Le moineau 番外編

ボヘミア街道の珠玉の街を行く

久し振りで涼しい朝を迎えた。昨日の雨で、連日の暑さも一段落したということか…。

今日は一泊分の荷物だけ持って、最近、人気急上昇中の世界遺産の町、南ボヘミアのチェスキー・クルムロフへ行く。“世界で最も美しい町”の冠をつけられている。そう呼ばれる町は、私の知ってるだけでも10以上ある気もするが(笑)
さすがに4日目ともなると、組み合わせのバリエーションも尽きた感のある朝食をサクっと済ませ、チェックアウト。スーツケースをフロントで預かってもらう。ポーターなどいない小さなホテルなのだが、カフェのトイレの奥に倉庫があり、そこを開けて荷物を入れてくれる。鞄1個20コルナ、ジャケット10コルナの料金表が貼ってあった。¥100に満たない金額だけど、キチンとお金を払ったことで逆に安心した気分。

パソコンと洗面道具、下着の替えだけ入れたショルダーバッグひとつで、地下鉄駅へと歩く途中、ふいにヒナコが言う。
「あー、私、今すべてを理解したぁ!」え?え?何?? よくよく聞いてみると……

つまりは昨日の親子喧嘩の発端──
一泊分の荷物を作ること、翌日翌々日も一泊が続くため(乾くのに時間のかかるものの洗濯が出来ない)洗濯済の下着や服を残しておかなくてはならないこと、そういった諸々のことが、何度説明しても図解まで書いても彼女に把握してもらえなかった。別に、私が把握してれば構わなかったのだけど、聞かれるからそのたびに答えていたワケで…。
私は同じことを何度も説明するのにホトホト嫌気がさし、ヒナコはヒナコで、年寄りはいかに何も出来ないかを主張しまくり(何かしてもらおうと思ってなかったのだが)、結果、喧嘩へと発展していったのである。

その荷造りのからくりが、大荷物を手放し一泊荷物だけになった今、目からウロコが落ちるように理解出来たと言うんである。……どどーんと脱力感。たいして重くない鞄のストラップが、ずしんと肩に食い込むような気分。
うー…ん、ヒナコよ、理解してくれたのはありがたいが……遅いよ。アナタが把握するのを待ってたら、荷物は作れないしホテルは出られないし列車は行っちゃうよ。
さらにヒナコは言う。「どうして、こんなことがわからなかったのかしらねぇ?」
それを知りたいのは私の方。私の困惑と苦労がいかなものだったか、わかってくれた?

理解したことでウキウキするヒナコを連れ、脱力しながらも9時ちょうどにプラハ本駅に到着。9:23発の列車はもう入線している。
プラハからチェスキー・クルムロフに行くには、列車を使うにしろ長距離バスを使うにしろ、一度チェスケー・ブディェョヴィッツェという町まで行かなくてはならない。せっかくなので、この町も駆け足で観光するつもり。

で、この「チェスキー・クルムロフ」と「チェスケー・ブディェョヴィッツェ」。ヒナコはどうしても覚えられない。覚える以前に、言えない。
「さあ、今日はどこに行くのかなぁ? 言ってごら〜ん?」
「チェ…なんとか」
「チェスケー・ブディェョヴィッツェ。『チェスケー』『ブ』『ディ』『ェョ』『ヴィッ』『ツェ』。ほれ、言ってみ?」
「チェ…チェス……???」年寄りをおちょくる私。ヒナコが完全に自分の非を認めたので、安心して心置きなくおちょくれるんである。

ちなみにチェコ語の発音だが、日本人には真似しやすいと思う。母音の「a」「i」「e」「o」が日本語に似ているの。「u」はちょっと唇を突き出す感じ。あまり強弱に差がないので、英語やイタリア語なんかに比べ平坦な印象だし、聞いたままをオウム返しにすれば、だいたいその通り。列車で同席したチェコ人女性に教わった挨拶一式は、私のカタカナ書きメモのまま読んで問題なく通じた。
聞いたものを真似するのは簡単だが、問題は「読めない」こと。スラヴ語系は、英語やドイツ語やラテン系の言葉とはまったく違う読みをするので。文法にいたっては、ちんぷんかんぷん。固有名詞すら、続く文章次第で語尾が変わっちゃうんで。
まあ、チェコ語を使うのは挨拶と地名くらいだけなんだけどね。

6人がけのコンパートメントには、私たちの他に若い女性と中年女性ひとりずつと男性二人連れがいた。
この男性たち、ひとりは相撲取り並みの巨体、もうひとりは2メートル近い長身。横に広いヒトと縦に長いヒトが隣に座っていると、えもいわれぬ圧迫感がある。彼等が2つめの駅で降り、女性たちも順次降りていくと…後はもう私たち親子の貸切状態。

列車は、緑豊かなボヘミアの大地をひた走る。
菜の花のような黄色い一面。点在するポピーの赤。遠くに見える民家の屋根。さらに向こうに霞む山の緩やかな稜線。語彙が貧困で申し訳ないが…美しいこと美しいこと!
ヒナコは3人分の座席に足を投げ出して、丹念に足裏マッサージをしている。その後立ち上がって、右に左に綺麗な景色の側に行ったり来たり。鼻歌まじりでワルツみたいなステップまで踏んでやがる。思わず口に出た。
「…楽しそうだねぇ」
私たち母娘は終わったことはとっとと忘れる鳥頭タイプなので、昨日の喧嘩なんてもう遠い過去のことなのよね。

正午をちょっと回った頃、定刻より10分くらい遅れて終点のチェスケー・ブディェョヴィッツェ本駅に到着。
プラハ〜チェスケー・ブディェョヴィッツェの列車料金は250コルナなり。2時間半も乗る距離で¥1000ちょっと。つくづく日本の交通費は異常に高いと感じる。

チェコで最も美しい城、フルボカーへ

まず、郊外のフルボカー城 Zámek Hluboká に行くつもり。
城に行くのも、夕方チェスキー・クルムロフに向かうのも、バスを使う予定なので、まずはバスターミナルへ。鉄道駅とバスターミナルは、地下道でつながっていた。
一泊分の荷物とはいえパソコンまで入っているから、コレを持って観光するのはちとツラい。荷物預り所の料金は、鞄一個10コルナ! 安ッ。

バスの時刻表は、ものすごーくわかりづらかった。普通、縦軸が1時間刻みになっていて、横に分が書いてあるでしょ? 何だかダイヤグラムみたいな表みたいなグラフみたいな紙が、縦にした筒に貼られていて、これをくるくる回して見るのだ。そういう筒が路線別に何本か並んでいる。古いものの上に新しいものがベタベタ貼られて、またその貼り方がいい加減で、剥がれてたり破れてたり。「毎日運行」「土日運休」「何月何日から何日まで」みたいな注釈も全部チェコ語。えー、チェコの方々はこの時刻表、使いやすいんでしょうか…? 疑問です。

こんなわかんないモノ見て悩んでいても仕方ないので、インフォメーションに行って聞いてしまう。行き先を告げると、次の時刻と発着番線を書いたメモをくれる。これが一番てっとり早いわね。次のバスは10分後、29番の乗場から。いやぁ、ちっこいバスターミナルかと思ってたら、建物の裏には発着番線が30以上並ぶ乗場が広がっていたんである。

註)ちなみにフルボカーへは列車でも行けるらしい。でも、本数が少ない上、乗車時間は10分程度だけど降りてから1時間近くかかって「山越え」しなくちゃならないらしい。バスで行くのを断然おすすめ!

切符は運転手から直接買う。14コルナ。何が楽って、乗る時に切符が買えること。イタリアでは、乗る前に切符入手するのに苦労したもん。行き先を運転手に告げてれば、降車場所を教えてもらえる強みもあるし。
目的地へは30分もかからなかった。7〜8組の観光客が降りる。ゾロゾロと彼等についていくと、川向こうの森から白い城の塔が突き出しているのが見えてきた。あれかー……。当然のことだが高い場所である。…また登るのね(嘆息)。

カルルシュテイン城に向かう道ほどたくさんはないが、このフルボカー城への登城道にも何軒かのレルトランが連なっている。レストランが途切れた先からは、森の中に一直線に坂道が続いている。ちょうど1時だし、ちょっと昼食兼休憩しておくか。

道の脇から階段を降りたところに、大きな樹の下に気持ちよさそうなテラス席のある店があり、迷わずそこに入る。他に誰も客はいなかったが、お店のお姉さん(ちょっとトウのたった…でも美人)は、とっても感じのいい人だった。

見た目は「何じゃコレ」だが、マッシュしたじゃがいもを焼いたもの。ハーブやミンチ肉を少し混ぜて、ハッシュドポテトほど芋の食感がないもの…ってところか。表面がカリカリでなかなか美味しい。ランチには手頃な一品かと

何てことのない普通のミックスサラダだが、パフェ風に可愛く盛り付けられてくると、何だか新鮮

ポテト・パンケーキとサラダひとつずつを二人で半分こ。あとビールとガス入り水で、合計118コルナ。ひとり¥250だ。日本じゃファーストフードのセットメニューも食べられない値段である。ドイツからチェコのプラハに入って「ずいぶん安いなー」と感じ、下町っぽい店で「もっと安いなー」と思い、郊外のクトナー・ホラの店で「もっともっと安い〜」と驚いた。で、ここまで来たら、クトナー・ホラのさらに半額である。大食漢でも¥1000分食べ切れるかどうか?

大満足で店を出、再び坂道を登り始める。歩く人はまばら。上から5人連れの家族が下りてくる。90歳近いのではないかというくらいのお婆さんを真ん中に、5人横つながり。ほとんどお婆さんはぶら下げられているって感じ。それでも全員がお婆さんの歩調に合わせて、ゆっくりゆっくり歩いている。この光景に、ヒナコはいたく感じ入っていた。
「幸せなことよねぇ……あのくらい足腰立たないくらいになっても、家族がみんなして、ああして楽しませてあげるのねぇ……」
おい。私も連れて来てあげてるだろが! そりゃあ、私ひとりでは両脇から抱えることは出来ないから、自分で歩いてもらってるけどさ。クルマ運転出来ないから、公共交通しか使えないけどさ。だけど荷物だって、ひとつも持たせてないじゃん! お煎餅や味噌汁まで持って(私も食べてるけど)。バスルームの使いにくいところではシャンプーまでしてあげてさ! 横でぶつぶつ言う私の言葉が聞こえてるかどうかは知らないが。

坂道の脇にはかつての城壁らしきものが連なり、その下には川の流れや山の稜線や点在する民家などの美しい光景が広がっているのだろうが、木立が邪魔をして見えない。時々、木々の隙間から「よさそうな景色」が垣間見られるだけである。

隙間から覗く「よさそうな景色」。川がある! 赤い屋根の民家がある! 森がある! 霞む山の稜線もある! こんなに絵になる要素が揃っているというのに…

最後の急坂を登り切ると、城と間違えてしまいそうなゴージャスな建物がある。ん? 写真で見たのと違うゾ? …と思ったら、それはホテルであった。その横の路地みたいなところを曲がると、いきなりもう城の庭園。城門も地味。ホテルの門の方が立派だったぞ? 庭園の真ん中にイギリス風・チューダーゴシック様式の白亜の城が「どすん」と鎮座していた。

この城も、内部はガイドツアーで見学する。まっすぐ切符売場に行ったが、次のツアーは50分も先だった。今日は英語のガイドもドイツ語のガイドも不在なので、チェコ語ガイドのみ。90コルナ。ツアー開始まで庭園を散策して城の外観をじっくり見ておこう。

登城道は閑散としていたが、庭園内にはそれなりにたくさんの人たちがいた。小学生くらいの遠足のようなグループもいる。どこの国でも一緒だが、子供たちが大量に集まれば賑やかな…もとい、騒々しいことこの上ない。
城の外観は、ぱっと見の姿は美しいのだけど、じっくり見ると、なんとなく安っぽい感じがしなくもない。歴史の重みがなくて「昨日今日建ちました」という雰囲気。白い壁のせいだろうか。遊園地の作り物のような印象を受けるのだ。TDLのシンデレラ城みたいというか…。

そういうわけで、外観を眺めるのにも、すぐ飽きた。高台のはずなんだが、景色を見下ろせる展望ポイントみたいなものもない。木の上から雀たちの声がする。今日も朝食の余ったパン(意図的に余らせたパン)を持っている。少し撒いてみるが、このへんの雀たちは人慣れしていないのか全然近寄って来てくれない。つまんない、やーめた! 側で食べる姿見せてくれなきゃ、私は不満なの!

今日はピーカン青空ではないが、暑くないのが救い。シャツ1枚が気持ちいい温度だし、木陰のベンチに座るとさらにもう1枚羽織ってもいいような気持ちになる。そうこうしているうちにツアーの時間が来た。

「わたしは『お城』でーす。綺麗でしょ?」と主張するフルボカー城の外観。庭園もイギリス風に整えられている

門の扉の取っ手は、鳥に額を突かれている禿げ髭じじいの首。何を意図してこのデザインに? 疑問だ

購入したパンフレットからスキャン。鹿の角で作られた椅子がずらりと並ぶ部屋。尻部分には毛皮が敷いてあるが、背もたれや肘掛け部分は、身体を預けると痛そうである。ちなみにテーブルの脚も鹿の角

外観の安っぽさに比べ、内部の装飾や家具は、なかなかに豪華で美しい。それも決してケバケバしいわけではない。ドイツのノイシュヴァンシュタイン城なんて全くその逆で、清楚端麗な外観のクセに中は成り金趣味的金ピカてんこ盛りだったんだから…! これは多分、外部の改装を100年以内にやってるんだな。

註)後で調べたら、フルボカー城自体の歴史はかなり古いようだが、19世紀に入ってから外観のみ現在の様式に大改装したらしい

黒大理石の巨大マントルピースのある居間や、ステンドグラスと木目込みの壁が美しい読書室、鹿の角で作られた椅子(狩りの成果か?)がズラリと並ぶサロン、小さなチャペルや人形劇の劇場まで──どれもこれも美しく立派なのだが…。チェコ語のガイドでは、もう金輪際何にもピタ一言もわからん!のである。時々「フルボカー」とか「ボヘミア」と聞き取れるだけ。
ヒナコは、例え日本語でガイドされてもロクに聞き取れなかったりするので、英語でもチェコ語でも構わないんだろうけど。でも私は、御馳走を見ただけで食べる前に下げられちゃった気分。内部の撮影はいっさい禁止だったこともあるので、帰りに売店で英語のパンフレットを購入。

ブディェョヴィッツェ旧市街を駆け足で

往復に50分、ちんたら坂道を登り、食事まで取ってしまい、ツアーの始まるのを50分も待って、そのツアーも1時間。12時半にバスターミナルを出たのだが、戻ったらもう4時半を回っていた。
チェスケー・ブディェョヴィッツェの旧市街観光…どうしよう? ヒナコは「お城見たからどうでもいい」とか言う。何でどうでもいいかというと、彼女にこの町の予備知識がないからである。旅行前、イメージトレーニングと予習用に何冊か本を渡しておくのだが、老眼だから字の多い本はダメなんである。私が付箋をつけてあげたページの写真だけ見て、うっとり楽しみにしているだけ。なので『るるぶ』などで取り上げない小さい町の事前知識は彼女の頭には入っていないのであった。

荷物預けの窓口は何時までだろ? 有人窓口だから閉まってしまったら荷物が出せない。今晩歯ブラシひとつ持たないまま泊まらなくてはならなくなる。
窓口の脇に貼紙がしてあり、9時から19時とある。鵜呑みにすると危険な気がして、係員のおじさんに尋ねてみた。おじさんは英語が全然出来なかった。でも何とか意図はわかってくれたようで、指を出し「シックス…シックス…」えー、6時までなら18時じゃん。聞いてよかったぁ! つーか、19時とか書いた貼紙は剥がしておいてくれる?

バスターミナルから旧市街までは徒歩10分。旧市街エリアも直径400メートル程度の狭さだ。よし! 1時間だけだけど、せっかくだから旧市街をぐるっと見て来よう!
荷物預り所のおじさんに「後で来るね」と言い残し、ヒナコに可能な限りの足早で旧市街へ向かう。

チェスケー・ブディェョヴィッツェの旧市街は、緑の公園とヴルタヴァ川の支流とにぐるりと取り囲まれた、小さいけれど端整で落ち着いた気持ちのいい町並。突然視界が開けたと思うと、プジェミスル・オタカル2世広場 námesti Premysla Otakara II だった。
直径が400メートルしかない町の中心部で、この正方形の広場は一辺が133メートルもある。中央の噴水はチェコ最大級らしく、廻りにずらっとベンチが並べられている。広場を取り巻くのは、綺麗なアーケードを持った色とりどりの美しい建物たち。

広場を取り囲むのはパステルカラーの建物群。それにしても広いこと! 真ん中に見える噴水は、正方形の広場のド中心に鎮座してるのである。町の直径はこの広場一辺の3〜4倍程度しかないのに

建物は全部一階部分がアーケードになっている。3つの塔のある青い建物が市庁舎。町の規模にあった控え目な大きさだけど外観は可憐。観光インフォメーションもここにある

プラハでも、クトナー・ホラでも、ここチェスケー・ブディェョヴィッツェでも感じたことだが、チェコの旧市街の町並には可憐な美しさがある。窓辺に花の鉢植えを置くような習慣はあまりないようだが、建物の壁が様々な色合いのパステルカラーなので、彩りは豊かでいて派手派手しくはない。「飾らない素朴な美人」という感じ。

広場の中でもひときわ目立つ市庁舎 Radnice の脇を入ると、塩の門 Solné Braány という名の門があり、その先の川に木造の橋が架かっている。何とも風情ある景色なのだが……昨日までの暑さのせいか、川が干上がっている。川面に美しい建物や木々の緑が映るさまを絵にしたかったのに! 茶色いドロドロの真ん中に澱んだ水がたまっているだけ。

もう少し時間があれば、綺麗な広場を空から堪能できる塔に登るか、地ビールのブドヴァルでもゆっくり味わうかしたいところだけど、我慢我慢。半日で一巡出来る規模の町だけど、一泊してゆったり過ごすのも気分よさそう。観光観光していない長閑さもあるし。きっとレストランも安いだろうし、居心地よさそうな中級ホテルも何軒か見かけた。パックツアーなら仕方ないけど、個人旅なら、チェスキー・クルムロフ「だけ」ではなく、チェスケー・ブディェョヴィッツェの町にも足をのばすコト、私はおすすめ。だって必ず経由するんだから。

さあ、バスターミナルへ戻らねば。旧市街を囲む緑地帯を出ると、広い歩行者専用道があり、カフェやブティックが立ち並んでいる。ブティックのディスプレイのセンスは、ちょっと…いや、かなり野暮ったいな。イタリアやフランスのセンスのよさは、もう民族的にDNAに刷り込まれているとしか思えない。ドイツなどは几帳面な緻密さと、クリスマスマーケットなどで見られる可憐さがあるし。

歩行者道には街路樹とベンチなどもあり、途中には大きなデパートもある。デパートとスーパーマーケットの中間くらいか。アイスクリームやホットドッグの屋台も並び………。
そう! 木が多くてクルマが通らなくてヒトがたくさん飲み食いの食べカスを落とす場所。で、夕刻近く。案の定、雀たちがてんこ盛りで生息してたんである。パンはまだ残ってる。でも時間があんまりない。ゆっくり雀たちと遊べない。不本意であるが、一気に千切って大量バラ撒きと相成った。
だって、決めてたんだもん。旅行中、我が家近所の雀たちに餌を出してあげられないから、こっちのコたちにいっぱい餌あげよう…って。

南ボヘミアの宝石、チェスキー・クルムロフ

バスターミナルに戻ったのは6時15分前。ヒナコ連れでは、ギリギリの時間設定では予定が組めない。「急げぇ!」が出来ないからね。「先行って荷物出してるよ。切符買ってるよ」も出来ない。なんせホテル内でも、ひとりで部屋に帰れないんだからね。
荷物を取り戻してから、かったるい時刻表は見ずに直接インフォメーションで次のチェスキー・クルムロフ行きの時刻と発着番線を教えてもらう。渡してくれるメモはコピーの反古紙を小さく切ったもの。エコロジカルである。情報漏洩の可能性もあるけどね(笑)

次のバスまでまだ40分もある。トイレにでも行っておこう。トイレに行く時は、私がまず先発隊として行く。行きたくなくてもヒナコが行きたい場合は、私がまず行く。美術館などのずらっと個室が並んでいるトイレならいいが、カフェやレストランなどでは地下や奥などわかりにくい場所にあることが多いし、こういう公共の場所のトイレは有料なことが多いので値段を確かめてこなくちゃならないからね。鍵のかかり具合や、千差万別な水を流す装置についても一言報告しなくてはならない。

で、バスターミナルのトイレは有料だった。といっても5コルナぽっち。入口でオバさんにコインを渡すとトイレットペーパーの切れ端─足りなさそうなくらいちょびっと─をくれる、ヨーロッパではお馴染みの公衆トイレ。
戻って、ヒナコに報告。個室の中では特筆すべきもない装置なので、コインを渡して彼女を行かせた。しばらくして困惑しながら戻って来た。
「オバさんじゃない。若い男のコがいるのよぉ」
えー、じゃ6時で交代したんじゃないのぉ? で、男のコだから何か問題が?
「だって、気になって入れないわよぉ」
えー、入ってないんですか? 今までトイレの外で悩んでたわけ? 入口に係員がいるったって、ずーっと手前じゃない。奥の通路の先で男女に分かれて、個室はさらにその先だよ。
「でもぉ…」
70ン歳にもなって何言ってるんだか。いや、昭和ヒトケタ世代の持つ奥床しさってヤツか? でもこの場では、その奥床しさも単に鬱陶しいだけである。係員の交代までは面倒見切れないよ。イヤなら行かなくてもいいけどね、まだこれからバスに40〜50分乗るよ。その後、地図を頼りにホテル探すんだよ。迷って時間かかるかもね。
ヒナコはしばらく考えていたが、結局トイレへ行った。なんだ、行くんじゃん。
「顔も見なかったわ。事務的で」
当たり前だよ。

乗場にやって来たバスはプラハ発のものだったようで、今晩チェスキー・クルムロフ泊まりの観光客で満杯。離ればなれになるが、空席を見つけて座る。急行だったようで30分ちょっとでチェスキー・クルムロフに着いた。28コルナ。まったくもってチェコの交通費は安い。

田舎町のターミナル〜〜って感じの素朴なバスターミナル。遠くにチェスキー・クルムロフ城の塔が顔をのぞかせている。着いた時には気がつかなかった

バスターミナルの前にはなーんにもない。ターミナルの建物すらない。足がつってしまいそうな急坂をヨロヨロ下り、谷と川に抱かれた中世そのままの町並が眼下に広がる。道なりに進むと、もう旧市街入口。月並な表現で申し訳ないが、そりゃあもう、感動的に美しい光景だ。でも、もう7時半なんだよ。とっくりじっくり見るのは明日にして、ホテルにチェックインしちゃわなくちゃ。

今夜の宿は、中心のスヴォルノスティ広場 námesti Svornosti に面したホテル・ズラティー・アンジェル Hotel Zlaty Andel
実はこのホテル、プラハ市内の旅行代理店のHPから予約したのだが、ちょっとばかりすったもんだしたんである。料金やロケーションを検討して申込んだところ、「部屋は用意できる。2900コルナである。OKならカード番号と有効期限を教えろ」とのメールが2〜3時間後に届いた。「OKである。予約を頼む。以下カードの情報である」と返すと、約半日後(多分、チェコが夜だったんだと思うけど)「ごめんなさい。不可能になった。3400コルナの部屋が用意できるが、どうするか?」
お互い英語は母国語ではないから、スペルミスがあったり、そっけない言い回しだったりして、意味を把握するのが大変なのだ。

「頼んだホテルはいっぱいなのか? その3400コルナの部屋というのは、同じホテルか? 違うホテルか? 私は町の中心部の宿を望んでいる」「部屋はいろいろ用意できる。もっと高い方がいいか? 予算を知らせろ」……なんだか話が微妙に噛み合っていない(笑)。まあ、中心部の小綺麗な宿であれば別にこのホテルじゃなくていいのだ。とことん安宿に切り詰めたいわけではないが、無駄に高い必要もない…というのが本意だが、そんなニュアンスの英文は書けない。

「予算の上限は3500コルナである。ホテルのロケーションは私たちにとって重要である。ばっちりの宿を紹介してくれ」「おお! それなら3400コルナでホテル・ズラティー・アンジェルのスイートが用意出来る」……そうか、最初に言ってきた3400コルナというのは同じホテルのもっといい部屋のことだったか! 500コルナのアップだが、¥2000程度でスイートになるのね。「その部屋を頼む。予約確認書を送ってくれ。いろいろ親切にありがとう」ようやく予約成立だぁ!……と思ったのも束の間。
「あなたのカードが拒絶された。正しい情報か別のカードを知らせろ」はあ? よくよく読み返したら、私がカード番号をタイプし間違えていたのである。

「手間をかけて申し訳ない。新しいカード情報である」と返すと、ほどなくして「予約は成立した。チェコの旅を楽しんでくれ」と、バウチャーがPDFファイルで添付されてきた。これをプリントしていけばいいのだ。ファイルを開けてみると2900コルナと書かれている。再び、はあ?である。やっぱり2900コルナの部屋が取れたのか、それとも部屋があると最初言った手前スイートを2900コルナで提供してくれるのかは不明である。確認するべきなんだろうが、15通近くに及ぶ英文メールのやりとりですでにへとへと。

さあ、用意されている部屋はスタンダードなのかスイートなのか?
ホテルはすぐ見つかった。広場に面した3つの建物を中で繋いであるようだ。
そして、ラッキーなことに部屋はスイートだった。レセプションのある建物から奥に抜け、雰囲気のある中庭に建つ別個の建物だったのだ。外側にあるドアのプレートは3〜4部屋ごとにひとまとめ。鍵で開けると、小さなロビーがあってそこに各部屋のドアがある。何だか住人になったみたいで素敵。一泊だけなのが残念だわ。
部屋はすごく広いけど一室だけなので、スイートルームという定義には当てはまらないとは思うけど。アメニティもいっぱいあるし、バスルームは最新式のピカピカに改装されている。衛星TVまである。中世の雰囲気を残したまま、快適に整えられてるって感じ。

微妙に意匠は違うものの、チェコの広場はそれぞれに可愛い。正面の茶色とクリーム色の建物が今日の宿。もう1棟、右側に連なっている。こういう形式のホテル、チェコには多いみたい

こんなに可愛い中庭を抜けて、宿泊棟に。薪のかまどが気に入った

部屋の写真なんて滅多に撮らないんだけど、可愛かったから…。写ってないけど手前に大きなソファもある。一泊なのが勿体ない

窓の外は、こんな

さて、夕食に行こうか。今日はなんだかモリモリ食べられそうな気分。昼間、暑くなかったからかな?

肉は飽きたゾ、そろそろ魚が食べたいッ!

ヨーロッパの人たちって、暑い寒いとかに関してとっても素直。暖かければ冬でも半裸になり、外のテラス席もいっぱい。寒いと思えば夏でもアノラックを着込み、テラス席にだって誰も座らない。最近は曖昧になってきたけど、日本人特有の「衣替え」とか「季節感」とかの感覚からは程遠い。私は、日本の季節感の感覚、好きだし大事にしたいけどね。秋になれば麻は着ないし、寒くても4月にコートは着ない。着物を着るヒトであったなら、桜柄は早春にしか着ないし、秋には菊の模様の帯を締めることであろう。

脱線したが、そういうワケでこんな涼しい日の夕刻には、外のテラスで食事をする人は誰もいない。テラスに人がいると、客層やメニューの種類が観察出来ていいんだけどな…。
しばらく迷った。目星をつけた居酒屋風の店は満席。結局、この町唯一の5つ星ホテル(と同経営の3つ星ホテル)のレストランにした。リーズナブルでそこそこ美味しいんじゃないかと踏んだのさ。

店内は中世風で、天井が高く広々としていた。テーブルについてまずビールをオーダー、じっくりメニューの検討を始める。
奥には40人くらいの日本人ツアーがいた。昼間の観光では、連なって歩いているツアーは各国人がいるが、ディナーの席で団体で皆同じモノを黙々と食べているのは、欧米人では見かけない。そういう場に身を置いたこと一度もないんだけど、やっぱり奇異に映るんです…。だいたい、団体行動キライだしな、私。だからフリーランスなんかで仕事してるわけだけどさ。
まあ、そんなこたぁ別にどうでもいいや、人は人。再びメニューの検討に入る。

ところが、ちょうどツアーの方々の食事が終わった頃のようで、添乗員の「明日の予定」の説明が大音量で開始された。いや、もう、これが、高い天井に反響してガンガンに響くこと! で、日本語なもんだから、BGMだと流せずに、言葉が逐一頭に入ってきちゃうんである。「明日7時にモーニングコールが鳴る」だの「8時には朝食終えてロビーに集合」だの「荷物は8時過ぎにバスの運転手が取りに来る」だの「城を見学後、1時間のフリータイム」だの聞こえてきちゃって、目と意識はメニューのアルファベットを上滑りするばかり。

オーダーを聞きに来るウェイターに、いつもは2回程度しか言わない「moment please」を5回も言ってしまった。ごめんね、時間かけて悩んだクセに3品しかオーダーしなくて。ビールはいっぱいお代りするからね。

まず、玉ねぎのスープ。「ひとつ」と言ったら「ひとつでいいのか?」と言われたが、置かれた器の大きさを見て、2種類頼んでもよかったと思った。ヨーロッパで飲むスープは、熱々ではないので猫舌の私にはありがたい。
製本されたメニューとは別に、「季節のおススめ」みたいな紙ペラも1枚あり、その中からホワイトアスパラガスと卵のサラダも頼んだ。最近の日本では缶詰以外ではほとんど見かけない白アスパラ、ドイツやフランスでは「春を告げる風物詩」の食材なんである。チェコでもそうなのかな?

メインはマスの蒸し焼きにした。内陸国だから海の幸には期待出来ないけど、マスなら大丈夫でしょ。南ボヘミアでは養殖も盛んだっていうし。
巨大なアルミホイルの包みがどーんと乗ったデカイ皿が置かれた時は、一瞬ビビった。この大きさでは、ホイルを開くとマスが3匹くらい入っているかもしれない……ヨーロッパではよくあるコトである。でも、魚なら肉よりは対処しやすいし、蒸し焼きなら味つけも淡白じゃないかな…?? ドキドキしながら包みを開けると、マスは1匹のみで残りは全部温野菜だった。やったー! 美味しそう〜ッ!

油揚の赤だし味噌汁みたいに見えるが、浮いているのはパン。チーズ抜きのオニオングラタンスープみたい。玉ねぎを飴色になるまで炒めてないのと、チーズのない分サッパリしている

少なく見えるが深皿なので食べても食べても減らない。白アスパラは日本で見かけるグリーンアスパラの3倍の太さがあり、とろける柔らかさがたまらない。ドレッシングもあっさり風味

久々の魚も美味しかったが、てんこ盛りの温野菜がとにかく嬉しかった! 魚の風味と野菜の甘味が混じりあって、ビネガーもオイルも使わなくても充分美味しい。日本の水っぽい野菜に比べて、本来の持つ滋味がぐっと濃い感じ。
あー、今日はホントにいっぱい野菜を食べたーッ!!

ホテルのレストランだし、ビールも3杯もお代りしてしまったし、魚料理は肉料理より若干高めなせいもあって、食後のコーヒー含めて550コルナ。それでもプラハ市内の店よりはひと回り安い。

ホテルはレストランの斜め前だが、静かな夜の町を少し散策してみることにした。ドレスデンでは塔の間から三日月が昇るのを見た。1週間後の今夜の月はラグビーボールの形をしている。チェコ入りして初めて、肌寒く感じる夜。人通りも少ない。Gジャンを羽織っているが、だんだん歯がガチガチしてきた。ホテルのバスタブは、深くて肩まで浸かれそうだったね。ゆっくりお風呂に入って疲れを取ろうか。

夜空に浮かぶチェスキー・クルムロフ城。ライトアップの光を反影してか、濃紺の空の雲模様が幻想的

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