今朝はお粥で朝ごはん

今朝の目覚めもやはり寒かった。冷房が強いのはもう我慢するよりないのかもしれない。
窓の外はどんよりしている。まだ雨粒は落ちてきてないが、降り始めるのも時間の問題といえそうな暗い空の色。旅先で朝一番に見る空としては心が浮き立たない色合いなんだが、少しは涼しいかもしれないと逆に期待してしまう。
昨日の暑さにちょっと参ったのか、身支度もなんとなくダラダラ。ゆるゆるとホテルを出たのは8時半。

向かうは昨晩ディナーをとった福隆新街。朝の光の中だと赤い扉や格子窓がさらに目に鮮やかでよく映え、全然雰囲気が違う。まだほぼ全ての店が扉を閉ざしている状態なので、ことさら赤い建具が目立つのだ。いい感じのレトロチャイナである。

朝の明るさの中では、白い壁と赤い建具のコントラストがより一層鮮やかに見える。ここが遊廓であったら……朝の空気には艶めいた気だるさが漂っていたのだろうが

目指すお粥の名店『三元粥品専家』は、通りの一番北辺りに質素に佇んでいた。50年超の老舗とは思えない簡素な店構え。他の店が扉を閉ざしているからこそ、この店が見つけられた……そのくらい地味な地味な外観だ。台湾などでもそうだが、地元に根付いたローカルフードの名店って結構こんな感じだったりする。台湾には創業40年の屋台、半露天の店舗だけど60年70年の老舗なんてのはザラだから。かつての日本でもそういう店はあったのだけどね、汚くて品数も限られてるけど安くて絶品!てな、そういう店。今はチェーン展開している飲食店だらけ、津々浦々おんなじ味ばかり。

そんな地元の匂いムンムンする店内をそーっと覗いてみると、客の入りは八分くらい。といっても6〜7卓しかないのだけど。新聞読みながらお粥をすすってる地元のおっちゃんたちと、大陸からの観光客4人組。

店頭で盛大に湯気のあがる大鍋をかきまぜているおばちゃんに壁のメニューを指差し、皮蛋痩肉粥(ピータンと干し肉のお粥)と、牛肉団子と豚肉団子の両方が入った金銀粥をオーダーした。皮蛋痩肉粥は香港の『糖朝』で気に入ったので、マカオ版もぜひ試してみたくなったのだ。おばちゃんは力強く頷き、一旦引っ込むと卵を手に持って指差しつつ何やら言う。ああ、オプションで生卵を入れてもらうといいってガイドブックにあったな。鳩のようにコクコクと首を振ると、再びおばちゃんは力強く頷いた。なんだかとっても頼りになる感じのおばちゃんだ。雰囲気が、おっかさんというよりは、学生食堂の賄いのおばちゃんぽい。

注文を受けてからひとつひとつ作るそうで、ヒナコと私のお粥が揃うのにかなり時間差があり、まずピータンとお肉のお粥が出て来た。熱々トロトロのお粥をレンゲで一口すすってみる。うわっ!これは! なんだなんだ! めちゃくちゃ旨いぞ?? お粥そのものに肉やピータンの旨味が溶け込んでいるような感じ。お米は原型をとどめないくらいどろどろだが、しっかり味は濃い。もっとぱくぱく頬張って食べたいのだけど、とてもそれを許さない熱さ。うっかりレンゲ山盛りにして口に入れてしまったら、舌も喉も火傷してしまいそうなので、子猫がミルクを舐めるようにちびちび味わう。

右がピータンとお肉のお粥。具が沈んでしまっているけれど、これでもか!という量が入っている。牛肉団子と豚肉団子はどっちもとってもでかく、ジューシーで美味しい。これが、スタバのキャラメル・フラペチーノ(S)の3分の2の値段でいいのか??

さて、具の痩肉だが、糖朝のものは干して乾いた肉を裂いたようなものだったのだが、ここのはプリプリのお肉だった。ちょっとモツっぽい食感なのだが臭みがない。鶏肉ではなく豚のようだ。淡白なのだが旨味はあって、脂っぽくないけどパサついてもいない、いいとこ取りの味。すくい上げるようにレンゲでお椀をかき混ぜると、肉片は15片くらいたっぷり入っていた。

お粥をハフハフ、額の汗を拭き、首筋を拭い、またハフハフ……。わ〜美味しいわ〜。

ヒナコの金銀粥も味見させてもらう。大きな肉団子が牛と豚5個ずつくらい入っている。こっちは底に生卵が割り入れてある。卵を崩さないようにしてお粥半分はそのまま味わい、少し温度が下がってから卵をほぐす。かき玉のように卵とお粥が別々にならず(それはそれで美味しいんだけど)、卵酒のようにとろりと混ざる。クリーム色でまるでポタージュスープみたい、卵のコクが加わって一杯で二度美味しい。

小奇麗な店構えではないし、ちょっと見つけにくい場所にあるけれど、私の好みとしては糖朝のお粥よりこっちが好きだな。その上激安。一杯19パタカなのだ! 230円くらいでこんなに美味しくて満腹していいのか!! 感激しながら店を出て数歩歩いたところで、オプションの生卵料金が加算されていないことに気づいた。忘れられたか、サービスか(それはないと思うけど)、卵つけてもつけなくても同じなのか(それもないと思うけど)。

高台へ行こう!

さあ、今日はどうしようかな? 実は今日がマカオ最終日で明日は香港なのだが、高齢者連れであることを前提に立てた観光スケジュールであるにもかかわらず、こなせずに押してきてしまっている。どこからどういうふうに行こうか、大通りまで歩いて少し悩んだ。「マカオというのは見所がこじんまりとまとまっていて、バスやタクシーを待つ間に意外と歩けてしまう」とのことだが、それは普通に健脚を持っている人の場合であろう。

あと、どことどこに行きたいんだっけ? 必ず食べたいと思っているものは何だっけ? それを押さえた上で出来るだけ余分な移動のない効率のよいルート組み立てをしなくては。そのためには今いる場所からまずどこへ行けば?

まだ人通りは疎らな道路で、ガイドブックめくったり地図眺めたりしているうちに、何だかよくわからなくなってきた。どうせルートなんて組み立てたって、ヒナコが疲れたり、ゴネ始めるのをなだめたり、そのうち喧嘩になったり、通りすがりの人に私が白眼視されたりして、全〜部覆るんだ、そーなんだ。いいや、思いついた所行けそうな所に発作的に向かえば!
じゃあ、30の世界遺産群の中でひとつだけ離れているギアの要塞〈世界遺産その28〉に行こう。要塞のある東望山は半島部では一番高く、山腹から山頂にかけて広々とした公園になっている。山頂部に行くのに小さなロープウェイがあって、それを利用してのアプローチを考えていたが、ロープウェイ乗場が遠いこと(一直線に行けるバスがない、歩くには山を半周することになって遠回り、街中からだと乗場がすぐ見つけられないかもしれない)と、ロープウェイを降りてからも公園内を横断しなくてはならないことなど、ヒナコの歩みを思うと時間が読めなさ過ぎてあまりに危険と思ったのだ。

メモに「東望洋山 炮台」と書いてタクシーが通るのを待った。一気に灯台の根っ子まで行ってしまうことにする。公園内をのんびり散策するのもいいけどね……。でも、ヒナコの場合はそこらへんの横断歩道渡るのも散策ペースなんだもんね(笑)
タクシーはくねくね道を一気に登り、あっさり到着。マカオで最も高い場所にある砦だったギアの要塞、外敵からの防衛の必要がなくなって造られたギアの灯台、灯台の隣の小さなギア教会とがまとめて世界遺産になっている。

目覚めてすぐ窓の外を見た時からそうだったが、今日の空はどんよりと雲が重い色をしている。雨は降っていないが、いつポツポツ来てもおかしくない感じ。蒸してはいるが昨日までよりは気温は低く、これなら不快度も疲労度も多少マシかもしれない。

何かゲートのようなところでタクシーを降ろされたので、そこをくぐって少し上り坂を進むと「防空洞展示廊」と書かれた札の下がった扉があったので、入ってみる。かつてここが要塞であった頃、張り巡らされていた地下トンネルの一部が見学できるらしい。写真パネルが展示されたカビ臭い通路を抜けると、ポルトガル軍の弾薬庫や仮眠休憩室などがあった。ほんとに一部を通り抜けてちょっとだけ石段を登ると、砲台の据えられた見晴らしのいい展望台に出た。振り返ると10数段ほどの階段の上に可愛らしい灯台と礼拝堂のような小さな教会が寄り添うように並んでいた。

この教会と灯台、今まで見てきたマカオの欧風建築の中で一番ポルトガルっぽいのではないか? 白い壁に黄色い縁のカラーリングは、オビドスやエヴォラなどの街で見た家々とまるっきり同じ雰囲気を持っている。

こんなどんよりした空の色にもかかわらず、一番「ポルトガルっぽい」と感じた風景。ナザレのメモリア礼拝堂に似ていると思った。(後で写真を見たら形や色は違っていたのだが……海を見下ろす高台というシチュエーションのせいか?)

白とピンクの清楚な祭壇

ヨーロッパぽくもありチャイニーズっぽくもあるフレスコ画は、だいぶ傷んでしまっているけれど、繊細で綺麗

灯台は今も現役で海の安全に貢献しているので内部には入れないが、さっそく教会を覗いてみる。礼拝堂くらいの規模の小さく簡素な造りだが、とっても可愛らしい。入口にはガラスの自動ドアなどがはめ込まれていて若干興ざめしかけたが、内部は一見の価値ありだと思った。正面のマリアさまは、どことなくアジア人好みの顔立ちをしていて、慈愛に満ちた優しい表情で迎え入れてくれる。壁面には当時のフレスコ画がまだらに残っているのだが、鮮やかでありながらふんわり柔らかな色彩で、とても綺麗。色彩もだが、所々ではっきりわかるいくつかの絵柄はヨーロッパぽくもありチャイニーズぽくもあり。

一番高い丘の上から市内一望。ここからもグランド・リスボアは目立っている。ずーっと向こうにマカオタワーも見える

蓮の花を象ったらしいけど、そうは見えない。何か似てると思ったら「取扱い注意ラベル」だった! 画像にポインタを合わせて納得してみてください

教会を出て展望台をぐるりと巡りながら、足で歩いて下ることにした。空はどんよりと曇っていて展望風景も今ひとつ華やぎに欠けるが、直射日光に炙られないので身体がずいぶんと楽だ。昨日までより2〜3度は気温も低いかもしれない。

東の高台の次は西の高台へ

なんとなく道なりに丘を下りてきた。丘の中腹まではのんびり散策しながら木立の中を下るのだが、下半分は街中に入っていく感じだ。曲がりくねった坂道が交差する角の小さなホテルの佇まいに見覚えがあるような気がした。ああ、思い出した。ここってマカオGPのコースになっている道じゃない? このホテルの真下の道をフォーミュラーカーがぎゅううううんとカッ飛んでいくのをTVで観た覚えがある。アイルトン・セナがF1にステップアップする前の時代にね。TVで観るよりずっとずっと狭い、あまりにも普通の道路だった。うちの近所のバス通り以下の狭さだよ、これは。

さて、今日はとりあえずピンポイントで見晴らしのいいところを周る予定。天気がどんよりしているのが残念ではあるが、そういうことをこなすにはもう今日しかないんだもの……。ちょうど通りかかったタクシーで丘の上のペンニャ教会へ向かう。
運転手に見せるためにメモに書いていて気づいたのだが、今までいたギアの要塞は「東望洋山」でこれから向かうペンニャの丘は「西望洋山」だ。媽閣廟のある丘と隣り合った丘で、昨日媽閣廟の後で立ち寄る予定にしていた場所だ。それがヒナコの歩みのノロさで時間がどんどん押してゆき、雨まで降り始めてとても眺望は望めまいと取り止めたのだった。その後まっすぐホテルへ戻るつもりで予想外の市中引き回しの憂き目に遭ったわけだが、今日はタクシーの運転手が連れてってくれるので何の心配もいらない。

タクシーはあっさりと媽閣廟前の道路に出てペンニャの丘らしき坂道を登り始める。この丘は一番最初にポルトガル人の居住地となった地域らしく、途中の斜面にはコロニアル風の立派な洋館が点在していて、どこか高級別荘地のような趣き。

教会前の広場は見晴らしのいいテラスになっている。西湾湖越しにマカオタワーがそびえ、その向こうは水路を挟んで中国だ

丘の斜面にはコロニアル風の洋館。ピンクの建物はポルトガル領事官邸だったかな?

彫刻などの装飾はないけれど、とっても“絵になる”形状をした教会

そんな南欧リゾートのような風景の中を抜け、丘の一番高い場所にペンニャの教会はある。彩色も装飾も何もないシンプルな石造りの教会なのだけど、鐘楼や屋根の上のマリア像などを持つ建物の形はとても綺麗で、簡素ながらも高潔な印象がある。何より、教会前の広場からの眺望が素晴らしいのがいいじゃないの!

この場所が素敵でロマンチックだと思うのはマカオの人たちも同じようで、ウェディング写真の撮影をしている若いカップルがいた。中華圏では日本とは結婚式や披露宴の形式が違うからだろうが、見栄えのいい建造物や公園など“綺麗な風景の中”で、結婚写真を撮影する習慣があるようだ。撮影場所が結婚式場や写真館のスタジオでなく、野外ロケになっただけのことだが。撮影は当人たちだけでするようで、タキシードとウェディングドレスのカップルにカメラマンと助手、ヘアメイクさんの5人だけ。親族も友人たちもいない。結婚式の前に撮るのか、後なのか、ドレスでの写真は式とは別なのか……それはわからないけれど。いろいろポーズの指示をつけたり、髪やメイクだけでなくドレスやベールの皺も細かに整えたり、グラビア撮影並みにじっくりきっちりやっていた。鐘楼を持つ高台の教会はロケーションとしてはとてもロマンチックだが、あいにくのどんより曇り空、時たまポツポツ当たる雨粒がちょっと気の毒。撮影の合間のメイク直しの時、花嫁はいちいちドレスの裾を尻端折ってベンチの上に立たなければならない。撮影助手が折畳み傘をさしかける。ドレスを汚さないためとはいえ、大変だぁ…。

マカオの日常を垣間見る

ギアの要塞からも歩いて降りたので、ここからもそうすることにした。タクシーが客待ちしてくれてるわけでないので、歩く以外ないわけだが。
道なりに下っていくと途中で二手に分かれて標識が出ている。今さっき自動車で上ってきた道路は媽閣廟前の広場に通じるようだが、反対側の遊歩道のような横道にはリラウ広場〈世界遺産その29〉鄭家屋敷〈世界遺産その30〉を示す標識が向いている。よし、こっちを進んでみるとするか。

空模様はというと、どんより曇り空のまま。時折雨粒がポツポツとくるのだが、傘を広げると必要もなさそうな感じになり、畳んでバッグに仕舞うとまたポツポツ……。なんていうかもう、非常に煮えきらず優柔不断で往生際の悪い天候なのである。とはいえ、やる気満々でガンガン照りつけられても日射病になるか熱射病になるかでぐったり消耗するだろうし、雨風に吹き降られて服も靴もぐじゃぐじゃ髪も化粧もボロボロになるのも嫌だ。まあ、そう考えれば優柔不断おおいに結構!ではあるのだが。もうちょっと湿気が少なければ、ずいぶん楽なんだけれど……。

そんなふうに傘を広げたり閉じたり仕舞ったりまた出したりしながら、雑木林の散歩道といった風情の坂道を下っていく。林の小道はさほどの距離もなく、そのまま閑静な住宅街らしき場所へと続いていく。大型犬を散歩させている人と時たま出会う。この辺りは高級住宅地なのかもしれない。

このあたりの集合住宅は、日本の平均的なマンションに感じが似ている。ベランダが柵で囲われていて、まるで鳥籠のようになっているのが面白い。それぞれ色やデザインが違うので、自分で勝手に取り付けた囲いなのかしら??

標識に沿って歩いていたはずなのに、リラウ広場も鄭家屋敷もどこにあったのか全然気がつかなかった。途中に、置かれたベンチや街燈などが洒落た感じなのに、掘り返されて土の地面がむき出しになっている工事現場みたいなところがあったのだが、あそこがその広場だったのかも。単に修復中だったということかもしれない。その広場を探していた広場と認識出来ず、従ってその広場に面した屋敷も認識出来ず(どのみち鄭家屋敷は現在修復中で内部見学は出来ないらしい)。丘を下る通り道だからついでに見てみようと思ったに過ぎないので戻って探すこともせず、そのまま道なりに進んでみることにした。

高台にあるお洒落な教会からかつての政府施設だった洋館の点在する超高級住宅街、そこそこ豊かな高級住宅街、中流やや上くらいのマンションの並ぶ地域……。たいした距離でもないのに高さを下げるごとにどんどん庶民化していくのが面白い。金持ちが山の手で庶民は下町にという図式は世界各国どの地域でも同じなのだけど、そのグラデーションがあまりに近い範囲にキュウっと詰まっているものだから。そういうわけで、下りとはいえヒナコののたのたした足取りで20分程度しか歩かないうちに、庶民度大全開の市場&屋台街のような通りにぶち当たったのだ。

雑踏と喧騒とさまざまな色彩。地に足のついた生活感溢れる場だ。通りかかった八百屋に枝になったままのライチを見つけた。そうだった、6月は楊貴妃が愛した香り高いこの果実の短い旬に当たるんだった。私は楊貴妃ではないけれど、ライチが大大大好きなのである。でも、日本で入手できるのはほとんどが冷凍かシロップ漬けの缶詰のみ。直輸入のフレッシュライチを千疋屋で見かけたことがあったが、最高級佐藤錦に匹敵する値段だった。これまで台湾や香港には何度か来ているくせに、暑いのと台風が嫌で夏は来たことがなかった。だから一ヶ月くらいしかないライチの短い旬には出会えたことがなかったのだ。暑さと湿気と夕立には多少辟易するが、そんなことチャラにしてもいいくらいフレッシュライチとの出会いは嬉しかったのだ、私的には。

札には「8元」とある。どのくらいで8元なんだろう? とりあえず2枝ほど買うことにした。1kgはない感じ、800gくらいかな?(後で数えたら60粒くらいあった)八百屋のおばちゃんが電卓に打ちこんで示した数字は13。えええーっ、13パタカって170円くらいなんですけども。フレッシュな上に激安! これが明後日の帰国じゃなかったのなら1000円ぶんくらい買ってたかもしれないよ、私。うわ〜ライチどれだけ山盛りになるんだろ。想像してみるだけで嬉しくて倒れちゃいそう。

色鮮やかな野菜や果物がいっぱい並ぶ一画。私はワクワクしちゃうんですよねぇ、生活が垣間見えるこういう風景……

赤く熟れたライチ♪ 多分「1斤8元」て書いてある。1斤は大陸では500g、香港では600gだっけか。マカオでは?

大好きなライチを激安で購入できて嬉しい私は、スキップらんらんらん状態でウキウキと市場&屋台街を歩いていたのだが……

そう、ヒナコは「騒々しい&人が多い&暑い」ことに耐えられないヒトなのを失念していた。騒々しいのも人が多いのも暑いのもどれもが、人がイライラする要因なのだけど、ヒナコの場合は一般平均よりずっと沸点が低いというか、我慢が思い切り足らないというか……今回もそうだった。「面白いよねえ、こういうとこ、ワクワクしちゃうよね」と言いながら振り返ると、そこには眉間にしわを寄せて口元をへの字にしたヒナコの顔が。しまった、お気に召さなかったか…!

道なりに市場を抜けて行くと、そこそこ交通量のある道路に出た。当てずっぽうに歩いてきたので、自分の現在位置がよくわからないが、「→民政総署」の標識があったのでとりあえずそちらへ向かってみることにした。きちんとガードレールで仕切られた歩道があるので危険なことはないのだが、ひっきりなしに車が行き交うので、ヒナコの不機嫌ゲージが少しずつ上昇しているっぽい。しまった、早くホテルに戻るなり、昼食休憩するなりしなくては。かといって早足にあることも出来ないのがつらいところ。「ゆっくり」「急がなくては」ならないんだからね……。不機嫌になるくらいなら気づかないふりでもしてやり過ごせるが、泣かれると困っちゃうからね(笑)。

私の感覚としては、このまま道なりに北上して適当なところで右に折れればホテルの近所に出るはずだったのだが、思ったより距離を歩いてしまっていたようだ。…というより、ヒナコのペースでノロノロ歩いているから実感として薄いのだが、マカオの町はホントにコンパクトなのだ。特に健脚でなくてもちょっと歩けば普通にどこでも行けてしまう。ここがまだ返還される前、「閉じられた空間」であった時代はかなり息苦しかったのではないのかしら…?

そういうわけで、改めて地図を広げそこから見えるホテルの看板やストリート名標識などから現在位置を再確認してみると、民政総署のあるセナド広場へ曲がるポイントは思い切り通り過ぎてしまっていた。次の路地を右折すれば福隆新街の北の端にぶつかるようだ。よし、ここでお昼ゴハン食べて帰ろう。昨晩のディナー、今朝のお粥と、朝昼晩続けてこのノスタルジックな通りの店で食事することになるわけだ。

昼の福隆新街は活気でいっぱい

ほんの数時間前に昨晩との趣きの違いをしみじみ味わったこの通りは、昼食時のピークを迎えてさらにその様相を変えていた。あの印象的な赤い扉がすべて開かれて店がオープンしているので、どことなく漂っていた艶めいた風情がだいぶ薄まってしまっている。そのかわり、飲食店以外にもフード土産屋などが店開きし、行き交う人たちの数はとても多い。活気は段違いにあるけれど、フツーの賑やかなグルメストリートという感じ。そういえば二階の窓枠とかレトロチャイナしててちょっと素敵ね、という程度の。また早朝では、ほとんどの店の扉が閉ざされていて、だから、白壁に鮮やかな赤い建具の建物が綺麗なのはハッキリわかるけれど、閑散としている印象は否めないワケだ。この風情ある道筋とのファーストインプレッションが、暮れなずみ始めた夕刻から夜という時間帯にあってよかったと思う。

ランチには、マカオ初日に『黄枝記粥麺店』でトリコにされてしまった“マカオの麺”をもう一回食べてみよう。竹の棒で麺を打つという有名店がこの通りにあったはず。あの海老の卵のおソバを是非とも食べ比べてみたい。

行き交う観光客の間をウロウロしていると、土産物店の『鉅記餅家』 [WEB]を見つけた。市内に支店を幾つか持つ有名店で、「餅家(お菓子屋さん)」「手信(手土産)」の看板はあちこちにあるのだけど、種類の多さと人気はこの店がダントツのよう。マカオの有名店って、マカオに2〜3店舗出したあと香港にも出店というケースが多いようだけど、この店は10店舗ほどの支店をマカオ市内にしか出していない。だからなのか、香港人はマカオに来たらここでどっさり土産を買うのがお約束のようで。クリーム色の字に朱色で「鉅記」と書かれた大きな手提げ袋を持っているのは大抵が香港人らしい。グルメな街香港の舌の肥えた人たちが大量購入するお土産なら、多分美味しいに決まってる(と思いたい)。いずれにしても、お土産は買わなくてはならないので(だって仕事が完了していないのに中断させて休暇取っちゃってるんだから)今ここで手に入れてしまうことに。

マカオの代表的スイーツといったら、エッグタルトやセラドゥーラや牛乳プリンなのだろうが、これは現地で味わうしかないもの。持ち帰りスイーツ部門の代表格は、杏仁餅(アーモンドクッキー)ということになるのかな。やっぱりコイツを買って帰ろうかな?
売り子の呼び込みにつられて店内に足を踏み入れてみると、何十種類ものフード土産がズラリと並んでいて、ほとんどが試食し放題。ほぼ全ての品の前に欠片の入ったタッパが置かれているのだ。ちょっとでも「これ何だろ?」との視線を向けると、その眼前に「さあ食ってみろ」「こっちも試してみろ」「これはどうだ」「あっちはどうだ」とバンバン差し出されてくる。ああ、もしかして、この試食攻撃との激戦の末、玉砕してやむなく大量購入へとつながるのであろうか…?

試食だけで腹を満たすようなさもしい根性はしていないので、適度に断りはしたが、とりあえず気になったものが一通り試せるのは嬉しい。
杏仁餅はサクッとしていてホロホロと柔らかくてアーモンドとバターの香りがほんのりとしていて、ものすごく美味しいというわけではいのだけれど、何だか懐かしい素朴な味わい。基本のアーモンドの他、黒ゴマやピーナッツなどのバリエーションもあってそれなりに美味しいけど、どこか“邪道”な感じがする。

杏仁餅以外にも焼き洋菓子系のものはたくさんあって、やっぱり人気の蛋巻(エッグロール)というのはヨックモックのシガールにそっくり。美味しそうだけどマカオくんだりまで来てシガール買って帰るってものねぇ(笑)。○○は不二家のホームパイや源氏パイみたいなさっくりしたパイ、小ぶりの南部煎餅みたいなクッキーにはゴマやピーナッツたっぷり。ドライフルーツ系も何種類かある。

いろいろ並ぶ中で心惹かれたのは、そもそも屋台からスタートしたというこの店の最初の商品のピーナッツキャンディ(花生糖)。たっぷりの砕いたピーナッツを飴で板状に固めた中華圏ではお馴染みのお菓子で、どこでもそれなりに美味しいのだけど、中には「とんでもなく美味しい」店があったりするのだ。とりあえず私のベスト・オブ・花生糖は、台北の士林夜市にある屋台のものである。飴の固さと甘さとピーナッツの香りと分量が絶妙なバランスで、これが週刊誌くらいのサイズであってもペロリとイケるんじゃないかと思っている。カロリーは半端じゃないだろうし、歯にもよくなさそうだから、絶対にそんなこと出来ないけれど。
で、この店の花生糖に逆転の期待をかけたわけだが、うーむ。かなりイイ線はいくものの、台北の件の店の花生糖を超えるには至らなかった。ここのも美味しいよ、すごく美味しいと思う。いや、台北のアノ店のが美味しすぎるのだ、私にとって。

ズラリと並ぶ「肉乾」。のした味つきジャーキーなわけだが、肉の種類や部位や味つけの違いがいろいろある

焼き立て杏仁餅。ものすご〜〜く素朴な味わいのクッキー

もうひとつメチャクチャ心惹かれたものが、肉乾というノートくらいの大きさもあるジャーキー。ビーフ、ポーク、仔牛、仔豚など、いろんな部位やいろんな味付けで20種類くらいあった。たまたま路地の隅で作っているところを見かけたのだが、叩いて叩いて叩いて薄〜〜くのばした肉に甘辛そうな味をつけて、炭火バーベキュー台みたいな上でヒラヒラさせて炙り焼きにしていた。通りがかりのチラ見と一瞬鼻に抜けた芳しき香りだけで、何だこれは何なんだ絶対旨いゾとわかってしまったのである。店内に入ると、書店の平積み台のごとく各種ジャーキーが積み上げてあった。おお、これだこれだ、さっき作ってた美味しそうなモノ!
試食用の破片をつまんでみる。ハワイなどで売っている歯の折れそうなジャーキーではなく、芯に適度に柔らかさを残していて、じっくりを噛み締めると肉の旨味と風味が広がる。ひゃあ、これでビール飲んだら、いくらでも飲んじゃうゾ! 全種類買い占めたいくらいなのだが、これは果たして日本に持ち込めるものなのか…激しく不明。ていうか、動物検疫に引っかかる可能性の方が断然大きそう。もう少し滞在期間が長ければ、風呂上りのビールと一緒に胃袋に収めちゃうんだけどねぇ……あと二泊じゃちょっと無理だわ。

ジャーキーをお土産にするのは諦めて、杏仁餅のオリジナルバージョンと塩アーモンドバージョンのもの、黒ゴマクッキーなどを何箱か購入。一箱の値段は安い。すご〜く安い。お土産をあげた人がこのページを読むかもしれないし、そしたら「えっ! そんな安いモノよこしやがったのか!」とバレるので、どれだけ安いかは内緒(笑)。20箱くらい買っても、パリの有名店でマカロン10個詰め合わせ買うのとどっこいどっこいかと。

結局、私も紙袋いっぱいに買ってしまった。
人にあげるお土産入手の任務は果たしたので、今度は昼食摂取。今朝からずっと空の雲は重くて、時折ポツポツ降っては止んで…の繰り返しだったが、またも雨粒が落ち始めてきた。目当ての『祥記麺食専家』を探してウロウロする間に、雨足はどんどん強くなり、慌てて店内に飛び込んだ時にはすっかり土砂降りになっていた。満席かと思ったが、一番奥のはじっこの2人掛けの卓がひとつだけ空いていた。段ボールの空箱などに半分侵食されたような場所だが、背に腹は変えられない。

席に落ち着いて濡れた髪などを拭きつつ壁のメニューを眺めると、さすが“麺食専家”を名乗るだけあって、商品は潔くおソバのみ。小皿の海老ワンタンや魚のすり身団子などのサイドディッシュもあるけれど、これはおソバのトッピングを単品で出すだけに過ぎない。迷うことなく蝦子撈麺(海老の卵の乗った和えソバ)と海老ワンタンの汁ソバを注文。ここんちの蝦子撈麺には「招牌」の文字が頭についている。台湾でも香港でもそうだが、この単語は「ウチのおススメ」を意味する。その店の看板メニューなわけ。すずめ的には「困った時の招牌なんとか」は、中華圏の食堂(あえてレストランとは呼ばない)でのオーダーの鉄則なのだ。

出て来た2種類のおソバを早速いただく。まずは海老ワンタン麺のスープを一口。スープを満たしたレンゲを鼻先に持ってくるだけでふわっと気持ちが嬉しくなる香り。魚介系の味なんだか豚骨系の味なんだか鶏ガラ系の味なんだか、とにかくいろいろ複合融合していて、サッパリしてるのにしっかりコクのある味。毎日竹の棒で叩いて打つという滑らかで腰のある極細麺に、そのスープが優しく絡む。プリップリのワンタンは川海老が入っているらしく、ほのかな滋味があって、包む皮はツルッとしなやかに薄い。思わず「うひゃひゃひゃ♪」などと頬が緩んじゃう。

で、驚きだったのが、汁ソバと和えソバでは麺の食感も味も違ったこと。スープも濃さだけでなく、味が全然違ったこと。もう、なんていうか、私の舌では何と何が出汁になってるのか判明つかないのだけど、とにかく丁寧に作ったスープであることは間違いなし。

プラスチックの安っぽい食器で出てくるが、淡白なくせに力強い上品な味だ。とにかくスープが美味しい

麺はかなりしっかりしている。日本のラーメンとはまるで食感が違うので、好き嫌いは分かれるところかな……私はコレ、好き

黄枝記と比べるとどっちが美味しいだろうかしら? 味は全然違うけれど、どっちもそれぞれ美味しいなあ……。黄枝記のセナド広場支店は、内装もレトロモダンでちょっとお洒落な感じで観光客でも抵抗なく入れる店構えだが、こっちは入口脇にはビールケースが積み上げられていて、中に入ってもデコラ貼りのテーブルと椅子だしで、地元の食堂という雰囲気ムンムンである。ただ、こういう超庶民的な構えの店でこれだけ上品な味わいの品が出てくる…そのギャップは大きいかも。今朝のお粥専門店もそうだったが。
そうねえ、私の好みとしては蝦子撈麺においては、黄枝記麺粥店より祥記麺食専家かな。あっさり薄味なのにもかかわらず、決してぼやけた味ではなくしっかり力強いスープがとにかく美味美味。値段も祥記の方が1割くらい安め。

安くて美味しいお昼ゴハンにお腹も心も満たされたわけだが、その間にも外の雨足は弱まる気配はない。ちょっと出たくない感じだけど、こういう店で食べ終わった客が長居しているわけにはいかない。お土産のデカイ紙袋もあるし、一旦ホテルに持ち帰って…そうだ、市場で買ったライチもあるんだよね、あれを食後のデザートにしてちょっと小休止ということで。

元祖エッグタルトを求めてコロアン島へ!

雨のバシャバシャする中ホテルに戻り、枝ごと買ったライチの実をむしって洗い、冷蔵庫で冷やすのも待ちきれずに食べた。冷凍やシロップ漬けにしていないフレッシュライチは、トロリと甘くてジューシーで気品ある香りで、これを何十個も食べられるなんて、ああ、もう、夢のよう!!! 喜びに打ち震えながら足をジタジタさせて貪り食ったのだが、このスイーツ別腹の私が!あまりにも量が多くて半分しか食べられなかった。残りはよーーーく冷やしておいて、今晩お風呂上りに楽しもうっと。

私がバクバクとライチを貪っている間、ヒナコはベッドに転がってうたた寝していた。窓の外はまだ雨。午前中はポツポツ程度だったが、完全に本降りになってしまった感じ。待っててどうこうなりそうな空模様ではないので、仕方ない、出かけるとしますか……。

さて、総面積が私の住む世田谷区の半分しかないというマカオであるが、狭いながらもエリアは4つに分かれている。中国と陸続きの半島部、半島と2.5kmもの長さの橋で繋がっている新興住宅地のタイパ島、のどかな自然のあるコロアン島、タイパ島とコロアン島の間を埋め立てたコタイ地区は大型ホテルの建設ラッシュ中。…ということで、元々別の島だったタイパとコロアンは完璧に陸続きになってしまっているわけ。
このコロアン村にマカオにおけるエッグタルト元祖の店『ロードストーズ・ベーカリー(安徳魯餅店)』[WEB]があるのだ。雨降りなのが残念至極ではあるが、のんびりゆっくりタルトを味わうには今日行くしかないのだもの。

タクシーで行っちゃおうかと思ったが、このままバスを使えこなせないままのも悔しい。タクシー料金も安いけれど、バスは超激安だしね。なんせ「数十円」の世界だから。うむ、やっぱりバスにチャレンジ、リベンジ。
ホテルからほんの1ブロックの所に広場があって、亞馬●(口偏に刺)前地というかなり大きめのバスロータリーになっている。方向別に乗場が4つか5つの“島”が分かれているので、「路環(コロアン)」方面の乗場をまず探す。路環方面は3路線くらいあり、該当する路線のルートを見るとその名を冠した停留所が何種類かあるが、「路環街区」というのがどうやら村の中心部の停留所っぽい。

しかし、とにかく路線図には漢字しかないのだ。地図っぽく図案化してあるとか、せめて欧文併記してあればともかくも、元々欧文の地名にまで漢字があてられているので把握するのが大変ったらない。路線図を睨みながらメモまで取ったりしている間も、バスは結構ひっきりなしにやって来る。バス横っちょに行き先を羅列した表示の中に「路環なんたら」の文字が垣間見えるのだが、この番号で大丈夫と確信持てるまでは絶対に慌てて乗り込んだりするものか!! さすがに学習する私なのだ。

ようやく路線ナンバーを把握したところに来たバスは、コミュニティバスのような小さな車体だった。小さいだけならともかくボロくて古い。おまけに混んでいる。ひとつだけ空いていた座席にヒナコを押し込めたが、私は立つしかない。いや、立つのは全然構わないのだけど(普通の大きさのバスならば)、天井が低いので首を曲げていなくてはならないし、つり革もなければ手すりもない、おまけに床は濡れて滑りやすいしで、エラく安定が悪い。この首を縮めた仁王立ち状態で踏ん張って財布の中から小銭を二人分探し出さなくてはならないのだ。

そんな私のつらい状況なんかにはお構いなしでチビボロバスは発車する。バス停を出るやいきなりロータリーを急カーブで大回り、そのままガタゴトと道路の凹凸をダイレクトに拾いながら揺れ弾むように海上に架かる2.5kmの橋に突入していく。いや〜ん、なんだってまたこんなスクワットみたいな姿勢で濡れる床の上で横揺れ縦揺れに耐えなきゃいけないの? 何かの罰ゲームですか、これ

>> おおむね世界中どこでもバスの運転は乱暴である。日本が異常〜〜〜に安全運転なのだ。マカオのは……日本よりはずいぶん乱暴もとい元気な運転であるが、世界レベルにおいてはおとなしい方ではないのかな。

橋を渡り切ったバスはタイパ島の新市街部をちまちまと停車していく。いわゆる新興住宅地的な地元の繁華街という風情だ。香港に匹敵する人口密度の高さを示すように、超高層アパートばかりが林立している。どの停留所でも必ず何人かの乗り降りがあって、ほどなく私も座席に座ることができた。
この路線はタイパ島で観光客が行きたがるエリアはスルーしていくようで、街中を抜けると広大な空き地の中を貫くような道に入って行く。ここが2つの島の間を埋め立てて造ったエリアなんだろうな。

だだっ広い空き地の先にラスベガス資本のカジノ・ホテル、ヴェネチアン・マカオ・リゾートが見えて来た。ヴェネチアの運河や街並などを模した、カジノからショッピングモールから全室スイートルームのホテルまでを広大な敷地に抱え込んだメガ・リゾート…らしい。正直言って、そういうの興味ないんだよね。だって、何度か現地で本物見てるのに、作り物のヴェネチア見たってしょうがないでしょ。時間があったら、話の種に立ち寄ってみるのも面白いと思ったが、ヒナコ連れでは時間は押して足りなくはなるが、余るなんてとんでもない。

バスは巨大なヴェネチアン・リゾートの敷地をぐるりと回りこんで走り、正面入口前のバス停に停まった。大きなモニター看板の立つメインゲートの下に運河(のようなもの)が横たわり、おそらく実物の半分以下サイズのリアルと橋(らしきもの)が架かり、ヴェネチア旧市街の街並(を模したもの)が連なり、実物の半分以下の高さのサン・マルコ寺院の大鐘楼がその奥に屹立している……という光景が短い停車時間に見て取れた。あっ、いいや、これだけで、お腹いっぱい(笑)。

亀のいるカフェで味わう絶品タルト

その後バスは、空き地の中の一本道を走っていく。建設途中の大型ホテルらしきものがいくつもある。さらにバスは、巨大な貯水池のようなものや工業団地のようなものの脇を抜けて走り、くねくね田舎道に突然集落っぽいものが現れたぞと思ったら、そこがコロアン村のバス停だった。ホテル・リスボア裏の広場からの所要時間は30分強というところか…。

>>バスはコロアン村が終点ではない。村の中心部を抜けるわけではなく、端っこをかすめ通って島の先っぽのビーチまで行ってしまうので、注意が必要。半島側へ帰るバス停はささやかなロータリーになった広場にあるが、半島側から来たバスは広場を通り越して左折し学校の前に停車する。

間違えることなく無事に下車できたのはよいのだが、バスに揺られている間に雨はどんどんひどくなっていて、降りた時はバケツをひっくり返したような土砂降りになっていた。勿論傘は持ってるけれど、100mほど手前の商店の軒先まで猛ダッシュ。駆け込もうとした軒先の隣の店が『ロードストーズ・ベーカリー・ガーデンカフェ』だったので、すぐさま入店。もともとロードストーズ・ベーカリーはカフェスペースを持たないベーカリーで、すぐ近くに別店舗の『ロードストーズ・カフェ』があるのだけど、2軒目のカフェとして割と最近この『ガーデンカフェ』もオープンさせたらしい。あくまで3軒ともコロアン村内で、ということなのね。

30〜40分かかってわざわざ来なくてはならない場所にあるにもかかわらず、とにかく人気の店だから、店内は観光客でいっぱい。そろそろ帰りたいなと思っていても、この降りを見ては出るのを躊躇して席を立てないでいるお客さんも何組かいるんじゃないのかな……?
とはいえ、さくっと見回してみた店内に空席はあるようだが、例によって室内は冷房ガンガン状態。
さらに見回してみると、奥のガラス扉から中庭に出られるようだ。ガーデンカフェを名乗るだけのことはある。今は大雨だからオープンエアの席は片付けてあるけれど、広い庇の下には4つほどテーブルがあって、お客も2組いる。あそこなら雨にも濡れないし、なんだか落ち着けそうだし(長居してても店員の視線浴びなくてすみそうだし?)冷房もきつくなさそうだ。

庇にあたる雨音が頭の上でちょっとばかり、いや、かなり賑やかではあるけれど、冷房でブルブル震えるよりは100倍マシなのでこの席に落ち着くことにした。カプチーノとエッグタルトをオーダー。
それにしても凄い降りだ。中庭のカフェスペースは50〜60坪くらいはありそう(隣の家との境界がよくわからないけど)。でも今はその中庭の真ん中には、積み上げられた椅子やテーブルをビニールシートで覆った塊がふたつみっつ、庭の草木や地面と一緒に、篠突く雨に激しく叩かれている。

特に何かを見つめるでもなくそんな光景をぼーっと眺めていると、降る雨の“激しい縦の動き”の中に、不思議な違和感を持つ“横の動き”を視界の中に感じた。「ん?」何かに焦点を合わせていなかった目を凝らしてみる。激しい雨が煙って霞んだ庭の一番奥の塀際、黒っぽい庭石のような植木鉢のような“何か”がゆっくり横切ったように見えたのだ。「ん?んん?」さらに凝視してみる。庭石のような“何か”には足が生えているように見える。…歩いてる? …意外にそのスピードは速い?? …か、亀???

いろいろな情報が矢継ぎ早に頭の中に飛び込んできて、まだ状況がよく呑み込めないのだが、そんなことにはお構いなしに亀はずんずんこちらに進んでくる。甲羅の長さは30cm以上はある、結構大きな亀だ。ちょっとした障害物などは屁とも思っていないようで、椅子の脚と壁との隙間を通り抜け(その隙間はちょっと狭かったのだが、なんとしても壁際に沿って歩きたかったようで、ガタガタ身体を揺らして椅子をずらしていった)その先にあった私の足の甲は踏みつけてゆき、そこで満足したのか私たちのテーブルの真下で歩みを止めた。

私の足の甲を踏み付けて乗り越えていった。障害物は物ともしない性格らしい

テーブルの下で立ち止まったままなので、正面から覗いてみる。ぺちゃんこで赤い鼻がぶさかわいい(?)

えーと、これは「飼い亀」?「野良亀」? この間、私たちはお口あんぐり状態で見ていたのだが、オーダーしたタルトとカプチーノを運んできたおばさんは亀にはこれっぽちも頓着していなかった。つまりは、別に珍しくもなんともないということである。「ウチのペットなの。可愛いでしょ?」「ああ、コイツ、ここに住み着いてるのよ、困ってるのよ」そのどちらの表情も浮かんではいなかった。微笑も苦笑も困惑もまったくなし。
亀は私たちのテーブル下にどっかりと腰を落ち着けて動かない。さっき足を踏みつけられたので、今度は私が甲羅を踏んでみた。足載せ台にちょうどいい高さだ。踵でゴンゴンと振動を与えてみると、ちょっと嫌そうに足をバタつかせたが、……動こうとしない。頭のほうから甲羅の中を覗き込んでみると、即座に首を縮める。なおも覗き込む。意外に可愛いふたつの目が甲羅の奥からこちらを見つめ返してくる。私が視線を外すとじわじわ首を出してくるのだが、また覗き込むとすぐさま引っ込む。臆病なんだか図々しいのか……よくわからない奴だわ。

しまった。亀にちょっかい出すのに夢中になってると、せっかくのタルトとカプチーノが冷めてしまうではないか! ビジュアル的には昨日の『マーガレット・カフェ・エ・ナタ』のタルトとそっくりで、とても美味しそう。ふわっと立ちのぼるバターの香りも、しっかり焦げ目のついたカスタード部分も。どれどれ?

まだふんわり温かいタルトは、ビジュアルを裏切らずにやっぱり美味だった。
「昨日のとどっちが美味しいかしらね?」
「昨日の店も美味しかったよね。……でも、こっちの方がどちらかというと好み、かなあ?」
「あ、そう? 私もそう思った! いや、どっちも美味しいけどさ」
「そ、どっちかというと、って感じね」
『マーガレット・カフェ・エ・ナタ』と『ロードストーズ・ベーカリー』、さすがマカオのエッグタルトの両横綱だけのことはある。納得、納得、満足。でも、わざわざ雨の中バスに乗って食べに来た店のほうが僅かに好み寄りの味ですごく報われた感じ。卵クリームの濃厚な美味しさはどっこいどっこいなのだけど、皮のさっくり度はこっちの店のほうが上な気がするのよね。

カスタードクリームは互角の美味しさだと思うけど、こっちの店の方が皮の口当たりが軽いかも。でも、僅差でしかない。どっちも美味しいよ〜

で、亀なんだが。
さくさくふんわり甘いタルトとカプチーノを味わっている私の足元で彼は、足も引っ込め首も半分引っ込め、ほとんど置物と化していた。ていうか……手足が完全に引っ込んで首というか鼻面だけがちょっろっと飛び出ている亀ってエラく間抜けだ。
雨脚は一向に弱まる気配を見せない。どうしよう、村を散策するどころじゃないなあと、ぼーっと中庭に目をやると……激しい雨の矢の向こうでまた庭石のようなものが動いた。えっ、だって、亀、ここにいるよね? 足元に“置物”はちゃんといる。もう一度庭を見る。庭石が動く、歩いている、えっ、こっちに来る……はい? これも亀ですか? えっ、ええっ、もう一匹??

亀2号は、遠慮がちに壁沿いに辿ってきた亀1号とは違い、いささかの迷いもなく一直線に庭を突き進んで私の足元にやって来た。首を縮めた亀1号にぴったり寄り添い、甲羅の中を覗きこむようにしている。
「何か話しかけているみたいね」
「立てこもり犯人に説得試みてるみたいでもあるけどね」
そんなこと言いながらしばらく見ていると……亀2号はいきなり亀1号に体当たりをくらわせたのである。そのままガツっドカっと亀2号は頭突きと体当たりを繰り返す。うわっ、何だ何なんだどうしたっていうのだ。しばらく横っちょからドカドカどつかれて亀1号もさすがにキレたようで、亀2号の真正面に向いて頭突きを返し、遂にガチンコ勝負がスタート。頭突きだけでなく、馬乗りにはなるわ、前足でビンタは張るわ、なかなか激しいバトルである。ひゃあ、亀の取っ組み合いって初めて見たわ〜。…それはとっても興味深く面白い見世物ではあるのだけど。わざわざこんな場所でバトルしてくれるもんだから、テーブルはゆさゆさしてコーヒーはこぼれそうになるし、足は踏まれるし蹴られるし。

じっと動かない亀1号に優しく話しかける亀2号

正面に向き合い突然始まるガチンコ勝負。危険なのでテーブルを少しずらす

15分近くそうやってドカドカガツガツやっていたが、突然、亀2号がいきなり戦意喪失したような感じでUターンして庭の奥に去って行った。こっちに来るのも一直線だったが、逃げ足も一直線で速い速い。亀1号は首を伸ばして亀2号の去った方向を見ている。靴先で甲羅を軽く突いてみると、慌てて首を引っ込め、恐る恐るという感じで小刻みに首を伸ばす。おい、さっきまでの勇ましさはどこいっちゃったんだよ?

亀に対しては勇猛だが、ニンゲンに対してはびくびく臆病、だったらわざわざニンゲンの足元に来なくてもねぇ……。亀1号は、しばらく首をこくこく動かして周辺を見回していたが、意を決したように立ち上がって庭奥へと帰って行った。
うーん、何だったんだ、いったい。

亀のバトルは終わったけれど、雨は相変わらず激しい。そろそろコロアン村散策に出たいところなんだけど、どうしたもんか。などと逡巡していると、庭の奥から再び亀1号がこちらにずんずんと向かってくるではないか。彼はまた私たちのテーブル下に落ち着いた。そして、ほどなく亀2号も再登場。そして再びどつき合い。いや、あのさー、どつき合いしようと取っ組み合いしようとアンタらの勝手だけどさー、どうしてわざわざ客席まで来るのさ。テラス席のテーブルだって4つもあるのにさ、どうして私たちの足元なわけさ。

土砂降りの庭を去ってゆく亀(ポインタを合わせると亀2号の姿を拡大します)。意外と足、速いんですね、亀

のどかな別天地(のはずだった)の村散策

滝のような激しい雨は、とりあえず我が家のバスルームのシャワー程度には弱まった。欲を言えば、もう少し小降りになっていただきたいのだが、エンドレスな亀バトルを見続けて時間をつぶしているわけにもいかないので、そろそろ村の散策に出るとしますかね。

カフェを出て、バス停のあるロータリーからクリーム色やペパーミントグリーンに塗られた洋館の角をまわって、水路の方に向かう。ニコタマあたりの多摩川より狭い川幅の対岸は、中国。この水路沿いの道がどうやらこの村のささやかなメインストリートらしい。漁村らしい船や魚モチーフの白黒モザイク石畳の歩道には所々にベンチが置かれていて、海風に吹かれながらのんびりそぞろ歩くのはさぞかし気分のよさそうな道。……ただし、晴れていれば、ね。雨の降りはたいしたものではないのだけど、とにかく風がめちゃくちゃ強いのだ。水路の方を向くと傘がひっくり返ってしまう。地形のせいもあるのか、風は多方向から渦巻くように吹いてくる。かといって傘がなくても我慢できるほど小降りでもないし。全然、対岸の景色なんて眺められやしない上に、まっすぐ歩くのさえ苦労するありさま。

水路沿いの遊歩道のモザイクは漁村らしいモチーフ

対岸の珠海(中国)がすぐ近くに見える木陰のベンチでひと休みするのも(晴れていれば)よさそうなのに

このメインストリートは十月初五街という名がついている。半島部にも同じ名前の通りがあった。そういえば、ポルトガルにはあちこちに10月5日通りというのがあったな(共和制樹立記念日らしい)。傘で巧みに雨風を避けつつ、恐らくはポルトガル由来の名を持つ通りを150mほどよろよろ進んでいくと、大きな菩提樹の樹が囲む小さな広場に出た。広場の奥には聖フランシスコ・ザビエル教会があり、教会の両サイドの回廊は全部レストランで、テーブル席が並んでいる。午後3時過ぎという中途半端な時間かつこんな悪天候にもかかわらず、数組の客がいた。(でも、ロードストーズ・カフェの大繁盛具合から考えればずーっと“閑散”としているか……)

まあ、ここは教会前の広場なわけだが、その奥の教会の姿の可愛らしいことといったら。こじんまりした大きさも可愛いのだけど、壁も半島部の教会のクリーム色より赤みを帯びた卵色で、なんだかオモチャみたい。てっぺんのちっちゃな鐘も可愛いし、円形の窓も鮮やかな青い扉も可愛い。そこにチャイナちっくな赤い提灯ときたもんだ。これがマッチしてるんだかミスマッチなんだか、いやもうそんなことは超越してしまったような不思議奇妙な雰囲気があって、そういうの全部ひっくるめて「や〜ん、なんか可愛〜いン」なのである。

さっそく足を踏み入れてみた教会の内部もとってもこじんまりとしていた。祭壇は澄み渡った青空の色に塗られ、ふわふわとした白い雲はキリストの姿をしている。そしてここにも小さな赤い提灯。見ようによっては稚拙ともいえそうな手作り感いっぱいの素朴で清楚な教会なのだが、地元の信者たちにとても愛され大切にされているのがヒシヒシと伝わってくる。横の小部屋には子供たちの描いたキリストさまの絵がピンナップされていたりするのだもの……。

ちっちゃな広場のちっちゃな教会。ちょっと見にはテーマパークか映画セットの中から運んできちゃったような非現実感がある

祭壇は鮮やかな青空の色

ちっちゃな鐘の下には漢字で「天主堂」とある。やはり漢字で書かれた垂れ幕には「世界和平」「上主慈愛」などのお言葉が

奉納された絵のようだが……天女の姿をした聖母子像というのは珍しい

お世辞に洗練されているとは言いがたいのだが、どこかホッとする雰囲気を持った教会を後にする。ホントはもう少し水路沿いの散歩道散策を続けるつもりだったのだが、傘も髪も服も引っかき回すあの雨混じり風にはすっかり辟易してしまい、入り組んだ路地の方に行ってみることにした。
水路沿いの道には比較的大きめの洋館が立ち並んでいたが、迷路のような路地には小さな家々が肩を寄せ合っている。でも、壁は明るい色彩に塗られ、窓辺には花が飾られ、街灯のデザインなんかもこ洒落た感じ。一見、南欧あたりの庶民的住宅街っぽくもありつつ、やはりあちこちにそこはかとなく漂うチャイニーズっぽさ。うんうん、結構いい感じじゃない?

鮮やかな色で壁を塗った小さな戸建ての家が多いコロアン村。土曜日の夕方近くのせいか、雨のせいか、ひっそりとしていた

閉店した飲食店の軒下で雨宿りしていたワンコ。ちょうど出かけようとしていたニャンコは、慌ててカメラを取り出しピントを合わせてシャッター切るまで目線を合わせてポージングしてくれた。なかなか美人猫である

路地の隅や家の横っちょには、色も形もてんでんバラバラな椅子が置かれている。半端になっちゃって捨てても構わないんだけど、まだ使えるしとりあえず、みたいなのが、あちこちに。晴れていたら住民たちがてんでに腰掛けて、お喋りの傍ら野菜の皮むきしたりお茶菓子つまんだり、洗濯物がヒラヒラはためいていたり、その周りをニャンコがうろうろしてたり……そんな光景がたやすく想像出来る風情なのだけど、今日はその椅子たちも空しく雨に打たれているばかり。生活感はちゃんとあるのに人の気配が少ないのは、土曜日というせいか、夕刻に近い時間のせいか、天候のせいか……。

弱くなってはきたけれど相変わらず雨はあがらず、気分もいっこうに盛り上がらない。水路沿いの遊歩道散策の続きをしようかとチラリと思わないでもなかったが、やっぱり引き上げることにした。多分、きっと、おそらく、のどかな空気の流れる村なんだろうと、思う。その30%も味わうことは出来なかった感じだが。でも、エッグタルトがとってもとっても美味しかったから、満足なのだ。

帰りのバスの乗り場は『ロードストーズ・ガーデン・カフェ』の真ん前にある。いや、停留所は道を挟んで真向かいなのだが、ちょうど曲がり角になっている場所なので、バスは停留所には横付けできず、ちょっと離れた道路の真ん中に停まる。乗客は自分の乗りたい番号のバスが来るとわらわらと駆け寄っていく……そういう仕組みらしい。交通量も少ないので別に危ないこともないけれど。来るのはコミュニティバスのようなちっちゃい車体だったが、帰りはきちんとデカイ車体で空席もあったので、罰ゲームのようにスクワット姿勢で横揺れ縦揺れに耐える必要はなかった。ちゃんと座席に座って眺めると、海の上の大橋を疾走するのはなかなか気分がいいではないか。半島のカジノホテル群の近未来的景観がぐぐぐーっと正面に迫ってくるのも、楽しい。

マカオ最後のディナーは、やっぱりウマウマ

しばしホテルで休息して晩ごはんを食べに出た。日はとっぷり暮れたけど、雨は完全にはあがっていない。傘さすと邪魔臭いんだけど、ないと濡れちゃうし、というスッキリしない状態のまんま。夜で雨だとヒナコには足場が悪いので、遠出せずホテルすぐ近くのレストランに行くことにし、『Solmar』というマカオ料理店の老舗を選んだ。ポルトガル料理と中華料理のいいところが合わさったマカオ料理というものがすっかり気に入ってしまったので。すぐそばの店だからって“間に合わせ”というわけではないのだ。

店名ははっきり明記してないのだけど、沢木耕太郎の『深夜特急』のマカオ編で、彼が食事した店がここなのではないかと思う。氏は短いマカオ滞在の中、ほとんどの時間をカジノで過ごすので、描写の大半が賭博のことばっかりなのだが、多少は食事などのことも書かれている。ホテル・リスボアからはほど近い場所だし、新馬路から南湾大馬路に入ってすぐのしっとり落ち着いた雰囲気の店という描写にも合致するし。彼があの旅に出たのは70年代の初めだったと思うけど、ここは1961年からここで営業しているとのことだし。

>> 話が「深夜特急」に飛んだついでなのだが、旅行から戻って読み返してみたところ、このマカオ編に出ていたマカオの地図が今と全然シルエットが違うので驚いた。まあ、東京湾なんぞも同じなんだと思うが、ウォーターフロントはガンガンに埋め立てられていて新しい建物や施設がゴンゴン出来ていて、海岸線のラインが丸っきり変わってしまっている。たった30数年で130%くらい面積が膨らまっている。(まあねえ、私だってねえ、130%くらいは軽〜く膨らまってるし、それも数年でさあ、シルエットなんかも違っちゃってるもんなあ……)

いや、飛び過ぎてしまった。もとい。
こじんまりとしているのではとの想像に反して、足を踏み入れた店内はかなり広かった。2階席もあるようだ。まだ時間が早めなので3〜4組しかいない。内装や家具などはちょっと古めかしい感じはするが、壁のタイル装飾がポルトガルっぽいし、清潔な白いテーブルクロスに一輪挿しの小さな薔薇が可愛らしい。さあ、マカオ最後のディナー、何を食べようかなぁ♪

サービス版プリントの写真を貼った手作り感いっぱいの分厚いメニューを繰ってみる。ポルトガル料理の定番もずいぶんあるみたい。ワインは思い出のマテウス・ロゼ(旅雀放浪記「葡萄牙巡遊記」参照)、前菜にはポルトガルでも気に入っていたカルド・ヴェルデとパシュティシュ・デ・バカリャウを選んでみた。
カルド・ヴェルデは、日本における豆腐とワカメの味噌汁くらいポピュラーでどこにでもあるスープで、ポテトスープに千切りのチリメンキャベツがどっさり入っていて、ヴェルデ(緑色)の名のとおりの鮮やかなグリーンをしている。ポルトガルではカフェオレボウルくらいの小さな器で出てくるけれど(1〜2ユーロと安いし)、ちゃんとスープ皿にたっぷりの量があった。薄切りのサラミソーセージがペランと浮いているのも、食べる直前にオリーブオイルをひと垂らしするのも、本家と同じ。ポテトスープの濃さもチリメンキャベツのしっかりした歯ごたえもよく似ていたが、ちょっと塩気がきつめかな?

かなりポルトガル本国のものに忠実なカルド・ヴェルデ。少ししょっぱかったのが残念

バカリャウのコロッケ。揚げ立てで美味しかった!

パシュティシュ・デ・バカリャウはポルトガルの国民的食材バカリャウ(干し鱈)のコロッケ。鱈の入ったコロッケというよりは、じゃがいもをつなぎにした魚のすり身揚げに近い。これはもう、文句なしに美味しかった! じゃがいもと戻した干し鱈との分量のバランスが絶妙。オリーブオイルでカリッと揚げられた香りと食感もGood、Good。うんうん、どちらもなかなか忠実な定番ポルトガル料理に仕上がっているではないの。これはメインディッシュにも期待持てそう。

野菜がどっさり食べたかったので、ベジタブルソテーなるものを頼んでいたのだが、これはポルトガル風でないことを願っていた。だって、ヨーロッパの温野菜って、クタクタ茹で過ぎ&油てろてろなことが多いんだもの。欲を言えばラタトゥイユですら、もう少しオイル控えめにして野菜に歯ごたえが欲しい。最悪なのは青菜関係で、“茹でた”ではなく“煮込んだ”色と食感なのだ。
で、カジノの街にふさわしく“賭け”だったのだが……出てきたベジタブルソテーは見た目は完璧に「野菜炒め」だった。そうそう、コレコレ! コレが食べたかったのよ、中華式の強火で手早くシャキッと炒めた野菜炒め。たっぷりのバターで炒めてあって、ほのかに白ワインの風味で、味は洋風、でも食感は中華。なかなかよろしいんではないでしょうか?

野菜の炒め加減はしゃっきり中華風、でもバターと白ワイン風味。いいところが合わさったお味

土鍋にたっぷり入ったチキンと野菜のカレー煮込みのオーブン焼き。

さてトリを飾る一品は、ポルトガルにはそんな料理は存在しない「ポルトガルチキン」という名のマカオ料理。早い話がチキンのカレー煮込みなわけだが。ニワトリ半羽とカレーお野菜オールスターズ(じゃがいも、人参、タマネギ)をたっぷりのカレーソースで煮込んだものを土鍋に入れて、茹で卵やスライスしたソーセージをトッピングして、粉チーズとパン粉をふってオーブンで軽く焼いたものだった。これが、美味しくないわけないでしょうが!

ココナッツとオリーブの風味のするカレーソースは、アフリカンチキンほどにはスパイシーではなく、日本のカレーライスのルーのような粘度があるが、チキンを骨ごと煮込んだだけあってコクと味の深みはさすがにばっちり。優しい味のカレーを装っているけれど、食べ続けているとじわじわじわ〜と辛くなってくる。ふむ、結構根性あるじゃないか、がっつりとスパイスが使われていると見た。うん、美味しい。美味しいよ。でも、また今晩も食べにくいものをオーダーしてしまったよ。自分が食べるだけならまだいいのだが、私はヒナコの分も取り分けてあげなくてはならないのだ……。最初の晩は大海老とチキン半羽骨つきソースまみれ、翌日は鳩丸ごと蟹丸ごとソースまみれ、そしてカレーまみれのチキン半羽骨つき……。毎晩の皿上解体ショーはなかなか大変なのだ。でもなあ、骨つき殻つきは段違いで旨味が違うもんなあ……。

骨つきカレーまみれチキンとの格闘も終え(勿論じゅうぶんに食べ尽くし)、達成感で心情的にも物理的にも大満腹して、食後のコーヒーをじっくり味わった。マカオはちゃんとダークなエスプレッソタイプのカフェが出てくるので嬉しい。同じようにヨーロッパの統治下にあっても、香港は英国の文化を持っているので、紅茶にはこだわりがあってもコーヒーが美味しくないのだ。コーヒー党の私には許せない点なのだ!
さて、それでは会計するかと明細をもらったが、すべて漢字オンリーの表記で、全然わからない。品数も合っていたし、368パタカとだいたい想像していた金額だったので素直に支払いを済ませ店から出かけたところ……レジにいた黒服の男性が慌てて追いかけてきた。他の客の明細を間違えて渡しちゃったとのことで、再計算してみると369パタカだった。1パタカしか違わない。12.5円。間違えられたままでいても全然実害のないレベルだった。

南湾湖噴水ショーはショボかった

若干早めに夕食を済ませたのはワケがあって。週末の20時半と21時半には、南湾湖で「光と音楽の噴水ショー」なるものがあるという情報を得ていたからであった。せっかくなので見てみたいと思うじゃない?

でも実は懸念もあったのである。マカオ政府観光局のウェブサイトからダウンロードしたPDFの観光案内書(48ページからなる非常〜〜に“使える”詳細ガイドブック)で拾った情報だったのだが、市販のガイドブックではほとんど欄外情報レベルの扱いだったのだ。写真も載っていないのは当然のこと、「こうこうこういうものがいついつあるよ」と、観光局から聞かされたものをそのまま書いた感じ。
とりあえず地図を見ると、湖の真ん中にポチッと点が打ってあって「音楽噴水」とある。ふむ、ここから噴水が出ることはわかった。でも「光と音楽のショー」というからには、観賞する場所が必要であろう。……そこはいずこ? それともジュネーヴの大噴水のように、巨大だというのか? もともとは湾だった場所を埋め立て地と道路で囲っただけの湖とはいえ、レマン湖に比べれば水たまりのようなサイズなのだろうが、それなりの大きさはあるのだ。ジュネーヴの大噴水だって、湖畔のどこからでも見えるわけでなし、まして音楽が湖畔じゅうに響き渡るんじゃあ騒々しくてかなわないではないか。絶対観賞場所があるはずなのだが、だからそこはどこなのだ。

ネットで「南湾湖 噴水」と検索しても、「見た」という紀行にはヒットしない。……これは、つまり、たいしたことないのではないか。それとも、日本のガイドブックに出ていないから日本人観光客は誰も行かず、旅行記の記録がないだけなのか。そういうわけで、ほとんど噴水ショーには期待を持たないまま、湖に沿って南湾大馬路を南下してみることにした。その大通りが一番「音楽噴水」の点に近いように思えたから。湖沿いの車道から一段下がったところがプロムナードになっていて、湖を挟んできんぴかネオンのカジノホテル群を眺められる。うんうん、これはこれで綺麗ではないの。

タイパ島に続く橋は、中央が山形に高くなっている。きらきらネオンも綺麗だが、ちょっと距離が遠いかな………

しばらくぶらぶら湖沿いを歩いていたが、他にそぞろ歩く人がほとんどいない。他の夜景ポイントでもそうだったが、日帰り観光客が帰ってしまいカジノの客は屋内に籠ってしまうマカオの夜の街中はかなり閑散としている。それをさしひいたとしても、週末のみのショーがあるというのに、この人の少なさ加減はどうなのだ? えーと、やっぱり、観賞ポイントは“あっち側”で、“こっち側”じゃなかったのかな……。

さらにしばらく歩いてみたが、そして20時40分になったが、「光と音楽の噴水ショー」など始まる気配は微塵もない。きんぴかネオンが映る夜の湖面も綺麗ではあるが、ちょっと距離が遠過ぎる。海上に緩やかな山形をして光の帯を延ばしている3本の大橋も、ちょっと遠くにあり過ぎる。プロムナードはぐるっと南湾湖を巡ってはいるが、一周するにはヒナコの足では時間がかかり過ぎる。とりあえず今は雨は上がっているが、午後からずっと降り続けだったので、気温は下がったまま。空気もじっとり湿った感じで、服や髪が変に湿っぽく身体が冷えてくるようで不快になってきた。じゃ、ホテルに戻るとするか。

プロムナードを戻りながら何気なく湖の方に目をやると……真ん中に浮かぶ小島のような辺りが霧か靄のように煙っていて、赤や青い色がチラチラしている。「んん?」とよーく目を凝らしてみると、白くモヤモヤした塊の中にささやかなレーザー光線がピコピコ動いている。よーーく耳をそばだててみると、かすかに「しょわしょわしょわ……」と水が流れるというか噴き出すような音も聞こえる。えー…と、もしかして、あれが「光と音楽の噴水ショー」ですか、そうですか?

中央にあるぼやっと白っぽいのが噴水ショーとおぼしきモノ

ウィン・ホテル横の南湾湖プロムナード(前々日撮影)。ここで見るのが正しいポジションだが、無理に観る必要なさそう

趣向としては、水を煙幕のように噴き出して、それをスクリーンにして動画のようなものを投影し、ぴぴぴっとレーザー光線で縁取る……といったもののようである。やっぱり、真裏に来てしまったようで、音楽なんぞは聴こえない。多分観賞スポットはカジノホテル群側のちょっと公園ぽい造りになっていた辺りだったんだろう。スピーカーもあっち側にあって、音楽もあっち側だけで鳴るんだろう。でも、反対方向に来てしまったことが全然残念でない。あまりにもその規模がショボ過ぎたから。あんなもんわざわざ見に行かなくてよかった。いや、見に来たんだけど(笑)。ウィン・ホテルの噴出口ごとうねうね踊る噴水の方がずっと規模も見ごたえもあるに違いない。

そういうわけで、食後のそぞろ歩きの目的は、「週末限定の噴水ショーを観る」ではなく「湖越しにカジノホテル群の夜景を眺める」であったことに脳内変換することにした。
明日はマカオ最後の日。予定していて行けていないところばかりなので早起きしなくては! とはいえ、冷蔵庫で美味しく冷えているライチは忘れずにしっかり食べる私。万歩計の数字は16702歩。タクシーやバスの移動が多かったり、長いことカフェに座っていたような気がしたのだけど、意外と歩数は多かった。

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