Le moineau 番外編 シチリア巡遊 - 海と岩とミクスチュア文明の島を歩く -

最初の宿泊地チェファルーにさようなら

4日めの朝の目覚めはまずまずだった。 1時間ごとの細切れ睡眠ではなく、ほぼ6時間ぐっすり眠れた。昨日は21時就寝だったので、まだ3時だけどね。4時間くらいズレてるけど、下手にイタリア時間に適応しても日本に戻ってからの時差修正が大変になるから、このままのズレで今後も過ごそうと思う。今日はチェファルーを発つ日なので、まずは荷造りをしなくちゃ。便秘問題はまだ30%くらいしか解決していないので、朝食前に時間はたっぷり必要なのだ。ハーブティ淹れて飲んだり、体操したりストレッチしたり、シャワーでお腹を温めたり。お腹の張りはだいぶやわらぎつつはあるものの、もっとしっかり腸のリズムを整えておきたいの。これが旅先でなければなあ……食物繊維摂りまくって、行きたい時にトイレに入れるんだけどなあ。

この日の朝食は屋上まで行かずに朝食室でサッとすませた。パンをトーストしてハムチーズのホットサンドを作ってみた。果物はないし、ヨーグルトは激甘だし、ジュースは紙パックのものだし、ラスクは湿気ってたけど、茹で卵はあったし、宿泊費を考えれば十分

出発の準備をすべて整えて、8時と同時に朝食。今朝も若い女の子が来ていた。昨日と一昨日とまた違う子。食事をすませて8時35分にチェックアウトした。オーナーやオーナー家族が直接対応しているところはおおむね親切な印象があるけれど、ここで担当するのはただの社員だから、鍵を受け取るだけで見送りもそっけなく、階段の荷物おろしも手伝わない。到着時も荷物手伝ってくれなかったっけ。だからといってどうこう言うつもりはないよ。だって宿泊費激安のB&Bだもん、そこまで期待しちゃ申し訳ない。

>> Booking com などの予約サイトのコメント欄でこうしたB&Bに対し「フロント常駐でない」「エレベーターがない」「朝食がショボイ、朝食時間が遅い」などのマイナス評価をつける人が洋の東西問わず結構いる。でもB&Bってそういうものだから! そういうのが嫌ならB&Bでなくホテルを選びなさいと言いたい。あるいは、B&Bでも高級なところはヘタな中級ホテルよりずっと丁寧におもてなししてくれるからね。もちろん値段も高級になるけど

日常が始動し始めているチェファルー旧市街を駅に向かって歩く。ところどころで漁師さんたちが魚介を売っている光景に出逢った。大々的に市場になっているわけではなく、小さな台車や手押し車(ネコ車)のようなものに魚や貝やイカなどを並べているだけ。漁村なのに魚市場がないなあと思っていたら、卸や仲買のワンクションはさまずに漁師さん自身が直売してくれるのね。きっと今朝揚がったばかりの新鮮なもので、とびきり安いに違いない。

あちこちで見受けられた街角の魚屋さん。これは朝の2〜3時間限定の光景なのね。シチリアでは魚を買いに行くのは男性の仕事なんだそうで、確かに群がっている客は杖をついたじいさんばかり。両手に杖のじいさんは、買った魚をどうやって持ち帰るつもりなのかしら?

昨日間違えてしまった旧市街分岐点の五叉路、今日はきちんと正しい方角に進めた。スーツケース持って2度間違えてたらアホだもんね。乗るつもりの列車は9:18だけど、余裕で8時55分に駅到着。待合室で座っている時、ちょっと鼻がムズムズっとして3回連続クシャミをしたら、向かい側のマダムが声をかけてくれた。聞き取れなかったけど、たぶん「お大事に」とかの意味合いの定型フレーズがあるみたい。返しフレーズはわからないので、とりあえずニッコリと目を合わせて「Grazie!」。

イタリア本土とを繋ぐ海峡の町メッシーナへ

これから向かうのは北東端の町メッシーナ。イタリア本土との距離はたった4.8km、本土の半島爪先の町レッジョ・ディ・カラブリアとは連絡船や列車ごと乗れるフェリーが結んでいる。パレルモ、カターニアに次いで3番目の大きな町で、空路を使わない場合のシチリアの玄関口ではあるけれど、何度も大地震に襲われているので歴史的建造物などはほとんど残っていない。なので、あまり観光客が宿泊する町ではないけれど、私はここに1泊する予定。目的はちゃ〜んとあるのよ(^^)

チェファルーからメッシーナまでは北側の海岸線に沿って走っていく。相変わらずも汚なすぎる窓ガラスの向こうには明媚な風景の連続

Barcelona!?? 何とシチリアにもバルセロナという町があるらしい。スペインのバルセロナと何か関係あるのかしら? 共通点は海に面していることくらいしか思い浮かばないけど……

チェファルーを発って約2時間、メッシーナ中央駅に着いて外に出たのは11時20分、予約のある Hotel La Residenza まで急ぐ。そう、今日はホテルに泊まるの。一泊しかしないところはB&Bやアパルトマンではなく、フロントが常駐しているホテルにするのが私の流儀なのだ。24時間程度の滞在なら鍵を持って頻繁に出入りする機会も少ないし、制限のあるチェックインやチェックアウトに振り回されて時間を無駄にしたくないし、荷物を預かってもらう必要もあるし。そんなことが理由かな。

駅からホテルまでの中間地点にあるカイローリ広場 Piazza Cairoli のトラム駅。広場の左右にそのままサン・マルティーノ大通り Viale San Martino がつながり、5〜6ブロックを占めるほどに大きく緑豊かで、噴水やベンチなども整えられていてちょっとした公園のよう

この町が最後に大地震と津波とで壊滅したのが20世紀初頭。なので、いわゆる "メッシーナ旧市街" というものは存在しない。特に駅前周辺は特徴の薄い碁盤の目の街並で道が覚えにくいったらない。だから、トラム駅のある大きなカイローリ広場はいい目印になる。
駅からホテルまでは、途中で地図をチェックしつつ荷物つきで小走り気味で15分程度だった。もちろんホテルだから扉も開いていてフロントスタッフもいて、まだ午前中だけどチェックイン手続きはしてもらえた。部屋は掃除が終わってないからとりあえず荷物は預かるから30分待ってとのこと。それなら14時頃に戻るから急がなくていいよと言い置き、タッチ&ゴーで外へとダッシュ!

期待していたからくり時計はちょっとガッカリ

急ぐ目的地はドゥオモ広場 Piazza del Duomo、なんとか10分で辿り着きたい。そう、一日一回正午のみ鐘楼 Campanileからくり時計 orologio が動くのよ! 明日は時間的に無理なので、今日のうちに見ておきたいの。GoogleMap にホテルから広場までのルートを打ち込むと徒歩9分と出た。Google 先生の示す到着時間は早めなので、かなりギリギリ。競歩さながらのスピードを保たなくてはいけない上、迷って時間をロスする余裕はいっさいないわ。間に合わないなら間に合わないで仕方ないけど……

初めての場所ではあったけど、新しく造り直した町であることが幸いした。道路が碁盤の目だから、方角さえきっちり確かめれば迷わずにすみ、車道と歩道もきっちり分かれているから小走りもしやすく、2分前に間に合った。
ドゥオモ広場じたいがかなり広く、その後ろには緑地公園のようなスペースもあり、すでにたくさんの人たちが陣取っている。こういう時ひとりというのは気軽で、ちょっとした隙間にスイっと入り込めるのよね。さすがにベンチは全部埋まってるから立ちっぱなしになるけど、鐘楼の真正面からは多少ズレているけど至近すぎず離れすぎずでもなく、さらに直射日光も避けられるという好ポジションがゲットできた。メッシーナの駅に着いてからわずか40分でもうここにいられるとは! この機動性はおひとりさま旅ならではのメリットだわ。無理に走らされたり、足手まといに思ったり思われたり、諦めさせたり諦めさせられたりで喧嘩になることもないし。

もともと1197年建造の大聖堂は、2度の地震でファサードが被害を受け、3度目の大地震で建物全体が崩壊、再建されるも第二次世界大戦の空襲で大部分が焼失してしまった。今ある建物は戦後に再建された新しいもの。広場にあるオリオンの泉 Fontana di Orione は修復シートでまるまる覆われていた。
鐘楼のからくり時計を見に人々が集まっている

鐘楼のからくり時計は曜日によって出てくる人形が違うらしい。今日は金曜なので「暁の女王ヴィーナス」の日

3つある正面入口の中央扉。再建されたファサードではあるけれど、オリジナルを踏襲している14〜16世紀のゴシック様式なのだとか。精緻な彫刻が美しい

正午になり、鐘が鳴り始めた。手持ち無沙汰で待っていた観客たちが一斉にどよめき半分近くの人たちがスマホやカメラを掲げる。

まず正午の鐘が12回鳴った。その後しばらく無音のまま空白時間が続く。故障してるんじゃないかと思い始める頃に、一番上のライオンの旗がぱたんぱたんと動いてるらしいと気づく。旗のぱたぱたが止まるとライオンが少し動き、咆哮する。音割れしまくっててまるで雷かと思ったわ。その後またしばらく無音で空白。続いてライオンの下の段のにわとりが動き、朝を告げる。これも音割れしまくってて怪鳥の雄叫びに聞こえる。そしてまたしばらく空白があり、音割れしているアヴェマリアのメロディーが流れ、三段目の人形がゆっくり回る。ただ回り続ける。たったこれだけのことが10分間。何か画期的や変化や動きが出てくるんじゃないかと期待するもの、それだけ。本当にそれだけ。とにかく、ナニコレ感が強かった。せめて音割れしないスピーカーを使った方がいいように思う。汗だくになって走ってまで見に来るほどのものではなかったかも……

私もみんなにならって動画を撮り始めていたけれど、あまりに動きが少ないのと途中途中間延びしてるので、手が疲れてやめてしまった。こんなことでバッテリー消耗させるのもね……。やっぱり撮り始めたものの途中でやめてる人が多かった。
私は一番最初に見たからくり人形がミュンヘンの新市庁舎のものだったので、その後どんなものを見てもそれと比較してしまうのよね。プラハの天文時計ですら「たいしたことないや……」と思ってしまったもの。ある意味、不幸ではある。やっぱり、からくりモノはドイツがすごいよ。

再建された堂内には精巧なプレゼピオの展示が

やや残念だったからくり時計のことはさておいて、昼休みまで20分ほどあるので大聖堂の内部見学してしまおう。

大戦後の再建とはいえ、ピカピカに新しいわけではなく、きちんと風格がある。床モザイクもちゃんとかつての様式を踏襲してあって美しい

天井には綺麗に彩色が施されていて、木製とは思えないほどに精緻で鮮やか。木の彩色は時間の経過でとことん古びちゃうので、再建したならではのメリットかな

主祭壇も14世紀の金地モザイクを再現したもの。そもそもモザイクじたいが褪色劣化しづらいものなので、やっぱり "再建しました感" が薄い

主祭壇左側の階段の蹴上にもモザイクが施してあって、新しい感じは否めないけど、ちょっと琴線に触れた

主祭壇右側の礼拝堂にもモザイクがある。これも再現なのかしら?

ところどころに古そうな柱が嵌っている。これは空襲で焼け残ったものを再利用したんだと思う

新しいかと思いきや、大聖堂内部は荘厳で重厚な風格があった。ファサードの印象に比べて意外に広く、奥行きがある。身廊通路の壁には歴代司教の墓や12使徒像などが並び、ずっと奥の正面に壮麗なバロックの主祭壇、さらにその奥に輝くモザイク装飾が見えている。つるんと滑らかに塗られた真っ白な漆喰壁にどうしても新しさを感じてしまうけど……

そこそこ荘厳な雰囲気の聖堂内部で、祭壇や彫像などを差し置いて人々の注目を浴びていたのは、オルガン横にひっそりと置かれたプレゼピオだった。キリスト降誕の場面を人形などでジオラマで表現したもので、イタリアではクリスマス前には町中がプレゼピオでいっぱいになる。イタリアのクリスマスの風物詩っていえば、クリスマスツリーやリースやイルミネーションより、断然プレゼピオ。で、その製作の本場がナポリ。ここに飾ってあるのもナポリの工房の作品らしかった。

幅2mくらいのガラスケース内のプレゼピオ。製作した Fratelli Capuano という工房のプレートには「1840〜」とあった。180年の歴史があるということか……

よく見るとキリスト降誕の場面は見当たらず、中世の時代の庶民の暮らしをジオラマにしたもののよう。でも、こんなに生き生きして精巧で美しいものはこれまで見たことがない

表情やライティングまで含めてひとつの "劇場" になっているのがすごい。ひとりひとりに物語が見えるようだわ

上の方に天使が降臨しているので、この下がもしや降誕の場? でも、一般的な厩の風景とは違うような……

堂内も堂々としたものだったけれど、隅っこにひっそりと置かれていたプレゼピオにすっかり心を持っていかれてしまったわ。同じような人が何人もいて、堂内見学そっちのけで、かぶりつきで写真や動画を撮っている。もちろん、私もね。
12時半に昼休みで追い出されるまで、ガラスに貼付いてなめるようにジオラマ世界を堪能した。あー満足した♥

昼食はアランチーノとカンノーロをリピート

さて、軽く昼食にしましょ。アランチーノとカンノーロをリピートするつもり。ドゥオモ広場からカイローリ広場のパステッチェリアまでは徒歩10分ほどだけど、途中で適当なバールに飛び込まざるを得なかった。トイレがねー、切羽詰まっちゃってねー(TT) こういう時はカウンターしかないような小さなバールが最適。たいていトイレはカウンターのすぐ横になっているので、注文してキュッと飲み干して、ついでのような顔して帰り際にトイレに立ち寄る。ホントはトイレのついでのカフェなんだけどね。
パレルモ駅のトイレは€1だったから、€0.8のカフェマッキャートでトイレ借りられるのはコスパとしてもいいわよね。

トイレすませてホッとして、ようやく道中の街並を見ながら歩く心の余裕が出てきた。メッシーナ市街ではオレンジの樹が街路樹になっている。まだ緑色の実が多いけれど、そろそろ黄色くなり始めてるな。私の大好きなブラッドオレンジの旬はまだ先だけど。

心の余裕が出てきていたつもりだったけど、目的の店《Pasticceria Irrera 1910》ではなく、一区画隣の《Bar Santoro Messina》という店に入ってしまった。あれ、間違っちゃった?と気づいた時にはカウンターの向こうのシニョリーナに「ボンジョルノ」と微笑まれていた。まあ、いいや、ケースの中にはアランチーノが見えるし、ケーキ類もいっぱい並んでるからカンノーロもあるよね。初志貫徹でアランチーノとビール、カンノーロを注文。アランチーノは3〜4種類あったけど、基本のラグーソースにする。いろんなお店の味を食べ比べてみたいからね。

2日続けてランチにアランチーノ。ビールはメッシーナの地ビールで、1929年からと歴史のあるものみたい。麦の味がしてスッキリと飲みやすく、昼間から揚げ物に合わせるにはぴったり

このお店ではお米はサフランライス、野菜とひき肉とチーズ、角切りのハムみたいなものも入ってる

ここも注文してからクリームを詰めてくれるカンノーロ。昨日の店よりリコッタクリームの甘さは控えめ、両側にクランチピスタチオがまぶされていて、皮は薄めでサクッとしていた

アランチーノもカンノーロもどちらも昨日までの味とは違っていた。でもどちらも美味しかった。これはあちこちで食べ比べる意味ありそう、シチリア滞在中ずっと楽しめそうだわ。お値段は合計で€12。ちょっと高め? ビールが高めなのかな、座ったからかな。

ホテルと約束した14時まではまだ時間があるので、明日のバス移動のために切符売場と乗場の場所を確かめに行くことにした。メッシーナのバスターミナルは鉄道駅前のレプブリカ広場 Piazza Repubblica にある。広場に面した目立つ位置に SAIS 社のオフィスがあり、奥まった目立たないところに Interbus 社のオフィスがあった。私が使う予定なのは Interbus 社の方。そもそもシーズンオフでタオルミーナへの便は少なく、さらに明日は土曜なので本数も減るらしいことは、ネットで時刻表は確かめてある。さらに念を入れるのは鉄則なので、窓口に確認に行くと、ネットで調べたものと同じだった。12:40発のものが都合よさそうなので今のうちに買っておこう。ところが返って来た答えは「明日の切符は明日買え」だった。はあっ? 今日買っちゃダメなの??

切符は買えなかったけど場所も時刻も確かめられたし、14時までの時間つぶしは出来た。ホテルに戻って預け荷物を返してもらい、いったん部屋に落ち着く。

スタンダードのダブルルームをシングルユースしたはずだったけど、かなり広いのでデラックスルームをアサインされたみたい。なぜか小さなキッチンまでついている。到着の晩に簡易湯沸かし器が壊れてしまったのでお湯が沸かせるのはありがたいわ

この宿は「ホテル」ではなく「レジデンスホテル」というカテゴリーらしく、フロントスタッフは24時間常駐ではなく夜から早朝までは玄関扉が閉まる。宿泊者はカードキーのセンサーで開け閉めできるし、インターフォンを通じて隣の建物にいるスタッフに連絡もとれるとのこと。建物や設備は古いけど、水回りは新しく整えられてて清潔なので何も問題ない。朝食つきの宿泊費は€50、Booking com の即時決済割引がきいて€45.50。駅やバスターミナルからは徒歩10〜15分、トラム乗場に近く、ドゥオモ広場までも徒歩10分、コスパはバッチリ。

メッシーナ訪問で一番目的の州立博物館へ、いざ!

30分ほど休憩して外に出た。もたもたしてるとすぐ夕暮れになっちゃうもの。メッシーナにわざわざ宿泊したのは、これから行くメッシーナ州立博物館 Museo Regionale di Messina でカラヴァッジョを見るためなのだ! 博物館は町の北の外れにあるけれど、中心部からはトラムで1本。というわけでトラム駅のあるカイローリ広場に近いというのメリットが生きてくるわけね。

広場の売店で€1.20の切符をとりあえず2枚買い、駅で待つ。左側通行の日本の感覚でうっかり反対方向の乗場に立ってしまって1本乗り過ごしてしまうのは、いつもの旅の初っぱなあるある(^^;)
10分から15分おきに頻発しているトラムだけど、座れない程度にはそこそこ混んでいた。海峡の海岸線に沿って北上していくルートなので、立ったままの方がしっかり海の景色が眺められていいわ。

州立博物館入口。トラム終点の駅名が「museo」だけど、入口まではぐるっと塀伝いに戻ってこなくてはならない。ひとつ手前の駅からでも同じくらいの距離だし、その方が入口表示が見つけやすいかも?

門をくぐってからも延々と建物に沿って庭を歩く。途中にはギリシャ時代からの出土品がゴロゴロと雨ざらしになっている

トラム終点の museo 駅は確かに博物館の側にあり、道路の向こう側にはそれらしき建物が見えている。ただし、博物館の広大な敷地の一番奥に位置していて、入口は一番手前側という……もう、なんなのよ! 外塀に沿ってぐるりと戻って門をくぐり、かといってここに切符売場はなく守衛さんしかいない。そして建物の入口は奥側にあるので塀の内側をまた逆にという具合にジグザグ歩かされる。

建物に入るとチケットオフィスというか、ブックショップというか、職員たちの詰所というか、ラウンジというか、ゆったりとした空間がある。どうやらそこにウロウロしている10人くらいの人たちはみんなここのスタッフのようなのだった。客は……今の段階では私ひとりみたい。
チケットは€8だけど「1枚€1だ、ついでにどうか?」と、所蔵されている2枚のカラヴァッジョの絵はがきを出される。ハッキリ言って版ズレして発色も酷い印刷の絵はがきなんて要らないんだけどねー、チップ代わりということで€10札からのお釣りはもらわずにカードを受け取った。そしたら、別のスタッフが「これもどうだ、これは?」と他の絵はがきを出してくる。担当の絵柄があるのかな? でもカラヴァッジョだけでいいわ。

ここは考古学博物館や絵画館などメッシーナ州の文化と芸術すべてが合わさっているらしく、とにかく広大。コーナーは13にも分かれているとかで「こっちに進んで、あっちまで行ったらこう戻って、それからあっちへぐるっと回って、最後にここに戻るんだよ」という、非常にざっくりした順路説明をされて館内に送り出された。

いつの時代にどこにあったモザイクなのかわからないけれど、こんなに接近して見られるのはよいですね(^^)

ちょっとおとぼけ顔のイエス。モザイクだと表情がコミカルになるような気がする

墳墓の遺跡? まずはグラウンドレベルから見学し、さらに順路を回っていくうちに上から見下ろせる位置に出るようになっていた

ここの一番の見どころといわれる絵画館エリア。行けども行けども絵が続くが、お客さんが私以外にひとりもいない

カラヴァッジョと双璧の目玉のひとつ、この町出身の巨匠アントネッロ・ダ・メッシーナの『聖グレゴリオの多翼祭壇画』は小部屋のように囲われた独立した1コーナーにあった。木板に描かれてあちこちが剥落しているのに、マリアや聖人の表情は修復されてもいるのかとても繊細で美しい

ネットゥーノ広場にあるネプチューン像のオリジナルもここにある。"貫一お宮" 的なアングルで撮ってみたよ〜

目玉の2点のカラヴァッジョ作品は、明らかに別格な特別室のようなコーナーにあった。左が『ラザロの復活』、右が『羊飼いの礼拝』。眼光鋭い監視員の視線を背中にビシバシ感じながらも30cmの至近距離まで近づいてかぶりつきで見ることが出来る

2点のカラヴァッジョ作品の前に立つ。3年前にシラクーサのサンタ・ルチア・アッラ・バディア教会の『聖ルチアの埋葬』を見ているので、これでシチリアにある3点のカラヴァッジョ作品はコンプリートしたことになる。これを描いた翌年、彼は亡くなるのだ。カラヴァッジョの特徴的などこか背徳感すら感じる官能的な匂いは薄れ、厳かで静謐な雰囲気が漂っている。

客が誰もいないことをいいことに、離れたり近寄ったりまた離れたり、心ゆくまでカラヴァッジョ世界を堪能した……したかった。作品を守るためだろうけど、いかんせん部屋が暗すぎるのよ! ただでさえ暗い絵なので、離れてしまうと何が何だかわからない。大きな絵なので、近寄ってしまうと全体像がつかめない。離れたり近寄ったり繰り返したのはそういうジレンマもあった。

>> 『ラザロの復活』の方はあまり心に響かない気がしたのは、これは保管状態が劣悪で何度も修復されたためにカラヴァッジョ自身の筆致ではなくなってしまってるかららしい。フラッシュを焚いて撮影することは許されなくても今のデジタルカメラのイメージセンサーは優秀なので、撮れた画像が暗くてもフォトショップでレベル補正してかなり本来の色調が取り戻せる。そこで初めて「うおー、こんな色とタッチだったんだ!」と気づけた次第。至近距離で肉眼で見た意味ない〜〜〜

銀や真鍮の細工もの、タペストリー、ゴージャスな装飾の施された馬車とか椅子とか、なんでもあり

先史時代の発掘品や陶器などを見ながらスロープの回廊を巡り終えるとエントランスロビーに戻ってくる仕組み

博物館はとにかく広い広い。そしてガラガラ。"貫一お宮" のネプチューン像のあたりでおじさんのお客さんを見かけたけど、後はいっさい誰にも出会わずだった。私とおじさん2人だけの客に対し、職員は20人以上いるわけで。エントランスのロビーにも10人くらいいたけど、残りの人たちは展示室のあちこちに散らばっていて、私を見ると「おっ、客が来た♥」という感じで10歩離れた後ろからずーっとついてくる。彼らに監視されていると「ちゃんと鑑賞してあげなくちゃなあ」という気持ちになって、必要以上に丁寧に見てしまう。なので一巡して戻ってきた時には精神的に消耗してへとへとになっちゃった。

海峡ごしにイタリア本土カラブリアと対面。猫の大集団にも対面

すっかり消耗して美術館を出たのは16時半。モタモタしているとすぐに日が落ちてしまうので、まずはトラム駅に急ぐ。今度は終点ひとつ手前の Ringo まで。門から距離的にはどちらからでも同じくらいだけど、あまり人が歩くことを想定してないのか歩道整備がされてなくて、脇をクルマがびゅんびゅん走るのがちょっと怖いかも。
停留所に着いて時刻表を見たらまだ20分近く先だった。夕方はトラムの本数も徐々に減ってくるらしい。

トラムの Ringo 駅前から砂浜におりられた。本土のカラブリア半島はすぐ目の前で海峡というよりはまるで川みたい。最短距離はわずか3kmほどだそうで、この砂浜のあたりはかなり近いんじゃないかと思う

しばし砂浜で海峡を眺め、トラムに乗って3つほど先の Alighieri で途中下車。GoogleMap を見たら海沿いに公園のようなものがあったので、海峡と対岸と港を眺めるのによさそうと思えたのよね。

町の中心部よりやや北側の海峡に沿った特に名もなき緑地公園。あ、シチリア名物たむろす親父たちがいる、釣りしてる人がいる、もちろん近くに猫がいる

猫がいる、あれもう一匹いる、あれれもう一匹、二匹、三匹、もっといる、すごくいる……!

全部で15匹以上いたと思うけれど、広角レンズを使っても1枚の写真には収められない。なぜかこのコは近寄ってきて目の前に座り「ニャア」と挨拶してくれた(^^)

柵に沿って等間隔で箱座りする猫たち。このコたちはみんな野良なんだろうか、似てるコが多いので血縁関係にあるんだろうか?

夕暮れの海峡を眺めるつもりが猫たちばかりを撮影することになってしまった。とっぷりと暗くなってきたけれど、おじちゃんたちはいつまで佇んでいるんだろう? 「何もせずただそこに集まっているだけ」というのは、猫たちとシチリアのおじちゃんたちと共通しているような気がする

公園から車道をはさんで反対側にはネットゥーノ広場とネットゥーノの泉 Fontana di Nettuno。このネプチューン像は州立博物館にあったもののレプリカ

のんびりと港に沿って散策するには暗くなり過ぎ、ライトアップされた金色の聖女マリア像 Madonnina del Porto di Messina の煌めきを楽しむには暗さが足りない

夕暮れを楽しめるわけでもなく、夜景を楽しめるわけでもない、なんとも中途半端な時間だわ。それに肌寒くなってきた。ネットゥーノ広場と港とをそれぞれ遠目に一瞥して写真だけ撮ってから、ちょうど来たトラムに乗ってしまった。切符は90分有効なのでさっき刻印したもので大丈夫なはず。

カイローリ広場で降り、スーパーマッケットを探し出して、ミネラルウォーターと無糖のヨーグルトなどを買い込んだ。そうなの、書き控えていたけど便秘問題はまだ完全解消はしていないの。便秘薬を服用しているから突然「トイレ行きたい〜〜」となり、途中でトイレが見つかれば駆け込み、見つからなければバールに駆け込みしてなんとか対処している。私の腸リズムはヨーグルトの大量摂取でかなり整うのだけど、宿の朝食で準備されているものはクソ甘いので、たくさん食べることが叶わないんだもん。

ディナーは地元民御用達トラットリアで

夜は、メッシーナ在住の人たちに人気の《Trattoria Al Padrino》という店に行くつもり。客単価も低いアジア人のおばちゃんひとり客としては、20時の開店早々に行かなくちゃ。あまり観光客のことを考えていないこの店はちょっとわかりにくい場所にあり、店構えも地味で素っ気ない。ちょっと迷って20時を10分ほど過ぎてしまったら、狭い店内にはすでに数組の客がいて、あっというまに半分以上が埋まってしまった。3卓並べてセッティングしてあるのは予約席ね、きっと。

この店はその日の水揚げによってメニューが変わるようで、みんな口頭で説明されたりケース内の魚を見せられたりしている。メニュー表にも「魚料理」とか「パスタ魚」とかしかない。前菜には「田舎風前菜盛り合わせ」と「魚の前菜盛り合わせ」しかない。店のオリジナリティがありそうな「田舎風」の方を選ぶ。
今日はプリモはパス、メインはもちろん魚。でもイタリア語で魚の名前言われてもわからないので、聞き取れた「カラマリ」にした。イカなら間違いなく美味しいものね。続けて「リピエーニでいいか?」と言われてキョトンとしてると、冷蔵ケースの前まで手招きされ、丸々と詰め物して下ごしらえされたイカを見せてくれた。おお、詰め物をリピエーニというのか! うんうん、それ!

前菜盛り合わせの、これがまあ、美味しいこと! ブリュスケッタ、ピスタチオ入りサラミ、薄切り茄子で魚卵を巻いたもの、チーズと野菜のペーストを薄切りズッキーニで巻いたもの、卵とポテトと野菜を練って揚げたもの、魚のコロッケ……などなど。量も適正でいいわ(^^)

イカの詰め物はトマトソース煮などで出てくるかと思ったら、シンプルにグリルしただけだった。中身はリコッタチーズとパン粉を練ったもののようで、みじん切りのゲソも混ざってて、こんなの美味しいに決まってる !!!

生野菜を追加し、ワインもお替わりしちゃう。まさかこんなトマトがイタリアで出てくるとは思わなかったけど……

サービスのミニカンノーロはトッピングもなくシンプルなもの。エスプレッソは使い捨てのプラカップで出てきた

店の雰囲気は地元の大衆食堂そのものだった。店の男性は英語はいっさいダメだけど、何でも現物を見せてくれる。白ワインを頼むとボトルを見せ、サラダのオイルとビネガーもラベルを見せに持ってくる。まあ、1種類しか見せてくれないので否も応もなしなんだけどさ。
前菜も詰め物焼きイカもとても美味しい。サラダは……まあ普通。それにしてもヒトはどうしてイカに何か詰めたくなってしまうのかしら。イタリア語がもっと達者だったら「日本にもイカ飯ってものがあってね……」とお伝えしたいところ。誰かすでにお伝えしてるかもね。

21時を過ぎる頃には常連ぽい人々が続々と現れて、予約らしき10数人のテーブルも埋まり賑わいは最高潮。私はエスプレッソもらってとっとと〆る。だって入口で待ってる人が3組もいるんだもん。前菜とメインとサラダとワイン2杯にカフェで合計€25ナリ。ごちそうさまでした!

本日の歩数は19047歩。2万歩に届かなかったけど、列車移動が2時間あったからね。




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