Le moineau 番外編 - すずめのポルトガル紀行 -

ポルトガル最後の朝

ポルトガルとも今日でお別れ。細々と「事件」はあったが、石畳と坂道にヤられる足腰ガタガタ度は他の国の何倍もでもあるが、それを差し引いてもかなり私の中では高評価の国である。予定していて諦めた場所もあるし、行っておきながら写真を失くした場所もあるし、何より食べ物が口に合うのだから、機会があったらぜひ再訪したい。

さて、せっかくパリ乗継の飛行機なので、どうせならとストップオーバーしてパリでの一日を楽しむことにしたのだ。リスボン〜パリの朝一番の便は7時台。パリに着いてからの時間は有効だろうけれど、それでは朝が慌ただしいので2本目の11:20の便を予約してある。翌日の帰国便は夜なので、今日の夕方から明日の夕方までたっぷり一日パリを楽しめるという寸法。

8時に朝食を摂りに行く。朝食堂は壁にアズレージョがあり、結構素敵な雰囲気だった。古くからあるホテルではあるんだろうな。
朝食の内容は最初から期待してないので、質素な最低限のものでも別にガッカリはしない。やっぱりハムもチーズも卵もヨーグルトもない。パックのクリームチーズとバターとジャム。オレンジジュースも相変わらず薄いし、コーヒーも不味くはないけど美味しくもない。今日はちょっとコーンフレークを取ってみたが、ミルクも薄いのであまり美味しくない。ま、いいや、急いで済ませなければならない時に豪華な朝食では時間がかかっていけないし。

ホテルのHPよりお借りした。壁にアズレージョと青を基調にしたカーテンやクロスが清潔な印象の食堂。食事の内容は寂しいものだってけど…

さっさとチェックアウトし、空港バスの停車するロシオ広場へ向かう。前日見つけておいた空港バスの標識前にしばらく立っていたのだが、車の走る方向が逆向きだ。んん?? 広場をくるっと回って走るのかな…? いや違う、標識にはAirport → City Centerと書いてあるではないか! そうなのよ、日本の左側通行の感覚で広場の反対側に立っていたのだ。まったくもう! 大荷物持って右往左往しないために前の晩に場所を確かめておいたのに! 馬鹿馬鹿!

ロシオ広場を通るバスの路線は10系統以上あるので、バス停も8つくらいある。渋谷のハチ公広場以上の広さなのだ、あんなに人は溢れていないけど。スーツケースをずるずる引きずって反対側に回り、City Center → Airportの標識を見つけた。やれやれ。バスはひっきりなしに通るが空港バスはなかなか来ない。バス停で待つ人々は順次乗り込んでいくが、スーツケースやボストンバックを持つ「明らかに空港へ向かうっぽい人たち」だけが残っている。バスの姿が見えるとみんなで亀のように首をのばして表示を確かめ、首を振ったり溜息をついたり…。

空港バスは20分間隔のはずだが25分待った。リスボンカードを買った時もらった小冊子に「空港バス57%オフ」のクーポンがついていたので、それを使う。空港までひとり€ 1.30。しかし何故50や60でなく57%…?

途中の停留所で客を拾いながら、20分ほどで空港に到着。出発便のボードを確かめていると、横で「エールフランス・パリ行き、これ、これだ」という日本語が。途中でバスに乗って来た日本人カップルだった。思わず「同じ便ですね」と声をかける。エールフランスのカウンターはガラ空きだった。カウンターに辿り着く前から係員が寄って来て、さっさと自動チェックイン機で済ませてくれた。うーん、Eチケットって楽なのねぇ。だからといって、自分で英語やフランス語の文章と格闘するのは御免だが。

パリに向かって

チェックイン後、X線の検査。海外旅行にブランクのあった2年ほどの間に国際線の荷物チェックが厳しくなり、成田出発の際は万全の体勢で臨んだのであるが、今日は欧州内の移動のため、国内線のようなつもりで気合いが入っていなかったのだ。昨今の飛行機では国内国際に関わらず、機内持ち込み品チェックはがっつりと厳しいのだった。私のトートバッグは全開オープンチェック。

化粧水やリキッドのファンデーションなどは勿論のこと、目薬や喉スプレーなど液体と名のつくものはきちんとビニール袋にまとめたのに。飲み残しのミネラルウォーターの存在を失念していた。
「飲み干すか捨てるかしなさい」半分ほど頑張ってみたが、断念。廃棄。
PCもわざわざ起動させられた。私のPCはパワーが弱いから時間かかるんだよ。
鞄の外ポケットから携帯目覚まし時計と携帯電話も引っぱり出され、別トレイに。ポケットのコインもつかみ出して別トレイに。
ジャケットを脱がされるのはいつものことだが、今回はベルトも首のストールも腕時計も外すことを要求された。靴まで脱がされた。
その後も全身くまなく触ってボディチェック。係官の手がジーンズのポケットで止まった。あっ、万歩計……。
「これは?」万歩計って英語で何て言うんだっけ?
「機械に通すけど、いい?」
かくして万歩計ひとつポツンとトレイに乗せられる。

私だけ、隅々までくまなくチェックされたのだが、ヒナコはまったくのスルーだった。何だっていうのだ。3つにもなってしまったトレイと電源の入っているPCと中身をかき回されたバッグ、ジャケットやベルトやストールを抱え、パスポートと搭乗券を口にくわえ、よろよろと身支度整え用のテーブルへ。テーブルの周りには、同様に身ぐるみ引き剥がされ手荷物ぐちゃぐちゃにかき回された人々が群がって身支度を整えていた。

朝のコーヒーが今イチだったのでカフェオレを飲み直したり、トイレに行ったりしているだけで、すぐ搭乗時刻になる。
せき立てられるように乗りこまされたのだが、なかなか離陸しない。何度かアナウンスが入って「セキュリティがどうしたのこうしたの」だの「あと10分くらい待て」だの言う。アテンダントが何度も乗客数のカウントをしている。結局離陸するまで40分近くかかった。眼下には、12日前の朝と同じくリスボンの市街地が広がる。今日の方が雲が多く霞んでいる。いいも〜ん、写真は来る時さんざん撮ったも〜んね〜。カメラはもう無いんだから、今日の方が晴れていても撮りようもないんだけど。

これは往路の飛行機で撮ったリスボン上空風景。この六角形の建物は何だろう?

きっかり30分遅れの15:00、機体はパリのCDG空港に着陸した。10年ぶりのパリ。たった一日だけだけど、雲は多いけれど晴れているし、心が弾む思い。まずカフェでお茶して、ぷらぷら散策して、ノートルダム寺院あたりでも行ってみようかな? 夕方のミサが見学出来るかも? 晩ご飯は食べてみたいモノがあるんだぁ〜。わくわくわく。

欧州内の便だから入国審査もすることなく、さっくりと荷物をピックアップ、バス乗場に向かうべくターミナルビルを一歩出るなり……。げ! さ、さ、寒い!!
パリは11月中旬にはもう初冬だからと覚悟はしていた。リスボンを出る時ちょっと暑かったけどタイツを穿き、下着もタンクトップからババシャツにパワーアップさせていた。首にも薄いものだけどストールも巻いていた。それでも革ジャケット1枚では寒い。中年になると寒いのコタえるのよ……。でも、モンパルナス駅までのバスは40〜50分くらいだし、ホテルは駅から5分くらいのところだし、あとちょっとの我慢我慢。いや、この時はちょっとの我慢どころか、過酷なパリ滞在の幕開けになるとは思いもしなかったのである。

CDG〜パリ市内は、成田〜都内よりも遠い!?

モンパルナス行きのバス停は長蛇の列だった。屋根はなく軒先だけなので吹きさらし。でも30分おきには来るはずだから、あとちょっとの辛抱だ。並ぼうとしていると、リスボンからの同じ便だった日本人カップルもやって来た。「あれ、またお会いしましたね」「そちらもモンパルナスまでですか?」「いえ、僕たちは電車に乗ろうとしたんですけど…」彼等は、とんでもなく有用な情報を携えてやって来たのだ。

「今さっきJTBのカウンターで聞いてきたんですけど、昨晩からパリのメトロがストライキだっていうんです。RER(パリ近郊線)も全線ストップしているとかで」
は? 何ですと?? 私は最初からモンパルナス行きの空港バスに乗るつもりだったから、トイレに寄るだけでまっすぐ乗場に来てしまったので、そんなこと知るヒマはなかった。「今日はとりあえず1番と4番と14番のメトロが間引き運転してるそうです。リヨン駅まで行って1番の地下鉄を使えと勧められて…」

しかし、行きはエールフランスの乗務員組合のストで、パリに着いたらメトロのストかよ。フランスやイタリアのストライキはしょっちゅうあるとは聞いていたが、何度も渡欧して遭遇したのは初めてのことだった。これまでが運がよかっただけかな。20分ほど待った頃、リヨン駅経由モンパルナス行きのバスが来た。他の乗場を経由してきているから、すでに満員に近い状態。案の定、14〜15人くらいしか乗せてもらえなかった。私たちの7〜8人前くらいで列が切られる。まだこれから30分は待つわけ? この寒空で? 私たちの後ろにも長蛇の列が出来ている。この調子では一番後ろの人は2本か3本先でないと乗れないのでは。

それにしても寒い。寒すぎる。並んでいる人たちも帽子やマフラーを取出したり、フードをかぶったり……。私の後ろのカップルの女の子はスカートにハイソックスで膝が寒そうで可哀想。いや、しかし、みんな辛抱強いのね、じっと待っている。せっかちな日本人の感覚では、バスを増発しろと大騒ぎになるよね、絶対。結局30分では次のバスは来ず、ようやく乗れた時は5時2〜3分前になっていた。並び始めて1時間半。必ず同じバスで空港に戻る確信があるので往復切符を購入。€ 22もした。片道だと€ 16。距離が倍以上とはいえ、リスボンの€ 3に比べ相当に高い。

やれやれと思ったのも束の間、パリまでは凄まじい渋滞だった。走り始めてすぐ、これまでポルトガルで見たどの日没よりも美しい夕焼けが車窓いっぱいに広がる。幾層にも重なった雲がオレンジやピンクに染まり、中央にホオズキの実のような太陽がゆらめき、天空の空は徐々に紫色を濃くしていく。刻々移り変わる夕暮れを楽しめたのはいいが、バスはじわじわとしか進まない。これじゃ市内に着く頃には暗くなっちゃうな、出来れば陽のあるうちに着きたかったし、着けると思ってたよ。

この渋滞のひどさもメトロやRERの運休と関係あったのだと思う。ようやく終点のモンパルナス駅に着いたのは7時を回っていた。3時に着陸して、1時間半バス待ちして、バス乗って2時間の合計4時間! 空港〜モンパルナス間のバスの所要時間は40〜50分のはずなのに、2時間! 首都の空港としては異常な遠さの成田空港からでも都内までこんなにかからないよ。痺れを切らしてタクシー乗っちゃおうかと思っていたが、あの渋滞では幾らかかったことか……。早まらないでよかった。

バス乗場で人柱になりそうなほど冷えきり、バス内では天井の送風孔の口が閉まらず冷風にさらされ続けて、私はチルド室の鶏肉のようになっていた。空港で行ってきたのに、またトイレに行きたい。でも、荷物持ってるし、とりあえずホテルにチェックインしなくちゃ。

モンパルナス駅前に屹立するモンパルナス・タワー。59階なので、サンシャイン60とほぼ同じ。有名デパートの『ギャラリー・ラファイエット』の支店が入っている

空港バスは大きなモンパルナス駅の西側の側面に停まるので、まず駅の正面までぐるっと回る。トイレ行きたいからスーツケースを引きずっていても早足だ。ポシェット1個しか持っていないヒナコは、座りっぱなしのバスで足が浮腫んで痛くて歩けないとかで、後ろをのこらのこら…。すぐ距離が開いてしまう。じたじた足を踏みながら彼女を待つ。さ、寒いんだってば! トイレ行きたいんだってば! 荷物が重いんだってば!!

ホテルのチェックインも軽〜く苦労

駅の真ん前には広場を挟んで、59階建てのモンパルナス・タワーが屹立している。予約したティモテル・モンパルナス Timhotel Montparnasse [>>WEB ]はタワーの東側に面している。暗くなっていたのが幸いし、ホテル看板のネオンが目立ってすぐ見つけることが出来た。が、駅前は車の通行量も多く立体交差になっていて、道のすぐ向こうにあるのにうまいこと進めない。信号のある横断歩道までぐるっとまわって階段を降りなくてはならなかった。最初は、やはり空港バスの停まる凱旋門の近くに宿を取ろうと考えたのだが、そっちは2〜3料金が高い。何日か滞在するならもっと安いエリアもあるが、たった一日では余分な移動に時間を費やしたくないので。とはいえ、ここはパリ。ポルトガルでは3星9000〜10000円で探せたが、ここでは2星でも15000円だ。勿論ディスカウント価格だが、今回の旅で一番高い。

駐)前にパリに来たのは10年も昔のこと。まだ通貨はフランだったし、円も強かった。私も会社員で、ボーナスたっぷりもらってた。シャンゼリゼ近くのそこそこ良いホテルに泊まったのだ(でも最高級ではない、やや高級寄りな程度)。泊まる気はないが、そこは幾らくらいかなーと調べてみたらツイン@450〜だって! はい、さよ〜なら〜〜

レセプションではちょうど日本人の女のコ3人連れがチェックインしているところだった。予約はしていなくて飛び込みだったみたい。あまり会話がスムーズではないようで、おまけに何度も間違い電話が続いていて、レセプションのオジさんはちょっとイラついているようだった。
早くトイレに行きたい私は、下半身もじもじさせつつも、一応平静を装ってにこやかに笑みを浮かべて立っていた。これって結構至難のワザなんだけど(笑)。

3人の女のコたちがもたもたとエレベーターの方向に消えたあと、オジさんは少しイラつきを目に残したまま私を促す。「チェックインお願いしま……」また電話が鳴った。「ちょっと待って」オジさんは電話に出る。「アロー、ティモテル・モンパルナス、ボンジュール」「マダム? ムッシュウ? なんたらかんたら」がちゃん。また鳴る。出る。短い応対後、切る。以下何回か繰返し……(笑)。
途中オジさんは、客商売としては明らかに大き過ぎる舌打ちもした。でも、フランス語でも怒ってる時ってちゃんと尖って乱暴になるのね。「ティモテル・モンパスナスッ、ボンジューッッ!!?」一度スピーカーをオンにして私たちにも聞かせた。どうも相手にはこちらの声が聞こえてないみたい。「アロー? アロー?」と繰返すばかり。叩き切る勢いも受話器が割れるんじゃないかという強さ。私の後に来た若い男性が肩を震わせて笑っている。私もトイレに行きたいっていうのに、なおさら身体が震えて困った(笑)。オジさんの顔だけが怒っている。

何とか私のチェックイン手続きを済ませてはくれたが、怒りの余波をくらったようで、カードに書いてくれたルームナンバーはすごい殴り書き。読めない。しつこく確認してエレベーターに向かったら「違う、別館だからそっち」と入口の外を示す。そーゆーことはちゃんと説明してくれなきゃわからないじゃないのよ。外に出て建物に沿って歩くと、つぶれたカフェを挟んでガラス戸があった。ホテルの朝食堂のようで、奥にエレベーターの扉が見える。が、鍵がかかっている。このガラス戸の開け方がわからない。落ち着いて見渡せば、ドア横にカードキーを通す溝が見つけられたのだけど、何しろトイレに行きたくてたまらない私は、足をじたばたさせている状態なので。

仕方ないので、オジさんに聞きに戻る。うーん、不機嫌な人にこんなくだらないコト聞くのヤだな、怒ってるのが可笑しくて笑っちゃったからな、私。
「あのー……ドアが開かないの」オジさんの目はまだ三角だ。カードキーの開け方がわからない客は多いからか、ここのホテルもレセプションのカウンターにドアノブの見本が置いてある。やれやれという顔でやり方を示そうとする。
「ううん、それは知ってます」
今度は私の手からカードキーをひったくってデータ入力をし直そうとする。
「いや、そうじゃなくて。玄関が……」
オジさんはああという顔で頷き、一緒に行ってやる、と言ってジャケットを羽織った。また電話が鳴っているので、ちょっと席はずしたくなったのかも。

オジさんは、軽くパニックしてた私が見つけられなかった溝に、キーを滑らしドアを開けてくれた。あっ、まだチェックイン時に伝えられるべきことを聞いていない。「あの、あの、朝食は何時から? ここで取るのでいいのね?」
「7時から10時。ここでね」最後にオジさんは初めてニコッと笑い、「ボンニュイ」と手を振った。あーよかった、私に対しては怒ってないや。でも、怒りのとばっちりはくらったよなぁ…。それはさておき、もう膀胱は限界状態。エレベーターの中でもじたじた足踏み、ヒナコが「後はやっておくから」と言ってくれたので、鍵を開けて荷物を運びこみもせず、電気もつけずにトイレに飛び込んだ。間に合った。

やれやれ、飛行機で2時間ちょっとの場所の移動なのに合計10時間以上かかるとは……。ベッドに倒れこむ。ヒナコは苦心してスーツケースを運び入れたようだ。あれ? トートバッグは?
「これしか預かってないわよ」とヒナコはパスポートの入ったポーチのみを見せる。嘘よ、私が肩に背負ってたトートがあるはずでしょうが!
扉を開けてみると、外廊下にトートバッグがでん!と置いてあった。おいおい…。
「そこ、うちの部屋じゃないの?」
外廊下だよッ! 財布とかパソコンとか入ってる鞄なんだよッ! 放り出しておくなよ、何が「後はまかせて」だよッ!

ガレットは美味しい!

もう8時に近い。カフェでのんびりお茶して、夕暮れ時のシテ島かサン・ジェルマン辺りをゆっくり散策して……なんて目論みも空しく、とっぷり暗い夕食の時間だ。でもね、何を食べるかはもう決めてるの♪ このモンパルナス駅界隈にはクレープの店がたくさん集まっている。日本でクレープというと、チョコレートやクリームを挟んだ甘いものだけど、ハムや野菜やチーズを入れた蕎麦粉のガレットと呼ばれるものは、充分食事になる。お好み焼きや蛸焼きみたいなB級フードだから、ガイドブックのグルメページにはあまり出てないけどね、でもさ、そういうモノって美味しいもんね。

とりあえず、今以上に重ね着しなくては外には出られない。タイツを穿いてはいるが、寝巻用のスパッツもその上に穿いた。セーターも薄手なので2枚重ねる。袖ぐりがモタモタするが、仕方ない。2枚のセーターの襟ぐりが合わないので、マフラーをくしゅくしゅに巻いて誤魔化した。ポルトガルの旅の間中スーツケースの肥やしとなっていた帽子と手袋も、やっと出番だ。ヒナコなど、汚れ物となった肌着3枚総動員、首筋もスカーフでがっちり防備。よし万全!

駅から1本入ったモンパルナス通りRue Monparnasseという小道には、クレープ屋が3分の2、タイ料理や日本の焼き鳥屋などが残りの3分の1、B級料理店が軒を連ねている。ネットの口コミで旨いと評判の『クレープリー・プティ・ジョスランCrêperie Le Petit Josselin』は、その小道の中ほどにあった。蕎麦粉のクレープは、前にパリに来た時にショッピングセンターか何かのフードコートでラタトゥイユをはさんだモノを食べて、美味しいなぁーと思い、ぜひまた食べたかったのだ。

註)ちなみに近くにモンパルナス大通りBd. du Monparnasseでという通りもあるので、ご注意。この周辺にクレープリーが集まっているのは、そもそもクレープがブルターニュ地方の郷土料理で、このモンパルナス駅がブルターニュ地方への玄関口であるから。東北新幹線のない時代、上野駅周辺にどこか東北の匂いがあったことと似ているかも

レースのハーフカーテンがかかったドアを開くと、蕎麦粉の焦げる香ばしい匂いが鼻をくすぐる。ランチの時間帯には行列が出来るらしい店だが、半分くらいの客の入りだった。でも、他の店は空いていたもんね、やっぱり人気店なんだわ。内装も可愛い。丸い電球にレースの布をかけただけのランプとか、テーブルの紙ナフキンの並べ方とか、店員が皆黒いタートルネックセーターなのとか、小さなことがいちいち小粋でお洒落。カジュアルな店なのに、こういうところが流石パリだなと思う。
店頭で焼いているのをチラリと見たら、クレープの直径は40cmはありそうだった。薄いとはいえ、具をはさまれたらひとり1枚は無理かも。

じっくり悩んで、ハムとチーズとキノコのガレット、チキンサラダ、シードル500ccをオーダーした。シードルは日本で瓶や缶で売ってるサイダー状のものではなく、どろっとしたリンゴのどぶろくみたいなお酒。テーブルに伏せてあった小さなお茶碗で飲む。お茶碗もピッチャーも可愛い手描きの絵のついた陶器だ。丸いお茶碗に注ぐと黄緑色で、何だか番茶みたい。甘くて飲みやすい。ちなみに、この可愛い手描きの陶器はカンペール焼きというらしい。



シードルは可愛いピッチャーに入れられて登場

「田舎風」な可愛い内装の店内。この照明が気に入った。レースの布がかけてあるの。「燃えたりしない?」と、ちと心配

サラダとガレットが出てきた。サラダは大皿に山盛りで、蒸した胸肉の薄切りが4枚も乗っている。ガレットは直径40cm以上のクレープ四折りだ。充分夕食になる量だった。
早速ガレットを一口。まずはじっこのカリカリに焦げている部分を。げ、美味しい! 私が前に美味しいと思ってたモノなんかお呼びでないって感じ。次に具のはさまっている部分を一口。うわわっ、美味しい!! 欠食児童のようにぱくぱく食べる。とはいえ、日本人の胃袋ならガレット半分サラダ半分でちょうどいい。

ひとつ置いたテーブルにティーンエージャーの女のコ2人がいたのだが、彼女たちはお喋りに夢中で、私たちより先に来ていたのにまだオーダーしていなかった。私たちのすぐ後にオーダーしたのだが、さっさとひとりで1枚ずつ平らげ、またメニューをもらって楽しそうに覗きこんでいる。この上チョコレートや蜂蜜やアイスクリームの甘いクレープを1枚食べるつもりなんだろうか。どういう胃袋してるんだろう? 私だって甘いのも食べてみたいけどさ、無理無理、絶〜対無理。

レシートを持ち帰るのを忘れてしまったのでウロ覚えだが、500ccのシードルとガレットひとつ、サラダひとつ、カフェ2杯で、€ 30弱だった。「ポルトガルで払ってきたのと同じくらい」と思った記憶があるから。ただ、かの国では一応レストランでのディナーだったが、これはお腹は膨れても所詮、軽食の範疇だ。ラーメンやうどんで夕食を済ませる感覚。そういう意味では、やはりパリの方が物価は断然高い。

芸術家たちの愛したカフェ

モンパルナス近くに宿を取ったのは、空港バスの便がいいこともあるが、過去のパリ滞在では主要観光スポットを廻るのが精一杯でちゃんと訪れていなかったこのエリアを見たいというのも理由であった。
59階もの高さのモンパルナス・タワーなど高層ビルの建つ商業エリアではあるが、かつて画家や文化人たちが集まり暮らした場所なのだ。そうしたインテリや芸術家たちが日がなたむろし議論をたたかわしてきたカフェが4つ、モンパルナス大通りのヴァヴァン交差点をはさんで向い合っている。集まった常連の画家たちはエコール・ド・パリと括られる人々──ピカソ、マチス、シャガール、ダリ──藤田嗣治も常連だった。コクトーやボーヴォワール、サルトルなども集ったという。たかがカフェ、されどカフェ、文化的遺産といってもよいと思う。

能書きをたれているが、結局はこの4軒のカフェのどれかでお茶してみたいというミーハー気分なわけだ。今クレープリーで食後のカフェ飲んじゃったけど、ここから5〜6分しか歩かないから、行ってみない? ヒナコも二つ返事で承諾。「旧き良き巴里らしい場所」──昭和ヒト桁世代の彼女にとって、この街はやはりかなり特別な場所なのだ。

駐)ミーハーな私は過去のパリ訪問で一通りの有名カフェでお茶してきた。シャンゼリゼの『フーケ』、サン・ジェルマンの『ドゥー・マゴ』『カフェ・ド・フロール』、オペラ座前の『カフェ・ド・ラ・ペ』、ボザール(国立美学校)そばの『ラ・パレット』、ルーヴル美術館の『ル・カフェ・マルリー』………名前がスラスラ出るところが自分でも呆れる。老舗レストランは敷居も高いしそうそう経済的にも許せない事情があるが、カフェなら気軽だもの。このモンパルナル地区の4軒だけが未訪だったのだ

『ラ・ロトンド』『ル・ドーム』『ラ・クーポール』『ル・セレクト』道路をはさんで4軒が華やかな灯りを点している。どこにしようかな……?
迷ったが、赤いテントがひときわ鮮やかな『ラ・ロトンドLa Rotonde [>>WEB ]』に入ることに。赤いテントってとてもとても「お仏蘭西」っぽい気がしたので。

店内も赤を基調としたものだった。それもかなり鮮やかな赤。にもかかわらず、シックで洗練された落ち着きを感じるのは、流石パリの「粋なセンス」に舌を巻く思いだ。壁にさり気なくクロッキー画なんかが掛けてあって、ほんのりライトアップされていたりする。遠目でよくわからないけど、あれはジャン・コクトーかピカソのスケッチ? ヒナコは「あぁ〜〜素敵〜〜」とうっとり。うん、この年代の特に女性のパリに対する憧憬はハンパではない。

やはりカフェの値段は少しお高めの€ 3。でもユーロ高の現在でも¥500しないわけだから、やはり気軽に入れる場所であるには違いない。ガラス越しに通りを行き交うクルマの灯りなどを眺めて、しばらくぼーっと過ごした。道を行く人々はかなりしっかりとした冬支度の装いだ。ここでは完璧に季節は冬になっていることをしみじみ実感。

お店のHPよりお借りした。赤いテントのカフェって、ホント巴里らしい〜〜

紙ナプキンには常連だった著名人たちのサインが。「Fujita」の文字もあった

店の真ん前にメトロのヴァヴァン駅の入口がある。階段を降りていく人があるので、ストの状況はどうなっているのか見に行ってみる。何か動いているみたいよ? たった一日しかないパリの休日を効率よく動くためにも地下鉄に止まっていられては困るのだ。ああ、よかった。さあ、今日はさっさと寝て、明日は早起きしてパリを歩こうね!

お風呂でまた軽くトラブル

パリのような宿泊費の高い場所での2星ホテルだから、部屋が狭いのは仕方ない。でも、ファブリックや壁にさり気なく掛けてある絵などが、どことなく洗練されて小粋である。残念なことに私たちの部屋はバスタブはなく、シャワーオンリーだった。たった一泊だから、そんなことは一向に構わないのだが……。

シャワーの水量は問題ない。お湯の温度も問題ない。
問題なのはシャワーブースの受け皿が浅いこと。それでもガンガン排水してくれるなら問題ない。お湯の出る量と排水していく量に著しく差があることが問題なのである。かくして、ものの2〜3分でバスルームは水浸しとなった。シャワーを細く細くして、しみったれた洗い方しか出来ない。それでも、下の受け皿の縁ギリギリまで溢れそうになる。ああ、景気よく浴びたいよお!
もうひとつ決定的な問題はシャワーカーテンが短すぎること。せめて台を被う長さがあれば、もう少しマシだろうに。

バスルームの床だけがピカピカに張り替えてある理由がわかった気がする。だけどさ、これは誰がどうやっても床に水は溢れるよ。それなのに床がフローリングってのは、耐久性に於いてかなり問題なのではないか? 無機質でなく暖かな印象にはなるけどね、傷むでしょ、やっぱ。大理石は無理でもタイルにするとか……ねえ?

バスルームは散々だが、このホテルでポイントが高いのは、T-falの湯沸かしポットが備え付けてあること。私が持って来ている携帯湯沸器は、セラミックの棒をコップに突っ込むタイプのもので、小さくて軽いのだが、お茶のお代りが欲しい時いちいち沸かさなくてはならないのが面倒。ポットにたっぷり沸かせて、しばらく保温しておけるのは大変にありがたい。日本茶のティーバッグが5つほど余っているので、使い切ってしまおう。濃いめのものがたっぷり飲めて嬉しかった。

今日は飛行機での移動日だったので歩数は少なく9781歩。でも、そのうち1000歩は空港のバス待ちで寒くて足踏みしていた分だと思う。


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