剤を服用するのだが、一日一回しか飲まないわけだから、朝食前というのは薬が一番効いていない状態なわけである。
台北での経験だが、ヒナコは思い切り不機嫌に、かつ具合が悪くなってしまったことがあった。目当ての朝食店はたった地下鉄一駅だけ離れていた。勿論歩いていけない距離でもないが、少し寝坊して(といっても8時には起きた)ホテルを出るのが遅くなってまった。ムッとした暑さのせいもあって、お腹も極限に減っていたんだと思う。
彼女は不機嫌になると貧血ぽくなって、さらに不機嫌になる。結構思い込みが激しい性格なので「私は今、一番薬が切れているんだわ〜、ああすきっ腹なんだわ〜、ああ身体に毒だわ〜」とか考えると、自己暗示にかかって具合が悪くなっちゃうのだ。彼女は否定するけれど、絶対に思い込みからきている部分が多分にあると私は睨んでいる。

不愉快そうな顔をしているだけなら無視していればいいが「ああ具合が悪い、ああ倒れそう、歩けない、だって普段はとっくにゴハン済ませて薬飲んでるのに」などと言われると、なにしろ相手は高齢者なんだから、こっちが慌てて心配してしまうのである。精神衛生上よろしくない。せっかく早く起きているのだからとっとと出かければいいだろうって? ところがそうは問屋がおろさず、顔洗って歯を磨いて化粧して着替えるだけの支度が、彼女はさっさと出来ない。今日はゆっくりゆるゆると支度をしたから、5時台に起きても、部屋を出たのは7時半になっていた。

まだ早朝だというのに外はじんわりと暑い。もったりとした湿気が肌に絡みついてくる。

九龍公園で朝のお散歩

ロイヤル・パシフィック・ホテルからは、道路を跨ぐ連絡橋を渡って九龍公園に入れる。なかなか広くて、繁華街のど真ん中の緑豊かなオアシスという感じ。
入ってすぐにあるのが〈鳥湖〉、フラミンゴや鴨や白鳥がいる。孔雀もいた。オスの孔雀で艶やかな羽根を自慢げに広げている。彼はそのまましゃなりしゃなりと歩き回り、突然ビタッと立ち止まり、「イヤ〜んイヤ〜ん」と甲高い求愛ソングを唄う。ええっと、近くにメスの姿は見当たらないんだけど? キミはナルシストくんなのかな? それとも、もしかして私に求愛してるの? でも私はキミの卵は産んであげられないな……(笑)

フラミンゴさんたちは、まだ大半がお目覚めにはなっていないご様子

これ見よがしに羽根を広げていたが、よく見るとスカスカで貧相だ。喚羽時期なのか? 逃走防止に切ってあるのか? 自分が男前ではない事実をキミはわかっているのか??

太極拳をしている4〜5人のグループがところどころにいる。ベンチにプリント用紙を置き、時々覗き込みながら一人で型の練習をしているおばさんもいる。屋根つきの広場みたいな場所では30人くらいの太極拳集団がいたが、彼らの動きはシャープでキレがあり、格好いい。ふむ、あれはエリートグループなのかもしれないな。あんなのついていけないわ〜という下手っぴな人は個々で練習する…と、そういうことかもな。

ジョギングしている人もいる、ただのんびり散歩の人もいる、ベンチで新聞を広げる人もいる、足早に抜けていく通勤途中の人もいる。結構たくさんの人がいるのだ。
彫刻やオブジェのようなものが置かれたエリアや、池と東屋のある中国式庭園や、花壇も噴水もある。ホテルの部屋から見下ろすと、ブロッコリーのようなこんもりとした緑の塊にしか見えないのだけど、その緑の下はなかなか変化と起伏に富んでいたのだ。そちらの方には近寄らなかったけれど、体育館やプールなどのスポーツ施設もあり、児童遊園エリアもある。

階段横の壁を這うガジュマルの根っ子。保存樹木のプレートがついていた。…ええ、ええ、そうでしょうとも。
このコに限らず、ガジュマルの樹って、なんかみんなアートしてるように思うのは私だけ?

ウロウロ歩き回ってそろそろお目当ての店に行こうとしたところ、〈百鳥苑〉の表示が目に入った。回り階段を登った上にあるようだ。ちょっと寄ってみる?
ちょっとした鳥の檻がある程度だろうと思っていた百鳥苑は、なかなか見ごたえがあった。大きな筒型の檻は8つくらいに区切られ、それぞれの房に5〜6種類ずつの鳥たちがいる。どれもみな、インコやオウムやゴクラクチョウ系統の色鮮やかで珍しい方々。

うっかり、百鳥苑に夢中になって時間を食ってしまった。やばい、もう9時過ぎてしまったではないか! ヒナコは今の今まで喜んで派手派手な鳥さんたちを見ていたくせに、時計を見た途端「めまいがする、具合悪くなってきた」などと言い始める。はいはい、すみません、急いでお店に向かいますから! あ、急いではいけないんでしたね、早足で歩くと心臓バクバクしちゃうんでしたよね。ヒナコはブツブツ言っている。「日本時間だったらもう10時だわ。そんな時間まで何もお腹に入れないなんて、ありえな〜〜い」
……どうして、そこでいきなり日本時間になる? たまにヒナコの思考回路はわからない。

糖朝でシアワセ朝ごはん

目指すは廣東道にある有名店『糖朝』[WEB]。ここのマンゴープリン目当てにたくさんの日本人観光客が押し寄せるが、スイーツ専門店というわけではなく、ちゃんとしたレストランだ。青山の表参道をはじめ、日本にも支店がいくつかあるのだけど、値段といい味といいやっぱり本店には敵わないと思うのよ。8時のオープンなのだが9時ちょい過ぎでほぼテーブルは埋まっていた。いや、すでに二巡めに入ったという感じだった。日本の大抵のガイドブックには10時開店と出ているので、日本人観光客はまだほとんどいなかった。

ゴハンの部は、皮蛋痩肉粥と魚丸子湯麺。スイーツの部は勿論マンゴープリンと、もうひとつは悩んだ挙句マンゴーとフレッシュフルーツの豆腐花にした。台湾で食べた豆花が美味しかったので、香港でも試してみようかと思って。それにしてもマンゴーづくし(笑)。

お粥はさらっとしていて米粒の形は残っていない。でも、具沢山なのでお腹は満足する

プリプリ魚のすり身団子と柔らかめのさつま揚げ。海鮮出汁のスープは美味しい!

ヒナコはピータンが嫌いで、私は大好き。おかげでヒナコと半分こすると、私はピータン比率の高いお粥が食べられて、とっても幸せ。糖朝のお粥はさらっとした感じで、お米で出来たポタージュスープみたい。ピータンの味はねっとり濃厚、細かく裂かれた干し肉も淡白ながら噛みしめると深い味わい。味のついたささみジャーキーを戻して煮たらこんな味?

魚のすり身団子の入った麺は、団子プリプリでスープが海鮮味で、とっても美味しかった。さつま揚げのようなものも入っていた。麺は細くて腰があるけれど、日本のラーメンのようなもちっとした粘りはない。縮れてもいない。ていうか、日本のラーメン、あれは独特のものみたい。台湾でも香港でも中国でもああいう麺は出て来たことない。ラーメンも好きだけど、香港のこの麺も好き。

どちらも最初は軽やかな味に感じるけれど、食べ進むうちに旨味と深みがじわじわ滲み出てくる感じ。旅のしょっぱなから食べ物美味しいと、嬉しいよね。あ、一番最初は、昨日の『許留山』のデザートか。

ドライアイスのスモークもくもくで、いったい何があるのかわからない状態。まあ、怪獣は出て来ないと思うが。しばらく隣の子供の注目を浴びていた

全貌現れる。フレッシュフルーツの量とラインナップが昨日のマンゴープリンと同じだ。これは“決まり”なのか? 下にシロップのかかった豆腐花。一丁くらいはあった

半割りのマンゴーといくつかのフルーツで飾られた豆腐花は、ドライアイスをもくもくさせた皿に乗せられて登場した。隣の席にいた5歳くらいの女の子が、びっくりして私のテーブルまで走って来て、かぶりつきで目を丸くして見ている。子供は好奇心に素直だなあ……。オバさんはスモークもくもくはちょっと恥ずかしいよ。
さて、豆腐花のお味だが、台湾の豆花より豆腐臭い
マンゴーのピューレとほのかに酸味のあるシロップは美味しいんだけど、一瞬ブラマンジェかパンナコッタかと錯覚するんだけど、飲み込む時に「ああぁぁぁあ、冷奴だあ!」という味が舌に残るのだ。これがちょっと……。

スイーツとしては台湾の豆花に軍配はあがるな。台湾でもフルーツ豆花は試していないので、ちょっと条件は違ってくるが、単体で口に入れても冷奴みたいには感じなかった。大豆の優しい甘みが心地よくて、どうして豆腐っぽくないのか不思議なくらいだった。小豆やタロ芋や黒蜜などのもっさりした甘みの方がより引き立つのかもしれない。
ああ! 台湾の『鮮芋仙』の芋圓豆花が食べたくなっちゃったよお! 大粒のブラックタピオカもトッピングして。

濃厚過ぎず、淡白過ぎず。
固過ぎず、柔らか過ぎず。
甘過ぎず、酸っぱ過ぎず。
果肉は多過ぎず、少な過ぎず。
コンデンスミルクは適量で。
そういうぷりんが私は食べたい
(すずめ作 糖朝マンゴープリンの詩)

でも、日本の『糖朝』でこれを700円出して食べようとは思わない

マンゴープリン、これはもう、完璧! フルーティさ、たっぷり入った果肉、程よい甘み、固さ、コンデンスミルクの量と甘さ。ハートの形もポイント高い。マ〜べラス!!

帰り際トイレに入ったら、流されていなかった。ごく少量なのだが粉砕された“大”がパラパラと浮かんでいた。詰まってしまったんだと思う。レバーを押してみたが、撹拌されるだけで流れない。逆流してこなくてよかった……。
これって食後に見たいものではないし、次の人に私のブツだと思われてはかなわないので、用は済まさず即座に個室を飛び出した。後続の人はいない。よかった、とっとと帰ろう。

ビロウな話で申し訳ないです。

それにしても、お腹がパンパンんだ。お粥と麺でそこそこ満たされていたところ(マンゴープリンは完璧別腹だが)豆腐はお腹にたまるのだ。でも台湾の豆花ならきっと別腹だ。人間の心理ってそーゆーもの(笑)。
支払額は128HK$だった。1HK$が12.4円くらいなので1500〜1600円くらい。ちなみに表参道の糖朝ではマンゴープリン一個で700円くらいする。…ふざけてるよね。

さあ、マカオへ行こう

それにしても暑い。今日は薄曇りで陽射しはちっとも強くないのに。
額や首筋は常にじっとり、時折、背中を汗の滴がつつーっと伝う。すごい湿気。恐らく大量の汗をかくことになるだろう。これは脱水症状起こしかねない。特に年寄りのヒナコは危険。廣東道を下っていくとセブンイレブンがあったので、770ccという不思議なサイズの水を2本買ってホテルに戻る。1本たった5HK$。そう、それでいいんだよ。ホテルのエビアン68HK$はありえませんから、絶対。

このホテルを選んだのは、中港城というフェリー・ターミナルビルと直結しているからだ。レセプションのあるロビーから2フロア分エスカレーターを降りるだけで、OK。
マカオ行きの便はファースト・フェリー(新渡輪)[WEB]から30分おきで出ている。11時15分になっていたが、11:30発のチケットが買えた。133HK$。土日休日では料金が違い、夕方6時以降も値段が上がるので、平日昼間は一番安いお値段。
それにしても、ホテルをチェックアウトして5分でフェリーチケットが買えるなんて…その15分後には出港だなんて…早い早い。

いきなり雲がむくむく増え始めてきた。ひと雨きそうな黒さだ

ゲートを通ると、チケットにシートナンバーのシールが貼られる。あら、座席指定があるんだ。その先はすぐもう出国審査エリア。サテライト(…って言うのかな? 船の場合も)の待合スペースから外を眺めてみると、不穏な黒雲が空に広がっている。高層ビルのいくつかは頭のてっぺんを雲の中に突っ込んでいる。それから僅か3分後、船に乗り込む頃には大粒の雨がポツポツと降り始めた。

予想どおりではあったが、フェリーの中も冷房ガンガンだった。カーディガンにしっかりとくるまり、窓から海を眺めていたが、スピードが乗り始める頃には雨が強くなって視界は真っ白になってしまった。同時に深い穴に落ちるような睡魔もやって来た。昨日の夜は3時間くらいしか寝てないもんねぇ。出発までは徹夜徹夜の連続だったし。首の収まりが悪くて「このままじゃ痛くなるかも」と思いながら襲い来る眠気には勝てず、体勢を立て直せないまま45分ほど爆睡して、目覚めた時には寝違えた首がきっちりと痛かった。

九龍からマカオへの所要時間は65分と70分の間くらい、ほんのひと眠りだった。窓はびしょ濡れで曇ってしまって、相当激しく降った感じだが、今は青空が覗いているようだ。船のタラップを降りる時、雨粒の残骸がわずかに身体に当たったが、入国審査を受けたりお金を下ろしたりして外に出る頃には完全に晴れていた。よしよ〜し。

マカオの通貨はマカオ・パタカで、香港ドルがそのまま使えるが、レートとしては1:1.03になる。100H$ごとに3H$損する計算だ。日帰りなら香港ドルのままでいいけど、マカオには3泊するので、2000パタカ下ろした。800円分くらいは浮いたと思う。マカオの物価を考えると、800円は結構大きいんじゃないかな?

ちなみに、マカオ入国時にも入国書類の他に健康問診票を書かされた。やれやれ…

はじめまして、マカオ

マカオのマリタイム・フェリー・ターミナルの到着ロビーは天井が高くて明るい感じ。路線バスやタクシー乗場側でない左方向出口の外には、カジノホテルのプレートを持った人たちが横一列でお出迎え。そのままどんどん左に進んで行くと、いかにも“カジノで〜す、遊興施設なんで〜す”という派手派手ペインティングを施したシャトルバスがずらり。

私が予約したホテル・シントラ(新麗華酒店)[WEB]は、カジノを持たない中級ホテルだ。ヒナコは人が多くて騒々しくて眩しい場所は大の苦手で、ギャンブル的なものは宝くじすら嫌いなので、カジノに足を踏み入れるなどとんでもない(私は、物見遊山的見地からちょっと覗いてみたいなとは思っているが)。
そもそも、リゾートなどホテルでの滞在そのものを愉しむ旅でない限り、設備は3星の中級クラスで充分だと考えている。カジノで遊ぶことも滞在型の愉しみなのだろうけど、私たちには(特にヒナコには)逆に苦痛になりかねないわけよ。

ポルトガルの街の名を持つこのホテルは、やはりポルトガルの首都の名を持つ老舗ホテル・リスボアの系列。ホテル・リスボアとオープンしたてのグランド・リスボアとともに街の中心部にあって、観光の足場としては大変に好都合な立地。
本来、大型でも高級でもないカジノもないホテルにはシャトルバスなんか当然ないのだが、ここはリスボア系列なので立ち寄ってくれるのだ。ただし、フェリーターミナルからの乗場は一番奥まっていてわかりにくい。バスが見つけられなかったという声が多いのだが、ずらっと並ぶバス群の裏側へちょっと道路を渡った場所。派手な絵や文字がデカデカ塗装された多ホテルのバスと違い、地味な小豆色一色で横腹に「葡京飯店」「新葡京飯店」「新麗華飯店」の小さな文字があるだけ。マカオのタクシー代はものすごく安いから、バス探しに必要以上に無駄な時間使うことはないけれど、やっぱりタダで連れてってくれるとなると使わなきゃ損みたいな気持ちになるのよね。

>> ちなみに目立つところに止まっている「葡京」と大書きした緑色のバスは、ホテルでなくカジノに直行する

走り始めたバスは、ターミナル横のウォーターフロントに長々と連なるフィッシャーマンズ・ワーフ(澳門漁人碼頭)[WEB]というテーマパークの脇を通り過ぎる。レストランやショップやホテルやカジノや遊園地や、とにかくそういうものが集まっている複合施設のようなのだが、様々な異国の建造物が立ち並んでいて、それがまたハリボテっぽくて、いかにもチャチ臭い。チラッと横目&遠目で見ただけだけど、グランド・キャニオンみたいな岩山とか、ローマ遺跡みたいのとか、故宮みたいのとか、ノートルダム寺院みたいなのとか、ドイツかベルギーの町並みたいなのとか……夜はちょっとは綺麗かもしれないが、昼日中の光ではショボさばかりが際立つ感じ。

ホテル・リスボアとグランド・リスボアを経由して15分ほどでホテル・シントラに到着。まだ1時半になっていない。11時過ぎに香港をチェックアウトしてきたばかりなのに。

ホテルの外観はかなり古ぼけているが、室内はそれなりに綺麗だった。豪華ではないが質素すぎもせず、清潔だ。広さもそこそこ……というか、ちょうどいい。狭くていちいちベッドや椅子に足がぶつかるのも困るが、昨日のように3部屋もあっても物を探していたずらにウロウロするばかりで落ち着かない。ああ、ホント、貧乏性なことよのお。

今度は最上階ではなかったが11階なので見晴らしはいい。真ん前は広場になっているので空間が広がっているのも鬱陶しくない。三泊四日の滞在宿としては合格である。
斜め方向には、オープンしたてのグランド・リスボア。ちょうど真横の方向に位置している。いや、もう、形といいキンキラ加減といい、初めて遭遇する世界だわ、これは。

周辺のキラキラ・カジノホテルたち。金・銀・銅の壁ってどうなのよ?

蓮の花の形(どこが??)だというグランド・リスボア。でもがっつり風水に則っているらしい。
下の球体がカジノ、タワーが客室。日が暮れるとコイツは発光し始め、すごいことになる

そうそう、ここはドアマンたちも感じがいい。皆まだ少年ぽさの残る初々しい青年たちで、ニコニコしながらステップで手を添えてくれたり、走るようにしてエレベーターを開けてくれたりする。年寄り連れの場合は、頻繁に休憩に戻ったりして出入りの回数も多くなるので接触する機会も多いわけだが。

さて、荷解きをしたら、早速お昼ごはんを食べに行こう。もう2時近いもん。

マカオの観光スポットを予習する

最近のマカオの人気上昇の理由として、世界遺産に登録されたことが大きいんじゃないのかな。香港のオマケみたいに思ってたけど、世界遺産になるような所があったの?って。「マカオ歴史地区」としての登録だが、フィレンツェなどのように町全体がというわけでなく、22ヶ所の建築物と8ヶ所の広場という括りになっている。どこもバリバリの生活圏で、日常当たり前に使われていて、コンパクトな範囲にまとまっている。この30ヶ所のポイントを巡るのは、スタンプラリー的な達成感があるんだと思う。制覇欲をそそられるっていうか、ね。

そういうプチ・マカオ人気に加えて、今回来てみたい気持ちが盛り上がったもうひとつの理由に、私もヒナコも一昨年訪れたポルトガルがとっても気に入ってしまった、というのがある。450年もの長きに渡ってポルトガル人たちが定住していた街──-だから、そこかしこにポルトガルらしさが残っているという。街並にも食べ物にも言葉にも。どれ、どんだけポルトガルなのかいっちょ試してみようじゃん? そんな気持ちになったわけだ。
小さな正方形の白黒の敷石で模様を描く石畳は、今ではヨーロッパでもポルトガルだけのものだ。とりあえず、最初に足を踏み出したホテル前の歩道の石畳は、ポルトガルのものと寸分たがわない。だって本国からわざわざ職人を呼び寄せて造ったというから。期待感は高まる。

どういうルートで周るにしても、まず起点になるのはセナド広場(議事亭前地)〈世界遺産その1〉。波型模様の石畳とコロニアル風の建物に囲まれた、観光的にも行政的にも中心になる広場のようだ。ホテルからはヒナコのノロノロ歩きでも7〜8分、普通の人なら徒歩5分。まずしょっぱなからホテル立地のよさを自覚する。

で、そのセナド広場。
事前に写真を見た感じでは、リスボンのロシオ広場にとっても雰囲気が似ていると感じた。広場に面した建物の間から小高い丘が見えているのも、とってもリスボンぽい。だいぶこじんまりとしているんだろうけど。

目の前に開けた広場を見ての第一声は──-「うわあっ! 可愛いッ!」であった。
そう、すごく可愛い、いろんな意味で。
「ポルトガルぶりっこしてるところが可愛い」
「でも、ハリボテの作り物ではなくて、ちゃんと現役なところが可愛い」
「ロシオ広場の10分の1くらいのミニチュアサイズなところが可愛い」
「かなり鮮やかめのパステルカラーの色が可愛い」
「蓮の形の提灯やランタン風の飾りつけがチャイニーズっぽくて可愛い」

世界遺産ラリーのスタート地点・セナド広場。ずっとずっと小ぶりなのだけど、リスボンのロシオ広場に似ている。(カーソルを乗せるとロシオ広場の写真になります)

うふふ、なんだか気に入っちゃった。
セナド広場に面した建物にマカオ観光局[WEB]があったので、地図やパンフレットをもらいに立ち寄る。この観光局のウエブページはなかなか優れもので、32ページもあるPDFファイルのパンフレットをダウンロードすると、かなり上質の情報満載。事前の情報収集にはとっても便利。
観光局の中には30ヶ所の世界遺産をまとめたブックレット(10ヶ国語くらいあった)や観光マップをもらって出る。かなり観光誘致に力を入れている様子だった。そう、ここでは、ホテルマンやカジノのディーラーはかなりエリートなのだと聞いた。ホテルもカジノも人手不足らしいんだけど、大陸から出稼ぎ雇用はしたくないらしい。品位が下がるから…というのが理由らしい。さもありなん。

ちなみに観光局の入り口には係官がいて、顔写真を撮影される。えええー、厳重なんだねえ…びっくり。

マカオの麺も美味しいゾ

朝も麺を食べたけど、お昼も麺にしちゃおう。おそば大好き♪

観光局を出て、セナド広場に面して並びを進む。3〜4軒先に老舗有名店の『黄枝記粥麺店』はすぐに見つかった。地元の人にも観光客にも人気の店というだけあって、2時過ぎだというのに、ほぼ満席に近い大賑わい。でも回転は早いのでほとんど待つことはない。間口は狭いが、割と奥行きが広く、三階まであるのでキャパシティはありそう。ちょっとレトロモダンな内装で感じがいい。
二階席に通されたが、中三階っていったらいいの?広場を見下ろす席が雰囲気よさそうだったな。ふさがってたから仕方ないけど。

>> セナド広場の店は2軒目の支店だそうで、あまり地元全開な感じはなく観光客にも入りやすい雰囲気。香港にも支店はあるそう。

マカオには撈麺(ロウメン)という麺がある。細く腰のあるつけ麺で、これに海老の卵をトッピングしたものと、海老ワンタンメンはどこの麺屋さんでも人気メニューらしい。
夜はしっかり食べたいので、麺ふたつはやめておこう。そうだ、野菜も食べたいよね。悩んだ結果、雲呑蝦子撈麺と蝦餃素菜というのにした。暑くて喉カラカラだから青島ビールの大瓶も頼んじゃう。

いや、もう、いろいろと大正解だった。

これが撈麺。トッピングされた海老の卵は、トビッコより細かくて粉っぽい。咽喉にむせるのでスープをからめて食べるのだが、このスープの味の深いこと!
海老ワンタンが3個添えてある

写真で見ると、一瞬、孵化寸前のさなぎと見まごうギョッとするビジュアルだが。たっぷりの蒸し野菜の上にでかい海老餃子が敷き詰められているのだ。黒酢ベースのタレで食す

透ける薄皮一枚、中身はむちむち、汁じゅわぁ〜ん。……なんか表現が猥褻でしょうか(笑)

撈麺は極細で、ちょっとぽそぽそした食感で、苦手な人もいるだろうが、私は結構好き。日本のラーメンを想像して口に入れると違和感を感じると思う。なんていうか、別物。別物としてちゃんと美味しい。パラパラ振りかけられた海老の卵は、そのまま啜りこむと咽喉でむせて大変なことになるので、添えられてきたスープを適宜ふりかけて湿らせて食べなくてはならない。3個添えられた海老ワンタンもぷりっぷり。

海老餃子もすごかった。深皿にたっぷりの蒸し野菜の上に大きな餃子が12個も! いや違った、15個だったかな? 両手の指以上は数えられないコドモみたいだが、そのくらいコーフンして思考能力が低下したと思ってもらいたい。中の具は海老オンリーではなくて、肉や椎茸や葱がむっちり詰まっている。皮は中身が透けるほど薄い。
ああああーっ、これは、これは、美味し〜〜い! 餃子からしみ出た旨味が下の野菜に全部移って、これまた、美味しい〜〜〜! 海老ワンタンと海老餃子はかなり味が違うので2人以上の場合はぜひシェアするといいかと。

こんなに美味しくて全部で94パタカ。軽くおソバでも…のつもりがみっちり満腹してしまった。でも満足満足。野菜がたくさん食べられたのが嬉しい。中華圏の食事は、野菜をたっぷり美味しく摂取出来るのから助かる。お通じ対策として、これかなり重要ですから!

アズレージョの綺麗な現役のお役所

さて、腹は満たされた。まずはセナド広場に面した民政総署〈世界遺産その2〉から物見遊山はスタート。セナド広場を広東語で表記すると『議事亭前地』となるのが意味するように、議事堂──つまりは市政局というか政府機関の建物なのだが。18世紀頃からの歴史ある建造物であることが世界遺産登録の基準なんだろう。今も普通に機能している“お役所”なわけだけど、中庭や図書館を自由に見学できる。

一昨年のポルトガルの旅でとても気に入ってしまったもののひとつに、アズレージョというタイル装飾があった。“青”という名を持つ通り、深い藍色をメインの色彩にしたタイルだ。パターンのような模様もあるが、壁一面を埋める手描き一枚絵のそれは、もう芸術といっていいだろうとすら思った。
どうも、私はタイルとかモザイクとかの装飾に弱く、見ると嬉しくなってしまうのであるが、かの国のそれは、教会でも駅でも市庁舎や町役場でも民家でも標識でもレストランでも、もういたるところを美しく飾っていて、血が騒いでコーフンしてしまって、それはそれは困った。いや、困ることはないんだけどさ(笑)。

で、民政総署にはそのポルトガルのアズレージョ装飾がされているという。まあ、最初は「アズレージョ装飾っぽい」という程度だろうと思っていたのだが……。ポーチや階段の壁に貼られたタイルは、ポルトガルの街民家や教会に貼られていたものと同じだった。ああっ、ホントにホントにポルトガルだあーッ。

中庭にもアズレージョや白黒モザイクの石畳などの装飾が施されていて、かなりポルトガルっぽい。でも、タイルの絵柄をよーく見てみると、微妙にチャイニーズっぽくて、その融合加減になんとも味がある。うむうむ、これはこの後いろいろ期待出来そうだゾ。

かなりちゃんとアズレージョだ。ポルトガルのものとおんなじ

こういうところも本場っぽい

こんな感じの一画はポルトガル中いたる所にあったよ

絵柄がちょっとチャイニーズ入ってるものもある。…しゃちほこ?

2階には議会室があり、ここも見学出来る。どこかの大企業の会議室の方が広いんじゃないかというくらいのこじんまりとした議事室だけど、窓下にはセナド広場が見渡せて、ここが一等地なんだなと納得。部屋の雰囲気としてはヨーロッパの小さな町の役場の広間という感じ。でも、中央の大テーブルにはマイクがあり、巧妙に隠されてはいるけどプロジェクターなんかもあるので、ここを使って会議する時もあるのね。現に「会議中につき入室禁止」のようなことが書かれた札の下がった扉もあったし。

仁慈堂博物館は意外な穴場

次行こう、次。
やはりセナド広場に面している白亜のネオクラシックな建物が仁慈堂〈世界遺産その3〉。老舗の漢方薬屋のような名前だけれど、マカオの初代司教が創立した孤児院や慈善病院などの活動をする慈善福祉団体のことらしい。その本館。…確かに。「仁」も「慈」も「なさけ」「いつくしみ」の意味を持つ文字だ。

建物の左脇の小道がとても雰囲気がいい。ヨーロッパの街の一角のようだ。道の突き当たりの胸像がきっとその司教さまなんだろう。その雰囲気のいい小道のところに扉があって、そこから階段を上って中に入る。上りきったところの受付には、人のよさそ〜な小柄なおじさんがニコニコ座っていて、ここで5パタカ払う。ちなみにヒナコは無料。

中は陶磁器や宗教画などの小さな博物館になっている。受付のおじさんはやたら親切で、BGMに賛美歌をかけてくれ、展示品の撮影アングルまで指示してくれ、バルコニーに出る扉も開けてくれる。民政総署から見下ろすセナド広場は道路を一本はさんでしまいちょっと遠くなってしまうが、ここからならすぐ真下、モザイク模様のタイルをじっくり眺めるのに絶好。カフェのようなテーブルと椅子もあって、ゆっくり休憩も出来るし。ただねー、座っちゃうと手すりが邪魔で何も見えないんだけどね。

一番気に入った収蔵品。貝にため息出そうに繊細な彫刻がしてある

可愛い小道、見っけ!

小さなスペースだから、そうたくさんの収蔵品があるわけではないけれど、宗教儀式に使う聖杯やキリスト像なんかが、やっぱり微妙にチャイニーズ色が加味されていて、とても面白い。
ちょっと奥まった入口がわかりにくいからか、入館者は私たちしかいない。20分後くらいたって入れ替わりでようやく一組来たほど。広場周辺はすごい喧騒だから、ちょっと一息つける穴場だと思う

清楚な教会、豪奢なお屋敷、そしてカテドラルへ

30ヶ所の世界遺産をもう3つこなしてしまった。そこから100メートルくらいしか歩かないのに、また2つあるのだ。聖ドミニコ教会〈世界遺産その4〉とその前にある聖ドミニコ広場〈世界遺産その5〉。ちょっとクランク状に曲がるけど、ほとんどセナド広場とひと続きのようなんだけど…(笑)。

この教会はバロック式で、明るいクリーム色にレース飾りのような白い装飾、深緑色の扉や窓枠が鮮やかで、いかにも“聖母堂”という清楚な華やかさがある。出入りする扉は淡いピンクと白に塗られていて、これも清楚な感じ。教会内部も白とクリーム色で、荘厳さや重厚さには欠けるけど、開け放した窓から風が抜けて、明るく開放的な感じがする。暖かな南欧の、地中海に面した小さな村の教会なんかがこんな雰囲気なんじゃないかと思う。

華やかな聖ドミニコ教会。教会前の広場には人がいっぱい

内部も清楚で華やか。祭壇のマリアさまはとても優しい表情をしている。(カーソルを乗せると祭壇を拡大します)

聖遺物などを所蔵した博物館も併設されているようだったが、今日のところはパス。

この後どんどん進んで行くと、土産物屋の立ち並ぶ大三巴街へと続き、マカオのシンボル聖ポール天主堂跡へ至るわけだが、先へ進めば進むほど観光客の過密度が増していく感じだ。こっちへ進むと……確実にヒナコが不機嫌になるな。「暑い」「騒々しい」「人がいっぱい」「もう2時間くらい歩いている」ムクれる要素、揃ってるもの。天主堂跡は明日の朝、日帰り観光客が来始める前に行くことにしよーっと。

そろそろお茶休憩したいところだが、内部見学できるところはクローズしてしまう前に見ておきたい。
このあたりに關帝古廟〈世界遺産その6〉があるはずなんだけど…と、しばしウロウロ。ポルトガルと同じモザイク石畳にコロニアル風の建物たち、一見ヨーロッパの街並のようでいて、どことなく違うのが面白い。並んでいる店も、お洒落っぽいブティックや化粧品店、麺やお粥のローカルフードの飲食店、マクドナルドなどのファーストフード、アクセサリーなんかを売る露店、なんでもいっしょくた。

>> 結局、見つけられなかったのだが。この露店の並ぶ奥に行けばよかったのだった。ここは旧マカオ市場の跡地だそうで、廟はもともと商人の集会所だったそうだから。半年前の台湾で廟はいっぱい見たので、似たようなものに対して探す熱意が低かったのかも

若い女の子やカップルなどが立ち食いしているようなB級フード店の並ぶ小道に廬家屋敷〈世界遺産その7〉の表示を見つけた。贅を凝らした装飾が見事な豪商・廬氏の邸宅で、ぜひ見たかったスポットのひとつ。

渋みのあるいぶし銀的美しさの廬家屋敷。細部まで凝っている

建築様式自体は清代後期のものだというが、内装は“西洋風”な要素がところどころ取り入れられていて、勿論ばっちり風水に則られている。
灰色煉瓦の建物はシックで、一見するととっても地味なのだけれど、細部をじっくり見ると凄い凄い。窓枠の彫刻、細工、透かし彫り、ステンドグラス、欄間の飾り……、決して派手派手しくはないけれど精緻な装飾でいっぱい。風の抜ける吹き抜け、その吹き抜けを囲む回廊、床には水をはって涼を得たと思われる窪み、暑い国ならではの工夫もある。隅に置かれた黒檀のテーブルなども側面に細かな彫刻が施されていたりして、贅沢さがさり気なくってとっても粋。
素敵、素敵。こういうの、いいなあ、好きだなあ……。かなりここは気に入ってしまった。

天井の透かし彫りが洒落ている。ステンドグラスも可愛いし

扉上の彫刻は各部屋すべて違うし

玄関の衝立なんてこんなに繊細で綺麗。彫ってあるんだよ〜

大満足で廬家屋敷を後にする。

この近辺の路地は起伏があり入り組んでいる。リスボンやポルトの裏通りにも、こんなふうに細い坂道が入り組んだ場所があったっけ。やっぱり、この石畳なんだよな、ポルトガルにいるみたいに感じるのは。などとヒナコと話しつつ歩いていると、緩く登る小道の先にアズレージョの一枚絵で飾られた壁が見えてきた。クリーム色の壁が、青い描線の白いタイルを一層爽やかに引き立てている。近寄ってよく見ると、やっぱり絵柄がチャイニーズしている。いいないいな、この折衷感覚。

雰囲気のいい坂道。カテドラル広場の外壁がアズレージョの壁画で飾られているので、どっちに進んでも広場に出る

タイル装飾のベンチ。パステルグリーンの民家とともに南欧っぽさが醸し出されている

カテドラル広場の噴水は素敵と言えるかちょっとビミョー。上にいるのはタツノオトシゴだし。下のは……しゃちほこ? コイツ、民政総署のアズレージョにもいたよね?

何枚か壁画の並ぶ壁に沿って小道を登る。角を曲がると、カテドラル広場(大堂前地)〈世界遺産その8〉だった。そろそろ夕刻になる頃合でもあり、広場に並んだベンチには地元の爺さん婆さんたちが涼みがてらお喋りに出て来ている。小さな子供を遊ばせる若いママさんたちもいる。広場とカテドラルとの間をS字にカーブして貫く道にも風情がある。まあ、ちょっと道幅の割には交通量多過ぎかと思うが。車がちっとも途切れなくてなかなか横断出来なかったから言うんだけどね。でも周辺の小道も含めて、南欧的な雰囲気あって綺麗な広場なんじゃない?

カテドラル(大堂・司教座堂)〈世界遺産その9〉の名前を戴くからには、その町一番の教会なわけだが、その割にファサードの装飾などは簡素だ。さっき見た聖ドミニコ教会のような明るい華やかさはないけれど、老練な落ち着きはあるんじゃないかな。ああ、正面にステンドグラスがあるみたいね。
内部もシンプルな感じだった。白に近いほどにごく淡いペパーミントグリーンの壁と天井。ステンドグラスを透して射し込む柔らかな光。さらに天井近くの窓も開け放たれてたっぷり採光され、とても明るい。

ヨーロッパの街にある「カテドラル」を想像すると、そのこじんまり感にギャップを感じるかも。でも、きちんと信仰の対象になっている

しっかり採光されていて明るい

ここには地元の人たちが何人か礼拝に来ていた。買い物ついでにサンダル履きで立ち寄ってちょっと祈りを捧げる「日課」のようだった。日曜の朝にはミサがあるんだろうか。時間があったら来てみようかな。

コーヒーショップの熱湯事件

カテドラルを出ると5時になっていた。お昼ごはんが終わったのが3時近かったのだから、まだ2時間ちょっとしか歩いていないのに、この疲れ方はなんだ。陽射しは強いわけではないのに、じっとりとまといつくような高湿度の暑さのせいに違いない。
お昼に大瓶のビールを飲み干したのに、そのあとペットボトルの水も飲み尽くしてしまった。凄い水分摂取量なのに、全然トイレに行っていない。うわぁ、全〜部、汗になったんだ。
ヒナコとふたり、カテドラル広場のベンチにへたり込んで、しばし無言。噴水を眺めているのだが、実は何も見えていなかったりする。コーヒーでも飲もうか……? 涼しいところでちゃんと座って休もうよ。

さっき通り抜けた路地に『檀香山珈琲』があったと思う。市内に何店舗かある美味しいコーヒーショップ。一階席はちょっとザワザワして落ち着けなさそうだったが、二階席は六畳くらいの小さなスペースに、4人がけと2人がけの二卓だけ。先客のおじさんがふたりいたけれど、なんか秘密の小部屋っぽくてくつろげそう。

冷房がガンガンにきいているのですぐ汗も引くだろうし、私は普段はあまり冷たいものは飲まないし、美味しいコーヒーは絶対ホットに限ると思っているので、ホットコーヒーをオーダー。階下のトイレに行って戻って来ると、ヒナコが肩を震わせて笑いをかみ殺している。…ど、どうしたの? 私の顔に何かついてる??

「ちょっと、それ、持ってみてごらん」
彼女はテーブルのグラスに入った水を指差して言う。え、ただの水でしょ。喉カラカラだからコーヒー来る前に少し潤そうと手を伸ばすと……うわっ熱いッ! 何これ、熱湯?? えっ、何で、何でお湯?
「ああ、お水だ嬉しい〜と思って手に持ったら熱いんだもん、びっくりしちゃった。こんなの飲めないし持てな〜い」

そういえばオーダーの後、店員の青年は思い出したように振り返って「なんたらかんたら、ホット? コールド?」と尋ねた。振り返りざまだったから前半部分はちゃんと聞き取れなくて。それでも、ええ、確かに私、答えましたね、はっきりと「ホット、プリーズ」って。えーと、コーヒーがホットかアイスか尋ねられたのかと思ってたんですけど。いや、そう思うでしょ、普通。
ていうか、水にしますかお湯にしますかって質問はありなわけ? そんなの想定外なんですけど?

ところが、しばらくエアコンびしびしの部屋にいたので涼しくなって、結局私たちはそのお湯を飲み干してしまった。水のように一気飲み出来ないのでお腹もちゃぽちゃぽにならないし、喉の渇きはお湯の方が押さえられるような感じがした。あれぇ? もしかして高温多湿の時に冷房のきいた部屋で熱いお湯、正解なのかもしれない。
あ、コーヒーは勿論美味しかったです。

カジノホテルを物見遊山

へろへろに疲れていたのだが、コーヒーブレイクしたらちょっと復活してきたみたいだ。ディナーまで部屋で休憩していてもいいのだが、だいぶ涼しくなってきたし、少し散策しようか?
というのも、黄昏どきになってキンキラ・カジノホテルたちがぽつぽつネオンを灯し始めたのを見たら、そんな気持ちになっちゃたのだ。まだ本格的に極彩色キラキラ派手派手チカチカネオンとはなっていないけれど、誘蛾灯に吸い寄せられるようにふらふら近寄ってしまう。

とりあえず、グランド・リスボアのロビーに入ってみた。広くてキンキラだ。カジノの入口には黒服の長身イケメンがふたり立ち、X線での荷物チェックなどをしている。覗いてみたい気持ちもあったけど面倒になったので止めた。吸い込まれていく人たちは皆カジュアルな格好で、なんの気負いもいらないんだろうけれど。

>> 私は目先のみみっちいことを考えてしまうので、ギャンブルには不向きなのだ。どーーん!と張れないのよ。特にフリーランスになってからは「これで原稿何ページ分のギャラ」とか換算してはいちいち空しくなっちゃうし。

ぐるりとロビーを巡ってみる。金と真紅とクリスタルな絢爛豪華な世界だ。ただ、場違い感いっぱいで身の置き所がなくなる格調ある豪華さではなく“思わず笑っちゃう”絢爛さ。若干、成金ぽいエッセンスが振りかけられているからだろう。この成金エッセンスの分量は絶妙だ。これ以上多すぎると果てしなく下品になる。

ロビーのあちこちに“金に物言わせて集めた”美術品を麗々しく飾った大きなガラスケースがある。マンモスのような象牙にびっしり仙人が彫ってあるものや、でっかい翡翠の象の彫刻や、金箔貼りの布袋さまや、水晶や瑪瑙や……。カジノの入口には、巨大な壺がでっかい金色の蓮座に鎮座していて、両脇に200カラット以上あるダイヤとサファイアが飾られている。でも、なんか「ひゃあ、すごおい、すごおい」と見て回るのも、一回は楽しいんじゃないかな。

カジノって……儲かるのね。胴元がね。

マカオの中国返還は香港のそれに2年遅れてのことだったが、カジノの利権を巡って地場系と大陸系のそれぞれの黒い社会団体との間に、相当な抗争があったからとも言う。…そうだろうな。それから10年、今やマカオのカジノの売り上げはラスベガスを抜いた。ラスベガス系のカジノもばんばん進出してきている。こちらは明るいアミューズメントパークのノリ。そのせいもあってマカオのカジノのイメージはだいぶ洗練されたのだと思う。ふた昔前には“東洋のモンテカルロ”などといういかにも二番煎じな名称で呼ばれていた。モンテカルロにもラスベガスにも行けない人がお茶を濁すイメージ。でもその頃は「カジノでギャンブル」というよりは、「“賭場”で“博打”」という言葉の方がこの街には似合ったはずだ。

グランド・リスボアを出て南湾湖の方向へ、噴水ショーを見るためにウィン・ホテルに向かう。このあたりはバスロータリーがあり、道路も複雑にねじれている。リスボアとウィンを結ぶ地下道があってわかりやすい。
まだ日は暮れていないが、だいぶ涼しくなってきたので(といっても昼間に比べてで、充分蒸し暑いが)南湾湖沿いのベンチには涼みに来ている人たちでいっぱい。

ウィンの噴水ショーは、ちょうどいいタイミングで始まった。曲はオペラ『リゴレット』の『ラ・ドンナ・エ・モビレ』。歌はパバロッティかな? ちょっと確信はないけど。音楽に合わせて数本の噴水が踊る。うねったり、みょ・みょ・みょーーんと跳ねたり、どびゃーっと吹き上げたり、生きてるみたいで可愛い。上の客室やエントランスに観客はいたのかもしれないが、池の真ん前で見ていたのは私とヒナコのふたりだけだった。こういうのってコストパフォーマンス的にはどうなのよ?という疑問が湧くが、棚上げしておこう。15分ごとにあるからいちいち人は集まらないのかな。
さて、晩ごはん前にいったんホテルで一休みするか。軽くシャワーでも浴びて。

リスボア・ホテルの周辺には「押」の看板を出す店が軒を連ねている。私の泊まっているホテル・シントラの並びにもある。一見する限りでは、ショーケースに時計や宝飾品が並んでいるそういう店。だけど、押とは“質屋”のことなんである。ショーケースの時計や指輪はつまり質流れ品というわけで、奥に外貨両替ブースのような窓口があるのが見える。あそこに質草を持ち込むわけだ。

カジノ街に質屋。あんまりに直截過ぎて笑っちゃう。私のあずかり知らないところで欲望はぐるぐる渦巻いているようである。

マカオ料理は中華とポルトガルのいいとこどり!

予想以上に蒸し暑さに消耗していたようで、ホテルでぐったりしていたら、もう8時近いではないか! 大変だ!
大急ぎで支度しながら窓の外を見ると、ホテルビルたちが極彩色に発光している。うわ、すごいことになってるぞ。このネオンは一晩中のことなので後でゆっくり見物することにして、とりあえずセナド広場方向に向かう。昼間見たカテドラル広場を通り抜けたが、夜はライトアップされていてすごくいい雰囲気。

目指すは『九如坊(プラタオ)』[WEB]というマカオ料理の有名店で、中国系では初めてポルトガル総督府のシェフになり、それを20年以上も勤めたというオーナーシェフの店。カテドラル広場を囲むアズレージョ壁画の小道の、さらに引っ込んだ場所にある。緩い坂になっている、私がとっても気に入った小道だ。

店構えやインテリアはスタイリッシュなカフェレストラン風でお洒落だ。
ワインの種類も豊富だが、ここはポルトガルビールのサグレスを注文。暑かったからねー、どうしてもワインよりビールな気分になっちゃうのだ。

ポルトガルで飲んだ時は「サグレス、うまっ」と思ったのだけど……。マカオの湿気の中ではコクがあり過ぎ、味が粘る気がした。「ご当地ビールは現地の気候の中でが一番美味しい」これは私の持論だったではないか

とりあえず飲み物の注文が済んだので、メニューを眺めながらじっくり熟考する。ポルトガル料理が口に合うことは実証済みだ。トータルで言えば、イタリア料理より日本人の口に合うと私は思っている。日本人の舌に合わせた日本のイタリアンでなく現地の食事の場合ね。
で、口に合うポルトガル料理にさらに中華テイストが加わる──これはもう絶対に美味しいに決まっている。
それから、ここがアジアであるということ。身体の大きさが同じアジアにおいては、少なくともびっくりするような量が出てくることはありえない。まあ常識的分量(アジア的に)であるはずだ。頼んだものを残せない性分の私には、これずいぶん大事な条件なのよ。…となれば、失敗しないであろう確実なオーダーに逃げずに冒険できるということだ。

などともっともらしく考えて、前菜はマッシュルームの蟹肉詰めというのにした。悩んだ割に、容易に味が想像出来そうな料理にしちゃった……。

代表的マカオ料理のアフリカン・チキンは絶対頼むと決めていた。アフリカにこんな料理はないのだけど、香辛料やココナツミルクなどの味のスパイシーなグリルチキンをマカオではこう呼ぶらしい。
ポルトガルからマカオに至るまでの様々な国の様々な味が融合した、実に大航海時代を象徴する料理なわけだ。オーダーすると味のチョイスを求められた。「ベリー・スパイシー? ノーマル・スパイシー? リトル・スパイシー?」
ベリー・スパイシーは避けるとしてノーマルにしておこうかな。いや、辛すぎるとヒナコがむくれるな。どうしようかな。うー…ん。
しばし逡巡したが、結局「リトル・スパイシー、プリーズ」

もうひとつのメインは「大海老の丸焼き・ニンニク風味」にした。なーんだ、結局、味が想像出来るもの頼んじゃった(笑)

まず出て来た前菜のマッシュルームは、ころんと4個。大ぶりのマッシュルームだけど4個。そうそう、いいのよ、前菜はこの程度の量で。前菜なんだから! これがヨーロッパでは前菜のくせに皿に溢れんばかりに乗ってるのよね。溢れてる時もあるしね。マッシュルームの笠の部分に蟹肉入りの魚のすり身を詰めて丸くし、ソテーしたもので、味付けはあっさり塩胡椒。よかった、トマトソースで煮たりされなくて。欲を言えばもっと蟹肉含有度が高いといいんだけど、それじゃ丸く成形出来ないか……。

マッシュルームの蟹肉詰めは、たこ焼きよりひと回り大きいくらいの手頃なサイズ。私はもうちょっと濃い味でもいいのだが、ヒナコは喜んでいた

ホントに特大海老。

背中に肉が詰めてある…というより肉を背負っている。スパイスとコリアンダーみたいなのを混ぜた肉。海老だけじゃあないんだゼ

大海老はホントにでかかった。海老の背には切り込みが入っていて、スパイス入りの挽肉がちょっと詰めてある。そいつを殻ごとニンニクオイルでソテーしてあるのだ。美味しくないわけがない!! 海老のニンニクオイル焼きなら普通に美味しいわけだけど、香辛料入りのミンチ肉がプラスされることで、旨味がぐぐっと加わる。かなりニンニク風味は強めだけど、私は大歓迎だ。付け合せの生野菜はバルサミコドレッシングがかかっている。初めて見た紫色のエンダイブは、緑のものよりずっと苦味が濃く、ニンニクにはよく合う。

そして、評判どおりアフリカン・チキンは絶品だった。どんなスパイスがどんな比率でどう入っているのかわからないけれど、スパイシーでありつつもまろやかで深みがあって、とにかく美味しい。リトル・スパイシーでこれかぁ……、ベリー・スパイシーは結構とんでもないかもな。
ものすごく美味しいのだけど、骨付肉だからナイフとフォークで食べるのは大変だ。肉は骨の周りが美味しいんだよな、ああ、指でつまんでしゃぶってしまいたい! 身悶えしながら、根性で出来る限り食べ尽くした(実はちょっとしゃぶった)。この執念深さは我ながら偉いと思うよ。

ちんまりまとまって見えるけど半羽ある。これは美味しい。大変美味しい。すごく美味しい。

この料理は脇役も偉い。肉の下に敷かれた茄子、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ……、彼らはスパイスの効いたソースと鶏から出た脂と旨味をたっぷり吸っている。特に茄子の美味しさがたまらない。ちゃんと温めてくれるパンも美味しい。胡桃とゴマが入っていて、外側はカリッとしてるのに中はもちっ。

にこにこ顔で料理を堪能していたのだが、私の斜め前の席に50代くらいの男性がひとり座ってちびちびとビールを飲んでいる。黒ビールと普通のビールをハーフ&ハーフで。料理はなくビールだけだ。彼はまっすぐ前を見ていて、時たま目が合う。どうも厨房の人の服装っぽく見えるけど、あれはもしかしてシェフかしら? 後片付けは下に任せて、仕事あがりに一杯やりつつ客の様子を見ているのかもしれない。

>> 当たり。HPで見たら写真がのってた。私が骨まで舐め尽くす勢いでチキン食べるのも見られてたと思う。いいよね、シェフならきっと嬉しいはず

デザートは入る余地がなくなってしまったのでコーヒーだけもらう。570パタカ。まあ、納得の値段だ。

しっとり夜景とチカチカ夜景

ぽんぽんのお腹を抱えて少しセナド広場近辺を散歩して帰ることにした。
暖かな色の灯りでライトアップされていて、昼とはまったく印象が変わっている。かなりヨーロッパの街角っぽい。へえ、この街にはこういう貌もあるんだ。でも実際はヨーロッパの夜の街は電球が弱くて少なくて、もっとずっと暗い。

しっとり夜景部門。カテドラルは夜の方が絶対にいい。中には入れないけど

聖ドミニコ教会は夜も華やか。人もいるし

仁慈堂もいい感じ。昼間はあのバルコニーから見下ろしたのよね。その横のお気に入りの路地もいい感じになってるし♪

ぶらぶら通りを歩いてホテルエリアに近づくと、ここでは全然次元の違う世界の夜景が展開されていた。なんていうか、街が丸ごとパチンコ屋の電飾看板になっているのだ。
グランド・リスボアの根元の球体部分は、巨大ミラーボールだ。客室タワーもチカチカ七色変化。このまま突然回転を始めロケットのように発射して飛んでいってしまっても、大して驚かないのではないか。そういう趣向なんだ、と納得してしまうくらい。

チカチカ夜景部門、スタート!

他のホテルも負けずに極彩色ネオンを煌かせている。さすがにチカチカと色を変えることはしないけれど、中国銀行のビルまでもが全身をネオンで彩っている。オフィスビルでしょう? キミは。
もう、ここまで潔く派手派手に突き抜けてしまったら、いっそ天晴れだ。上品かというと肯けないけれど、歌舞伎町的猥雑さや下品さは感じない。

圧巻なのはグランド・リスボア。「エコロジー? 何ですかソレ」という突き抜けっぷり

お口ぽかーんで見とれついでにウィン・ホテルの噴水ショーの夜バージョンを見に行こう。音楽や動きの違うものが何パターンかあるということだから。わっせわっせと地下連絡道を急がせたら、ヒナコがベソをかき出した。満腹で苦しいところを早足になって、地下道の階段を登らせたからだ。うー、ごめんよぉ、つい時間を気にしちゃったんだよお。

ちゃんと開始タイムには間に合ったのだが、曲は夕方見たのと同じ『リゴレット』の『ラ・ドンナ・エ・モビレ』だった。動きも同じだったが、夜の方が数倍綺麗だ。
マカオ初日は、正確にはまだ半日だけど、いろいろ満喫した。なかなかよいところではないか。明日も期待出来そう。

ほーらね、やっぱり夜の方がずーっと綺麗

前々回のポルトガル旅で導入した万歩計、去年の台湾には忘れてしまったけど、今回はちゃんと装着。実はポルトガルの時は歩幅の設定を間違えていたのだが、それもきちんと修正した。さて、今日はフェリー移動の65分がマイナスだけど、どのくらい歩いたかな? 19195歩。おお! 2万歩に僅かに足らず。やー頑張った頑張った。

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